下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

青年団リンク 世田谷シルク「工場 」@こまばアゴラ劇場

青年団リンク 世田谷シルク「工場 」@こまばアゴラ劇場

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脚本・演出:堀川炎


私たちの国では、生産性と論理的思考に多くの時間が割かれ、感情は希薄になっています。
この作品ではトアル国からやってきたトアル人の視線を通じて、集団の中にいたときには分からない、息苦しさを伴う無意識のもがきを俯瞰する内容です。といってもお話はシンプルで、移民が馴染みのない国の工場で働くというものです。

青年団リンク 世田谷シルク「工場 」@こまばアゴラ劇場

2008年立ち上げ。劇団山の手事情社の研修卒業生4名で立ち上げたカンパニー。「くすっと笑えるアート」と称し、日常に突如入り込む奇妙な状況を、コミカルに描く。2016年以降は「野外劇場」・「児童演劇」・「国際共同制作」を主軸とし、瀬戸内国際芸術祭やアヴィニヨン演劇祭フリンジ、パルTAMAフェスなど、フェスティバルを中心に活動。またインドやスウェーデンのカンパニーとの児童演劇の共同制作をしている。演出家は青年団演出部にも所属し、海外でのオペラ研修を経るなど活動の場を広げている。

出演

石川彰子、中藤奨(以上、青年団)、堀川炎(世田谷シルク)、大迫健司、荻野祐輔、代田正彦(★☆北区AKT STAGE)、中島有紀乃

スタッフ

脚本・演出・チラシデザイン:堀川 炎(世田谷シルク/青年団)、演出補:早坂 彩(青年団
演出助手:福井 花(青年団)、海野広雄(世田谷シルク)、制作:金城七々海
舞台監督:土居 歩、音響:佐久間修一、照明:阿部将之(LICHT-ER) 、
舞台美術:鈴木健介(青年団)、写真:三浦雨林(青年団)、映像:畑中涼真
メンバー:佐藤優子、武井希未

芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

 どこかの国の地方にある工場を舞台にした現代口語演劇。ここに「トアル国」からやってきた外国人労働者がやってくることで、集団の中に起こるさざ波をこみかりな要素を絡めながら描きだしていく。
 世田谷シルクの舞台は以前にも見たことがあるが、これまで見た青年団リンク 世田谷シルク日瑞共同制作『ふしぎな影』などはパフォーマンス系の作品であった。演出家の堀川炎が山の手事情社の出身ということもあって、こうした系列の身体表現を重視した作品が本領だと思い込んでいたのだが、今回のような平田オリザ流の現代口語演劇もこなせるふり幅の広さがあるのだということを知って少し驚いた。
 こうした移民の問題は現代日本ではビビッドな問題となっているが、この作品は舞台を日本ではなく、日本に似たどこかの国としていることやそれに伴い移民労働者の国籍などもぼかしたものとしていることなどもあり、現実に日々起こっているであろう労働現場のリアリティーがやや持ちにくいような作品になってしまっていると感じられた。
 そもそも労働者が語学の研修も通訳もつけずに労働現場に放り込まれて、まるでコミュニケーションがとれないというのは状況がもっと抽象化されたケラ的なナンセンス(不条理)劇のなかならともかく、実際に起こることは非常に考えにくいのではないか。来日労働者とのディスコミュニケーションが現場で起こるとすれば単純に言葉ではないレベル(階層)における齟齬ではないかと思うがどうだろうか。
 さらに言えばLGBTの扱いが相当以上に雑であるのも気になった。当日パンフの堀川の文章によれば海外において外国人(インド人)に問われた「それが女性の幸せなのになぜ結婚して子供を育てないか」を聞かれた時の衝撃がこの作品の制作の動機であるとするとそうした価値観とゲイでもある人がそういう発言もするということの矛盾などが作中にあるわけだが、もう少しデリケートにそのあたりを扱わないときちんと作品の意図が伝わりにくいのではないか。少なくとも私には見ていてかなりの違和感が残ってしまった。
 俳優の演技には見るべきものがあった。戯曲部分での違和感を指摘したが、それでも作品自体は退屈せずに見ることができたのは俳優の力によるところが大きいのではないかと思う。なかでも移民役を演じた代田正彦の人物造形はとても印象的で見るべきものが多かったと思う。