下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団若手自主企画vol.81 宮﨑企画『つかの間の道』(2回目)@アトリエ春風舎

青年団若手自主企画vol.81 宮﨑企画『つかの間の道』(2回目)@アトリエ春風舎

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宮崎企画

作・演出:宮﨑玲奈

ある家に一人で暮らしている。毎日を淡々と、暮らしている。食べるものを決めて、着たい服を着て、育てている花が、たまに咲くことに、そういう、ささいさのひとつ、ひとつを考えることで、夫のことを、忘れようとしている。
友達と三人で焚き火をする。あの子と、友達と、三人で映画をみる。四人では、一度も会うことはなかったけれど、どこか、ちぐはぐに、似ていたような、そんな気もする。
この家の庭は、小さい頃のわたしが、かつて、過ごした庭だった。自分で、この街を選んで、ここにいる。毎日がやってくる、そのうまくいかなさのなかから、季節がめぐることのなかで、まずは、わたしから、はじめてみようと思う。

宮﨑玲奈

劇作家・演出家。ムニ主宰。1996年高知生まれ。明治大学文学部卒業。2017年カンパニーメンバーを持たない形で、演劇の団体「ムニ」を立ち上げ、主宰。ムニでは劇作・演出を行う。無隣館三期演出部を経て、青年団に所属。
出演

木崎友紀子* 立蔵葉子(梨茄子)* 石渡愛* 黒澤多生* 西風生子* 南風盛もえ* 藤家矢麻刀
(*)=青年団

スタッフ

空間設計:渡辺瑞帆*  
音響・照明:櫻内憧海(お布団)*
照明操作:新田みのり
舞台監督:黒澤多生*
宣伝美術:江原未来
制作:半澤裕彦* 
制作補佐:山下恵実(ひとごと。)*
*=青年団

総合プロデユーサー:平田オリザ
技術協力:大池容子(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

 ディティールと仮想空間
 2回目の観劇。次の作品が楽しみな作家であることを再確認。若手の作家の場合、方法論について試行錯誤の最中であることが多いのだが、この人の場合、若くして方法論をほぼ確立しつつあることがうかがわれた。初回の感想で幾分飛ばし気味に「アンファンテリブル」と評したが、通常は1本見ただけでは判断しかねるのだが、逸材ではないかと思う。
 青年団演出部の所属だが、佐々木敦を交えてのアフタートークで「平田オリザにはあまり直接的な影響を受けてはいない。むしろ、影響を受けたのは前田司郎、犬飼勝哉」などと語ったのだが、先にも書いたように明確な方法論上の差異はあるけれど、現代口語演劇をアップデートした方法論はまさに平田オリザを継ぐと言っていいと思う。
「つかの間の道」を見ていて2つの演劇作品を思い出した。ひとつは平田オリザの「東京ノート」、もうひとつは岡田利規の「三月の5日間」である。この2作品では提示の仕方には方法論的な違いがあるが、どちらも近景、遠景が並列して提示され、そのうち近景では「東京ノート」ではひさしぶりに再会した家族の様相、「三月の5日間」では渋谷のラブホテルでの若い男女のことが描写される。ところでそうした卑近なものを核に置きながらも、「東京ノート」では欧州で起きている戦争を巡ってのあれこれの会話、「三月の5日間」では湾岸戦争と戦争反対のデモをする若者たちが描かれて、家族や男女のミニマルな関係性は広く社会に開かれていることが示される。
 「つかの間の道」でも近景、遠景は同時進行で提示されるが、ここには近景、遠景のどちらもが個人の1対1の関係にかかわるもので、社会に対する広がりはない。作者に聞いてみたところ「いまのところそういう社会とか世界についての視線にはあまり関心がない」(宮崎玲奈)ということのようで、ここでは描写密度の濃淡はあっても個人と個人の関係に焦点を当てようとしているようだ。
 ただ、興味深いのは宮崎の方法論は平田、岡田の方法論同様に普遍的に世界を切り取ることができるようなものになっていて、今後作者の関心のありようの変化によっていろんな可能性を孕んだものとなりそうなことだ。
 誤解のないようにあらかじめ言及してしておくことにすると私は何も平田、岡田が戦争などの社会的関係性を射程にしているから素晴らしいなどというつもりは毛頭ない。ここでは宮崎の方法論の射程の潜在的な広がりを「可能性」として提示したまでである。事実、この作品では「消えて」しまった黒田という男が登場するが、彼のような他者的存在の描き方によってもまた新たな視座が開かれるのかもしれない。いずれにせよ今後が楽しみな作家であるのは間違いない。

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