下北沢通信

中西理の下北沢通信

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PARCOプロデュース2019『転校生』(女子校版)@紀伊国屋ホール

PARCOプロデュース2019『転校生』(女子校版)@紀伊国屋ホール

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若手俳優発掘プロジェクト・舞台『転校生』!
高校演劇のバイブル、平田オリザの戯曲「転校生」に21世紀に羽ばたく男女42名の俳優たちが集結!!あなたがその最初の目撃者になる。

あらすじ


ある高校の教室。普段と変わりない1日の始まり。他愛のない日常の会話。そこへ、「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」と言う、転校生がやってくる。身近で起きている出来事をとおして、人間の存在の不確かさが浮かび上がる21名の群像劇。

キャスト・スタッフ


脚本:平田オリザ
演出:本広克行

出演


21世紀に羽ばたく21人の女優たち

愛 わなび 天野はな 上野鈴華 小熊 綸 金井美樹 川﨑 珠莉 川嶋 由莉 齋藤 かなこ 榊原 有那 指出 瑞貴 里内 伽奈 澤田 美紀 田中 真由 西村 美紗 根矢 涼香 羽瀬川 なぎ 廣瀬詩映莉 藤谷理子 星野 梨華 増澤 璃凜子 桃月 なしこ

 4年前の上演ではかなり規模の大きな劇場での三方囲みの舞台とあってリアルタイムで撮影した映像をそのままスクリーンに映すなどのメディアミックスな演出がなされていたが、今回は一転してプロセミアムな劇場を意識してのオーソドックスな演出に徹したものとなった。 
 「転校生」という作品がいかなる作品かについては前回公演の際に詳細なレビューを書いた(下記参照)が、今回の舞台で特筆したいのはヒロインともいえる転校生役を演じた天野はなのたたずまいである。

舞台となるのは21人の女生徒のいる教室。ここにひとりの転校生がやってくるところから舞台は始まる。この転校生は「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」という不条理な存在でこれは明らかに劇中でも何度も会話のモチーフとなっていたカフカの「変身」が下敷きになっている。平田の作劇のもうひとつの特徴は劇で描かれる世界がそのまま「世界の写し絵」となっていること。この場合、明らかにここで描かれていく教室はただの教室ではなく「私たちが住むこの世界」のメタファー(隠喩)となっている。一見たわいない女生徒らの会話に擬態しているが、ここで交わされる会話はそれぞれが私たちがこの世界を自分自身で考えるときの一助となるような内容でもあり、それを通じて観客はそれぞれ世界とはどのようなものかを考えることになる。これがこの作品に仕組んだ平田の仕掛けである。

 最初に登場した時の彼女は存在感のオーラもあまりなく地味な印象。正直言って「この子がヒロイン役でこの舞台持つのかしら」とさえ思ったほどだ。おどおどしているのはまあ演技だろうと分かったが、立ち振る舞いも、何となくパッとしない。
 今回のキャストは高倍率のオーディションを勝ち抜いてきた猛者どもであるし、その中には一瞬見た印象だけで「これは来るかもしれない」と思わせる子も何人かいる。そういう中に交じったら確かに彼女は見劣りするように見えたのだ。
 ところがこの天野はなという女優が面白いのは場が進み、周囲の女生徒との関係が親密になってくるのに従って、俄然その存在が輝きだしたことだ。
  この「転校生」という芝居は登場人物が21人と大人数だし、平田オリザ作品なので同時多発の会話も縦横無尽になされ、誰がどういう人ということを一度の観劇でつかむのは困難を極める。しかも、今回は「幕が上がる」組が何人か参加していた前回公演とは異なり、名前を知っている出演者がほとんどいなかった。そのため、転校生役の 天野の存在は視線の片隅では感じながらも、最初の方は唯一の「幕が上がる」組(映画のみ参加)の金井美樹佐々木敦史の事務所所属ということで知った廣瀬詩映莉を探そうと目で追っていたのだが、気がついた時には天野を見続けていた。次第に目が離せなくなってきたのだ。
 舞台に彼女ひとりが残されたラストでは彼女はヒロインそのものに見えた。
 この天野はなという女優をヒロインに抜擢した本広克行らスタッフ。さすがに慧眼であると思ったのである。

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