下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

有安杏果 Pop Step Zepp Tour 2019東京千秋楽1日目@Zepp Tokyo

有安杏果 Pop Step Zepp Tour 2019東京千秋楽1日目@Zepp Tokyo

公演日 2019年8月13日(火)
会場
Zepp Tokyo 会場マップ
券種・料金 1F指定席 ¥7,020(税込) / ¥6,500(税抜)
2F着席指定席 ¥7,560(税込) / ¥7,000(税抜)
開場時間/開演時間 18:00 開場 / 19:00 開演
出演者 有安杏果
★Band Member
G:福原将宜 / B:山口寛雄 / Dr:玉田豊夢 / Key:宮崎裕介

本編
1.ヒカリの声
2.TRAVEL FANTASISTA
3.夏想い
4.feel a heartbeat
5.虹む涙
6.歌うたいの歌バラッド[斎藤和義] ご当地カバー
7.心の旋律
8.色えんぴつ
9.Runaway
10.Drive Drive
11.遠吠え
12.愛されたくて
13.Catch Up

アンコール
14.逆再生メドレー
15.小さな勇気

 有安杏果の魅力が詰まりに詰まったライブであった。本編は一部の隙も見せず完璧な仕上がりということにとどまらず歌声と小さな身体から生まれる躍動感をあやつり、バンドが繰り出す音楽と見事なまでに戯れてみせる。ツアー前半の東京公演でもももクロ時代のソロコンとはまるで違う達成度を見せてくれたが、この日はこのツアーを通じて一層の洗練を見せた例えば歌声であれば最初の「ヒカリの声」のラストのロングトーンから、音楽の楽しさが弾むような「TRAVEL FANTASISTA」、「虹む涙」で見せた魂を注ぎ込むようなせつない歌声までそれぞれの歌に合致した表現の広がりが半端なかった。
 特にやはりこれが有安杏果だとなと改めて再認識させられたのが、本編ラストの「遠吠え」「愛されたくて」「Catch Up」の3曲での杏果のダンスと歌声。「遠吠え」の歌い方が復帰ライブなどと比較しても一層の進歩を遂げていることはツアー前半に見たライブですでに分かっていたが、この日はその歌に身体の中から湧き出すように動くダンスの動きが加わり、さらにバンドとの掛け合いなど杏果自身が音楽そのもののように感じさせた。ここでの杏果の動きを「ダンス」という風に表現したが、この場面一応動きの基になった振り付けはあるのかもしれないが、ジャズの演奏が元となった楽曲から自由でいて、それでもその楽曲を表現しているように杏果は動きは音に触発されて、即興のように奔放にそれでも楽しさに溢れている。きっと本人が一番楽しくて仕方ないんだと思う。これはEXGPとももクロをへた杏果だからこそ辿り着けた境地であり、単なる歌姫を超えた有安杏果最大の武器になっていくんじゃないかと思った。
 そして、これほど素晴らしいパフォーマンスを見せながらそれだけでは終わらない。完璧に仕上げた大人のパフォーマンスが崩れて一転脆さを見せたのがアンコール最後の「小さな勇気」である。たったひとりでのピアノの弾き語りで見せるのだが、ピアノの演奏に途中で狂いが生じたようで一度目の演奏で途中で止まってしまい、その瞬間悔しさのあまりの感情の発露か泣き出してしまい、もう一度やり直すはめになったのだ。この部分は杏果が本当に悔しくて悔しくてたまらないだろうし、観客の中からもプロなら弾き直しなどせずに演奏に狂いが生じても誤魔化す、手立てを講ずるべきだとの厳しい声も上がっており、それはもちろん事実だし杏果がそのことを一番分かっているはずだ。
 ただ、私が言いたいのはそういうことではなく、この人は昔からこんな感じだし、この途轍もない素晴らしさと思わぬ脆さの混合(アマルガム)こそが有安杏果の魅力だった。本人がいくら不本意でもそれはいまでも健在なんだと分かった。杏果に甘いと非難されたとしてもその瞬間、私の心の一番柔らかいところがぎゅっと鷲掴みされたように感じた。有安杏果という人の恐ろしさである。

simokitazawa.hatenablog.com
simokitazawa.hatenablog.com