下北沢通信

中西理の下北沢通信

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「隅田川 森羅万象 墨に夢」プロジェクト企画 柳生二千翔『アンダーカレント』@YKK60ビル AZ1ホール

隅田川 森羅万象 墨に夢」プロジェクト企画 柳生二千翔『アンダーカレント』@YKK60ビル AZ1ホール

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 観世元雅作の能「隅田川」などで知られるいわゆる「隅田川」ものを現代劇に翻案。青年団演出部の柳生二千翔(女の子には内緒)が思わぬ事故により息子を失った若い夫婦(石渡愛、埜本幸良)の物語に置き換えた。 
 古典の「隅田川」ものではほとんど母子となっていて夫の存在は限りなく薄い。現代に置き換えられた今回のバージョンには埜本幸良演じる夫も登場するが、夫が心を向けるのはあくまでも子供を失って壊れてしまいかけている妻のことだ。夫はあくまで直接息子に向かい合うというよりはあくまで妻を媒介としているように途中までは見えた。
 ところがただ気を紛らせるためにゴミ拾いのボランティア活動をしていたかに見えた川が「隅田川」でもあり、三途の川のように彼岸と此岸を分かつ境界であるということを見出したあとは妻=主、夫=従というわけでもないのだという「アンダーカレント」の構造に気が付いて作品にぐっと引き込まれた。
 出演者は皆よかったがやはり若い夫婦(石渡愛、埜本幸良)が目立つ。特に石渡愛は既婚者で子供を失った女といういままで彼女を舞台で見た時とはまるで違う役柄をみごとに演じていて、素晴らしかったと思う。

原案 能「隅田川」[観世元雅 作]
劇作・演出 柳生二千翔(女の子には内緒/青年団
出演    石渡愛(青年団)、埜本幸良(範宙遊泳)、福田毅(中野成樹+フランケンズ)、上簑佳代、渡邊まな実       
*公演特設HP→ https://undercurrent2019.tumblr.com/

室町時代の能“隅田川”を題材に、
現代の「親子愛」「家族」を見つめる

東京郊外の小綺麗な街。主婦の小春は、夫と息子の航と暮らしている。

熱波がまとわりつく夏の日。
小春は航と近所の夏祭りに訪れたが、ごった返す人混みのせいで航とはぐれる。
後に航は、近くを流れる川で水死体として発見される。

警察による事情聴取の中で、小春は「繋いでいた手をわざと離した」と話し始める。

女、妻、母。与えられた役割から「逃げなかった」女の愛を、罪を、夏の熱気は全て包みこんで、川の底を流れる。
2019年12月15日[日] - 17日[火] YKK60ビル AZ1ホール