下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

iaku「あつい胸さわぎ」@こまばアゴラ劇場

iaku「あつい胸さわぎ」@こまばアゴラ劇場

作・演出:横山拓也
階段しかないマンション。古い間取りの3DK。散らかったダイニング。明日も履くジーパンが脱いだ形のまま放置されている。未開封のダイレクトメール。二年前のままのアロマスティック。トーストの粉がついたマーガリン。終わらない課題。持ち帰った仕事。インクが切れたボールペン。ミシンの音がうるさい。飲みかけのペットボトルと食べかけのビスケットは捨てていいのかダメなのか。ダイレクトメールの束に、再検査のお知らせが混ざっていることにも気づかないような、だらしない娘と母の二人暮し。だけど、今、二人は恋をしている。はじめての恋と、二十年ぶりの恋。高鳴る胸が騒がしい。


劇作家・横山拓也による大阪発の演劇ユニット。緻密な会話劇が螺旋階段を上がるようにじっくりと層を重ね、
いつの間にか登場人物たちの葛藤に立ち会っているような感覚に陥る対話中心の劇を発表している。
間口の広いエンタテインメントを意識しながら、大人の鑑賞に耐え得る作品づくり、繰り返しの上演が望まれる
作品作りを心掛け、全国で再演ツアーを精力的に実施。



前回公演「逢いにいくの、雨だけど」2018年
撮影:木村洋一

出演
辻凪子、枝元萌(ハイリンド)、田中亨(劇団Patch)、橋爪未萠里(劇団赤鬼)、瓜生和成(小松台東)
スタッフ
舞台美術:柴田隆弘
舞台監督:青野守浩
照明:葛西健一
音響:星野大輔(サウンドウィーズ)
演出助手:朝倉エリ
ドラマトゥルク:上田一軒
文芸協力:カトリヒデトシ
宣伝美術:下元浩人(EIGHTY ONE)
チラシヘアメイク:田沢麻利子
映像収録:堀川高志(kutowans studio)
宣伝:吉田プロモーション
制作協力:徳永のぞみ、高村楓
制作:笠原希(ライトアイ)

助成:芸術文化振興基金助成事業、公益財団法人アサヒグループ文化財団、大阪府芸術文化振興事業

 よく出来た演劇作品で今年の収穫に複数の評者が取り上げるだろう舞台。演者の演技も素晴らしい。
いい演劇だとは私も思う。
 だが、こういう作品を見せられてしまうとつくづく私は普通によく出来た演劇に興味が湧かないのだなと思ってしまう。演劇表現として「なんじゃそれ」と思うような引っ掛かりが全然ないのである。こういう作品を高く評価する人は沢山いるだろうなとは思う。見ていても楽しく見られるし、会話の中には本当にうまいなと思うところも多い。特段、指摘すべき欠点もないのだが、興味がないのだ。
 こういう作品を見てしまうと私は演劇評論家としては不適なのかなとも思ってしまう。たぶん、これ以上この作品について書くことは作品に対して不適切なのだろうと思えてきた。誤解のないようにもう一度書く。いい演劇なのだ。しかし、結局私が演劇の表現に求めているのはこういうものと無縁なものなんだということが、分かったのである。
 以前は芸術にとっては形式がすべてで「内容になどはまったく興味がない」などと公言していた時期もあった。まるでチェホフの「かもめ」に出てくるトレープレフのセリフのようだが、もちろんこれは言いすぎで。本当に興味があるのは形式と内容がどのように関係するかということだ。
 つまり、これまでに誰もとりあげたことのない新しい問題を取り上げるにはそれに合致した表現形態が必要で青年団平田オリザチェルフィッチュ岡田利規はそういう意味で刺激的な作家だったのだ。iakuの作品は演劇の伝統に根ざした非常に良く出来た作品だが、残念ながら私にはそういう意味での実験性は感じられないし、それはiakuの作品にはなくてもいいのかもしれないとは思う。ただ、そういう作品には私はあまり興味を持てないということだ。ただ、最近の舞台作品には実験のための実験に思われ、内容と形式の関係についての思考がなされていないと見える作品も多く、そういうものはだめだとも思う。