下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

夏の日の本谷有希子「本当の旅」@原宿VACANT

夏の日の本谷有希子「本当の旅」@原宿VACANT


作・演出 本谷有希子 (『静かに、ねえ、静かに』講談社刊より)

出演:
石倉来輝、今井隆文、うらじぬの、大石将弘、後藤剛範、島田桃依、杉山ひこひこ、富岡晃一郎、福井夏、町田水城、矢野昌幸

会場:VACANT

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-20-13

ラインやインスタグラムなどSNSで知り合った男2人、女1人の仲良しグループがマレーシアに旅行に出かける。それを3人の役柄を3組9人の俳優が次々と交代して演じていく。物語は3人が成田空港(羽田空港かもしれない)で待ち合わせをしている場面から始まり、ロードムービー風にネットにアップされたという体で旅日記が綴られていく。
 本谷有希子の舞台はこれまで何度か見たことはあったが、これまでの舞台はどちらかというとリアルな会話劇だった。それが突然、ロードムービー風という原作の制約はあったにせよ、同じ登場人物を次々と異なる俳優が演じ継いでいくというチェルフィッチュやマームとジプシー、ままごとを思わせる構造の舞台になっていて驚いた。とはいえ、それは前衛的なものとは言えず様式としては本谷よりも若い世代の演劇ではそれほど珍しくないことであり、ままごとの大石将弘、元無隣館で青年団系の若手劇団によく出演している矢野昌幸、あるいはしあわせ学級崩壊に出演していた福井夏ら私がよく見る有力若手劇団の公演では欠かせないようなキャストを集めての公演であるだけに見ていてそれほど違和感を感じるということはなかった。
 ただ、マームとジプシーやままごとなどと比べた時に本谷の特色は現実世界に対するシニカルな観察眼であろう。本谷の目はインスタ映えに興ずる3人組と同化することはなく、彼らの行動には皮肉な目を向けている。結局のところ彼ら3人は海外旅行に出てもネット上ですでに調べているインスタ映えの拠点をめぐるだけで未知なる経験をすることは最後に道行を除いてはない。そして、彼らが真の未知に出会った時には彼らはタクシー運転手と共犯者の2人組の追剥に襲われておそらく命を落としてしまうことになったからだ。
 ロードムービー風に旅を描いた作品といえば最近ではこの作品のキャストである大石将弘も出演していたままごと「ツアー」がある*1やみくろという謎の怪物に追いかけられる場面はあるが、登場人物に害をなすような悪人は出てこない。一方、本谷有希子は最終的には登場人物を殺害してしまうような人物の存在も描き出そうとしている。こういう悪意の存在を本谷は描き出すしそれが後続世代との大きな違いではないかと思う。

静かに、ねぇ、静かに

静かに、ねぇ、静かに