下北沢通信

中西理の下北沢通信

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DULL-COLORED POP第20回本公演「福島3部作・一挙上演」@東京芸術劇場

DULL-COLORED POP第20回本公演「福島3部作・一挙上演」@東京芸術劇場

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 東日本大震災ならびに福島第一原発の事故を巡る問題は単純に原子力発電所を「絶対悪」として描いて糾弾する内容のものが多く、住民の多くが反対しているのに政治の力で原発政策が強行されたからこんなことになったというようなステレオタイプな「反原発劇」が多かった。今回の三部作がそうならなかったのは、 谷賢一は福島県の出身であり、当事者といえなくもないからというだけでなく、やはり平田オリザの薫陶が大きいのではないかと思う。
 DULL-COLORED POP の「1961年:夜に昇る太陽」は全体を3部構成とし、福島と原発の誘致決定から3・11での原発事故発生までの50年の歴史を振り返ることで福島第一原子力発電所の事故がなぜ起こったのかに切り込んでいく。
 実はこの日に三部作のすべてを一挙に観劇する予定だったが、所用が長引き、第1部を観劇することはかなわず、第2部、第3部だけを見ることができた。ただ、第1部は初演時*1に観劇してはおり、ここでは三部作全体について語ることにしたい。第1部は原発双葉町が誘致することになる経緯が原発用地の土地を東京電力に売却することになる家の兄弟たちの目によって語られる。
 第2部で語られるのは福島第一原発が建設・稼働し、15年が経過した1985年の双葉町である。公金の不正支出がきっかけとなり、20年以上務めてきた田中町長が辞任。かつて原発反対派のリーダーとして活動していた穂積忠は町長選挙への出馬を依頼される。しかし、それには条件があってそれはそれまで掲げていた「原発反対」の旗印を捨てて、原発推進派として立候補するということだった。忠は悩んだ末にそれを引き受けるが、町長就任後わずか数カ月にしてそしてチェルノブイリの事故が起こる。
 福島原発の地元自治体である双葉町長がもともと原発反対の市民運動家だったのがなぜ逆に「原発は安全だ」というスローガンをチェルノブイリ後も主張する強固な原発推進派になったのか。これは転向などと表現されることも多いが、谷はこの間の町長側のロジックを原発関係によくあるある立場からの価値判断によらずにできるだけ事実に寄り添う形で提示してみせる。
穂積町長のロジックはそれなりに説得力はあった。それは原発の利権にずぶずぶの候補よりももともと原発反対派であり、原発の危険性についてよく知る穂積が町長になり、立地自治体の長として東京電力原発の安全性を高めることについての意見を具申し続けることが、結果的に原発のリスクをより低減することにつながるという論理で、自民党議員秘書のこの提言を受けて、町長への立候補を決めるのだ。
 ところがチェルノブイリの事故を受けて、今度は原発の即時停止について提言しようとした際にもし原発に危険性が少しでもあるのなら、なぜそのことを知りながら原発を容認し続けていたのかとの問いを受け、結局自らの見解に反して「原発は安全だ」と連呼することしかできなくなってしまうという顛末が描かれている。実は第三部にも東日本大震災の病院に入院している老人として再登場するが、彼は原発のことについてはついに何も語らぬままに死んでいく。それゆえ、これが事実の通りとすればチェルノブイリや福島第一の事故のそれぞれの局面で町長が本当はどんな風に考えていたのかは本当は本人にしか分からないはず。第二部で紹介されたロジックは様々な取材を基に再構成されたものだ。世間によくある見解では原発事故の責任は一義的には事故を起こした東京電力にあるが反対派から原発推進派に転向した双葉町長にも大きな責任があり、それは糾弾すべきことだという「双葉町長悪人説」に組しがちだが、例え町長自身が善意の人であったとしてもそういう個人の資質とは無関係にそういうことになったのではないかとの仮説を劇中で提示。観客それぞれがそれをどのように考えるかというのを問いかけている。

DULL-COLORED POPでは2019年夏、谷賢一が3年間かけて取材・構想・執筆を行う「福島3部作」の一挙上演を行います。

 私の母は福島の生まれで、父は原発で働いた技術者だった。私自身も幼少期を福島で過ごし、あの豊かな自然とのどかな町並みが原風景となっている。
 原発事故はなぜ起きてしまったのか? 政治・経済・地域の問題が複雑に絡まり合い、簡単に答えが出せない問題だ。しかし、だからこそ演劇でなら語れるのではないかと思った。異なる意見を持つ者たちが出会い、言葉を戦わせ合うのが演劇だ。答えを示すことよりも、問いを強く投げかけるのが演劇だ。演劇でなら語れる、「なぜあの事故は起きてしまったのか?」
 2年半に渡る取材成果を三部作・三世代の家族の話として紡ぎ直し、人間のドラマとして福島と原発の歴史を問い直したい。

第一部『1961年:夜に昇る太陽』

 1961年。東京の大学に通う青年・<穂積 孝>は故郷である福島県双葉町へ帰ろうとしていた。「もう町へは帰らない」と告げるために。北へ向かう汽車の中で孝は謎の「先生」と出会う。「日本はこれからどんどん良くなる」、そう語る先生の言葉に孝は共感するが、家族は誰も孝の考えを理解してくれない。そんな中、彼ら一家の知らぬ背景で、町には大きなうねりが押し寄せていた……。
 福島県双葉町の住民たちが原発誘致を決定するまでの数日間を、史実に基づき圧倒的なディテールで描き出したシリーズ第一弾。

出演: 東谷英人、井上裕朗、内田倭史(劇団スポーツ)、大内彩加、大原研二、塚越健一、 宮地洸成(マチルダアパルトマン)、百花亜希(以上DULL-COLORED POP)、阿岐之将一、倉橋愛実

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第二部『1986年:メビウスの輪

 福島第一原発が建設・稼働し、15年が経過した1985年の双葉町。公金の不正支出が問題となり、20年以上に渡って町長を務めてきた田中が電撃辞任した。かつて原発反対派のリーダーとして活動したために議席を失った<穂積 忠>(孝の弟)は、政界から引退しひっそりと暮らしていたが、ある晩、彼の下に2人の男が現れ、説得を始める。「町長選挙に出馬してくれないか、ただし『原発賛成派』として……」。そして1986年、チェルノブイリでは人類未曾有の原発事故が起きようとしていた。
 実在した町長・岩本忠夫氏の人生に取材し、原発立地自治体の抱える苦悩と歪んだ欲望を克明に描き出すシリーズ第二弾。

出演:宮地洸成(マチルダアパルトマン)、百花亜希(以上DULL-COLORED POP)、 岸田研二、木下祐子、椎名一浩、藤川修二(青☆組)、古河耕史

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第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

 2011年3月11日、東北全体を襲った震災は巨大津波を引き起こし、福島原発メルトダウンに追い込んだ。その年末、<孝>と<忠>の弟にあたる<穂積 真>は、地元テレビ局の報道局長として特番製作を指揮していたが、各市町村ごとに全く異なる震災の悲鳴が舞い込み続け、現場には混乱が生じていた。真実を伝えることがマスコミの使命か? ならば今、伝えるべき真実とは一体何か? 被災者の数だけ存在する「真実」を前に、特番スタッフの間で意見が衝突する。そして真は、ある重大な決断を下す……。
 2年半に渡る取材の中で聞き取った数多の「語られたがる言葉たち」を紡ぎ合わせ、震災の真実を問うシリーズ最終章。

出演:東谷英人、井上裕朗、大原研二、佐藤千夏、ホリユウキ(以上 DULL-COLORED POP)、 有田あん(劇団鹿殺し)、柴田美波(文学座)、都築香弥子、春名風花、平吹敦史、森 準人、山本 亘、渡邊りょう

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スタッフ

作・演出:谷賢一 美術:土岐研一 照明:松本大介 音響:佐藤こうじ 衣裳:友好まり子 舞台監督:竹井祐樹 演出助手:美波利奈 宣伝美術:ウザワリカ 制作助手:柿木初美・德永のぞみ・竹内桃子(大阪公演) 制作:小野塚央

【助成】セゾン文化財団 【東京公演】助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、芸術文化振興基金 【大阪公演】芸術文化振興基金 【福島公演】主催:いわき芸術文化交流館アリオス  【東京・大阪公演】主催:合同会社 DULL-COLORED POP
東京公演
日程

8/08(木)~11(日) 第2部上演
8/14(水)~18(日) 第3部上演
8/23(金)~28(水) 第1部~第3部連続上演!

受付は開演の45分前、開場は開演30分前。
8月 8(木) 9(金) 10(土) 11(日)
19時 第2部 19時 第2部 13時 第2部
18時 第2部 13時 第2部
18時 第2部
12(月) 13(火) 14(水) 15(木) 16(金) 17(土) 18(日)
休演日 休演日 19時 第3部 14時 第3部
19時 第3部 19時 第3部 13時 第3部
18時 第3部 13時 第3部
18時 第3部
19(月) 20(火) 21(水) 22(木) 23(金) 24(土) 25(日)
休演日 休演日 休演日 休演日 13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部  13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部 13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部
26(月) 27(火) 28(水)
13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部 13時 第1部
16時 第2部
19時 第3部 11時 第1部
13時半 第2部
16時 第3部 
終演後イベント

トークディスカッション】
8/9(金)、8/16(金)、8/23(金)19時の回 終了後
公演終了後、作・演出の谷賢一と作品内容について語り合うトークディスカッションを開催します(参加自由)。この作品が皆様にどう響いたか、お聞かせ下さい。

【アフタートーク
8/08(木)19時 永井愛(劇作家・演出家・二兎社主宰)
8/10(土)18時 白井晃(演出家・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督)
8/17(土)18時 大森真( 元テレビユー福島報道局長/現飯舘村職員 )
8/25(日)19時 長塚圭史(劇作家・演出家・俳優/阿佐ヶ谷スパイダース
会場:東京芸術劇場シアターイース