下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

劇団 脳細胞公演『世界はあまりにも』@高円寺アトリエファンファーレ

劇団 脳細胞公演『世界はあまりにも』@高円寺アトリエファンファーレ

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舞台は台風の日の電話も電波も届かない閉ざされた山荘(別荘)。この場所に年に一度だけやってきて滞在する蜂蜜生産企業のオーナーとその妻子たち。山道で自家用車が故障し、この山荘に招かれざる客として滞在することになるサラリーマンの夫婦とその娘、息子。こうした道具立てはアガサ・クリスティーのミステリ劇を彷彿とさせる。推理小説好きの私としてはどうしても連続殺人が起こって、最後には意外な真相が明かされるようなミステリ劇的な展開を期待してしまう*1
 山荘の持ち主を狙う謎のストーカーの存在や何者かによって故意に切断された配電盤の電線の謎、後半突如訪問するシャンソン歌手の知人や日本を徒歩で縦断しようとしていると話す旅人など事件性を予感させるようないくつかの出来事がありながらも、そうしたミステリ的な謎解きだけには収まらないのがこの舞台の独自性といえなくもないかもしれない。
 後半、息子らによる狂言誘拐の犯行計画が出てきて、次はどうなるんだろうと思った直後に急転直下に物語は終末を迎えてしまう。これには「結局これはどういう芝居だったんだろう」と肩透かしに遭ったような感覚を覚えた。
 とはいえ、この舞台が不思議なのは舞台全体としてはところどころつっこみを入れたくなるような部分を含みながらも十分に楽しめることだ。「何で?」と思った結末も要するにこれは独善的な金持ち一家に一般人のサラリーマン家族が巻き込まれて、振り回されるコメディーなんだと考えればつじつまは合うのかもしれない。
 舞台美術も俳優の演技も丁寧に作り込まれていて、特に女優がキュートで魅力的、作品としては腑に落ちないところも満載ではあるのだが、再びこの劇団の舞台を見てみるチャンスがあったら、また見てみたいと思わせるところはあった。とはいえ、この舞台はやはり脚本に若干問題はあると思った。このくらいの完成度でウエルメイドのミステリ風演劇を作る実力があるのだとすれば原作ありで本格的なミステリ劇を作ったら相当面白いものが出来るのではないか。
 まったく、個人的な要望でいうなら以前からどこかやってくれないかと考えていた我孫子武丸「探偵映画」の舞台版、この劇団なら可能なのではないか*2

作・演出 いわたよしお 

日時 2019年 11月20日(水)〜11月24日(日)

会場 高円寺アトリエファンファーレ

出演

我妻美緒

天田和菓子

生島誠人

樫村ひろ子

熊手萌

夏野うみ

畑崎円

前橋孝平

山川竜也

弓谷仁志

渡辺大

探偵映画

探偵映画

*1:中盤以降登場する登場人物の登場の仕方などは「マウストラップ」などクリスティーの推理劇を思い起こさせるものだった。

*2:もし、本当に上演する気があるなら我孫子武丸は大学のサークルの後輩だから取り次ぐことも可能なのだが