下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

きたまり/KIKIKIKIKIKI グスタフ・マーラー交響曲 第2番ハ短調“復活” @THEATRE E9 KYOTO

きたまり/KIKIKIKIKIKI グスタフ・マーラー交響曲 第2番ハ短調“復活” @THEATRE E9 KYOTO

f:id:simokitazawa:20190921184037j:plain
 ダンサー・振付家のきたまりによるマーラー交響曲全曲にダンスを振り付けるという壮大なプロジェクトの第4弾。
 世代の違う3人の女性ダンサーの競演。それぞれダンサーとしての出自も異なるから、全体としてはダンスが変容しながら受け継がれていくという日本におけるコンテンポラリーダンスの歴史を視覚化した作品のようにも感じられた。
 冒頭からの第一楽章の部分は山田せつ子のソロダンス。そのうち、前半部分は客席に相対し正面を向いた山田が完全に静止しているというのではないけれど手や腕の小刻みな動きのみで終始する。山田は舞踏の笠井叡の弟子でいわゆる白塗りのような舞踏の様式で踊ることは滅多にないが、舞踏における第二世代*1と言ってもいいだろう。
一方、きたまりは京都造形大舞台芸術学科の一期生で、当時そこでダンスを教えていた山田せつ子の愛弟子といえるのだが、造形大では山海塾の岩下徹の教えも受けた。さらに言えばもともとダンスを始めた時に師事したのが元白虎社の由良部正美であり、その後はダンスシアターdBを率いる大谷燠(土方巽直系の北方舞踏派出身)であるという直系師弟関係の強い舞踏系の踊り手の中では特異ともいえるハイブリッドな存在となっている。
 今回はこの教え子であるきたまりの振付により、グスタフ・マーラー交響曲 第2番の第一楽章を山田せつ子がソロで踊り、これは30分近くあったからそれだけでもかなりの見ごたえがあったかもしれない。マーラーの壮大ともいえる楽曲にほとんどミニマルと言ってもいいような動きの少なさで拮抗していくのは舞踏的なメソッドで鍛え抜かれたダンサーだからこそ可能なことで、そういう意味できたまりの振付は山田せつ子ならそれができると信じて委ねているわけだが、終了後山田に確かめたところ、振付自体はタイトかつ厳密なもので即興や微細な動きの処理以外で山田が振りを作った部分はなかったという。確かに特に前半の前を向いただけでここまで動かないというのは山田せつ子の普段のソロダンスや師匠筋の笠井叡にはほとんど見られないもので、土方、大野一雄*2の系列のものではないかと思った。第一楽章の後半になると少し曲想が変化したのにともなって、今度は山田は横向きになって座るような姿勢となり、ゆるやかに舞うような動きを見せ始める。この辺りの動き、口頭で説明するのはかなり難しいのだが、全体として目が離せないほどダンスそのものの魅力に溢れていて、全体を再演するのは難しいだろうから、この部分だけでもソロダンスとして独立させて上演してくれないだろうかと思った。
 第二楽章はきたまりと斉藤綾子が出てきてのデュオでのダンスとなる。ほぼ同じ動きを二人で踊るのだが、斉藤は舞踏の経験はなく、基本的にバレエ系のコンテンポラリーダンスのテクニックと動きとなり、さらにきたまりと並ぶとどうしても長身に見える斉藤と小柄なきたまりでは前に屈みこんで背中をまるめた姿勢ひとつをとっても身体の違いは明らかだし、動きのディテールも異なる。きたまりの振り付けが面白いのは音楽との関係で動きのタイミングなどはだいたい合わせてもそれ以上に値段ユニゾンの動きでの統一性は要求してないことだ。
 ユニゾンの動きが崩れてひとりづつの短いソロがあって、そこに退場していた山田も加わり、それぞれが前のダンサーの背中を追いかけ、サークルを描いて踊り出す部分はひとつのクライマックスと言ってよく、普通のダンスならここで終わってもおかしくないカタルシスが感じられた。

振付家・きたまりがグスタフ・マーラー交響曲を振付けし完遂するプロジェクト。

これまで2016〜17年に交響曲第1番「TITAN」、第7番「夜の歌」、第6番「悲劇的」を2017年夏に閉館したアトリエ劇研にて上演してきた。

今回は、2019年夏に開館したTHEATRE E9 KYOTOで交響曲第2番「復活」全楽章を使用し上演を行う。

コンテンポラリーダンスの第一世代とも言える舞踊家・山田せつ子、次世代を担うダンサー・斉藤綾子振付家・きたまり自身も出演し、世代の異なる三者の身体の響きと、ヴィジュアルアーティスト・仙石彬人がOHPで描く“TIME PAINTING”の中で、可視化され変容する「復活」をぜひご体感ください。

振付・演出:きたまり

出演:山田せつ子 斉藤綾子 きたまり

ヴィジュアル:仙石彬人[TIME PAINTING]

日時

2019年

9月20日(金)19:00
9月21日(土) 19:00
9月22日(日) 17:00

*開場は開演の20分前、受付は40分前より開始

公開リハーサル 9月19日(木)19:00

*開場と受付は開演の15分前より開始
*記録写真撮影あり

チケット料金

[自由席/日時指定/税込]

前売一般3,300円 当日一般3,800円

公開リハーサル1,800円(枚数限定・前売のみ)


マーラー: 交響曲 第2番 ハ短調「復活」バーンスタイン 1987

*1:コンテンポラリーダンスにおいては最初の世代と言ってもいい

*2:それぞれ違うが