下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ロロ「四角い2つのさみしい窓」(1回目)@こまばアゴラ劇場

ロロ「四角い2つのさみしい窓」(1回目)@こまばアゴラ劇場

f:id:simokitazawa:20191226151237p:plain

 ロロ版ファンタジーなのか、ロロ版SFなのか。公式サイトのあらすじからはボブ・ショウのSF作品 「去りにし日々、今ひとたびの幻」に出てくる、「光がそこを通過するの時間がかかるガラス」スローガラスのような設定を想起したが、ジャック・フィニー「ゲイルズバーグの春を愛す」のようなファンタジーなのかもしれない。いずれにせよSF]・ファンタジー好きの三浦直之の面目躍如といった舞台になっていそうなことを期待した。
 以上のように予想して観劇に臨んだが、予測は全く外れた。劇中に出てくる「海岸沿いに透明な壁が建てられた。その壁を通して眺める海は、いくつもの過去が折り重なってみえるらしい」という壁(ゴーストウオール)と呼ばれ、時折その向こうから大きな波の音が聞こえる。海とこちらを隔てる巨大な壁。壁の向こう側に家族がいる……。これは震災後に海岸に築かれた防潮堤のイメージではないかと思った。
 宮城県出身の三浦直之の作品の芯には震災により失われた故郷の原風景があるように思う。今回の「四角い2つのさみしい窓」もそういう作品に見えた。震災劇だと言い切ることには躊躇があるのだけど、家族に象徴されるような壁の向こう側の過去の記憶は津波によって永久に失われてしまった故郷の姿かもしれない。
 ただ、この物語は終わろうとしている劇団を描いた近未来劇でもある。前作である「」もそうだったがそれも最近の三浦作品の重要なモチーフ(主題)となっている。舞台は近未来であり、その時代にはほとんどの演劇はVR(バーチャルリアリティ)になっていて、透明な壁の向こうの演者には触れることができない。これに対して、劇中の劇団は昔ながらの演劇で旅公演を続けているのだった。

脚本・演出|三浦直之


海岸沿いに透明な壁が建てられた。その壁を通して眺める海は、いくつもの過去が折り重なってみえるらしい。
たくさんの人たちが壁のもとに集まってくる。目の見えない綱渡り師、透明人間の恋人を探す女性、窓ガラス清掃をする元役者、スノードームをつくる観光客、ミノタウロスとくだんのあいだに生まれた未来のみえないこども。

「私、フチになりたいんだ。麦わら帽子のフチとか、ルパンが盗む絵画の額縁とか、コップのフチ子とか、あと、絶望のフチとか」

今夜、透明な壁で物語が上演される。

ロロとは

劇作家・演出家の三浦直之が主宰を務める劇団。2009年、 王子小劇場で上演された『家族のこと、その他のたくさんのこと』にて旗揚げ。「家族」や 「恋人」など既存の関係性を問い直し、異質な存在の「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」を描く作品をつくり続けている。古今東西のポップカルチャ ーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持され ている。近年はヒップホップグループ「Enjoy Music Club」とともにライブ活動も行っているほか、15年に始まった『いつ高』シリーズでは高校演劇活性化のために戯曲の無料公開や高校生の観劇無料化を行うなど、演劇の射程を広げるべく活動中。主な作品として『LOVE02』(12年)、『ハンサム な大悟』(15年)、『BGM』(17年)など。『ハンサムな大悟』は第60回岸田國士戯曲賞最終候補ノミネート。http://loloweb.jp/

出演

亀島一徳 篠崎大悟 島田桃子 望月綾乃 森本華

スタッフ

美術|杉山至 照明|富山貴之 音響|池田野歩 衣裳|伊賀大介 舞台監督|鳥養友美

演出部|岩澤哲野 演出助手|中村未希 脚本協力|稲泉広平

宣伝イラスト|矢野恵司 デザイン|佐々木俊 広報|浦谷晃代 制作|奥山三代都 坂本もも

simokitazawa.hatenablog.com