下北沢通信

中西理の下北沢通信

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渡辺源四郎商店『だけど涙が出ちゃう』@こまばアゴラ劇場

渡辺源四郎商店『だけど涙が出ちゃう』@こまばアゴラ劇場

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だけど涙が出ちゃう
 被害者家族が自ら死刑の執行を行うという架空の「死刑員制度」を巡る連作の二本立て公演。この日見た『だけど涙が出ちゃう』は工藤千夏作演出の新作でもう一本の『どんとゆけ』のヒロインの前日譚となる。
 裁判員制度に対するパロディとして始まった連作だが、この作品は安楽死あるいは尊厳死を巡る問題に踏み込んだものになった。問題劇としてはよくできた舞台になってはいるのだが、少し不満もあるのは工藤千夏は真面目な人なので、シリアスな主題に対して畑澤聖悟のようには混ぜ返すようなことができなくて、どうしてもシリアスなタッチになってしまうことだ。それは作家としての資質の違いでもあり、ここで畑澤のような作品を期待することこそが間違いなのだが……。
ただひとつだけ気になるのは詳しく過去の判例を調べてみないと分からないのだが、医師による安楽死尊厳死)が殺人罪となることはあっても、それが死刑という判決に問われることはないのではないか、ということである。安楽死にした理由が自分の利己的な目的がからめば話がまた変わってはくるけれど、そうでなければいくら遺族感情があっても件数だけで死刑という風にはなりにくい。
この作品で気になったのは娘の本当の父親は誰なのかということだ。これははっきりとは描かれてはいないのだが、医師が自ら「自分は父親ではない。別の人間だ」と言い出すのみではなく「だからあなたは死刑囚の娘ではない」と遺言のように言い残して刑の執行に臨むことだ。これは要するに本当は父親は自分だということなのではないだろうか。この娘は「どんとゆけ」以降において死刑囚との獄中結婚を繰り返す不思議な女になっていくのだと記憶しているが、この舞台での出来事とそれがどのように呼応しているのかについて後ほどもう一度考え直してみたいとも思った。 

『どんとゆけ』 作・演出:畑澤聖悟
『だけど涙が出ちゃう』 作・演出:工藤千夏


2008年の『どんとゆけ』初演当時、施行直前であった裁判員制度のパロディとして
畑澤聖悟が考案したのが、二つの作品のベースとなる「死刑員制度」です。
畑澤聖悟は、死刑制度は踏み込めば踏み込むほど果てしない「深い森」だと語ります。
観客の皆様とともに、その深い森に、さらにさらに深く、迷い込んで行けましたら幸甚です。

出演

『どんとゆけ』
田中耕一(劇団雪の会) 三上陽永(虚構の劇団、ぽこぽこクラブ) 小川ひかる 木村知子 佐藤宏之 工藤和嵯

『だけど涙が出ちゃう』
各務立基 山藤貴子(PM/飛ぶ教室) 天明留理子(青年団) 畑澤聖悟 三津谷友香

スタッフ

○音響:藤平美保子 ○照明:中島俊嗣 ○舞台美術・宣伝美術写真:山下昇平
○舞台監督:中西隆雄 ○宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子
○プロデュース:佐藤誠 ○制作:秋庭里美 佐藤宏之 木村知子 奈良岡真弓
○舞台監督助手:山上由美子 末安寛子 工藤和嵯