下北沢通信

中西理の下北沢通信

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横浜ダンスコレクション・コンペティションII2日目@にぎわい座 横浜のげシャーレ

横浜ダンスコレクション・コンペティションII2日目@にぎわい座 横浜のげシャーレ

 若手を対象にした 横浜ダンスコレクション コンペティションII(2月6・7日、横浜のげシャーレ)にどんな作品が登場するかも毎年楽しみだ。審査員による審査結果とは無関係に自分なりの評価をあげていくのもここ最近の楽しみ。今年もできるだけ感想をアップしていきたい。
 いきなり結論を言ってしまうのも興を削ぐようだが、この日は木村素子『MATE』が素晴らしかった。コミカルなダンスでコンテンポラリーダンスの世界ではこういうものをショーダンスだと切り捨てる人がいるかもしれないということは承知でいうが、確かにムーブメントそのものはジャズダンスやストリート系のダンスの要素を含んでいるが、そういうことを言い出せばヨーロッパのコンテンポラリーダンスなどは皆バレエという既存のテクニックの要素を含んでいるわけだ。単なるどこかにある既視感のあるダンスではなく、そうしたダンスを視野に入れながらそこからのずらしを狙ったアイデアが面白く、若くしてこれだけのレベルの振り付けをできる人は滅多にいないと思う。
 技術を見せる振付ではないが、ダンサーの個々の技術レベルもかなり高く、それが精度の高いアンサンブルを成立させていたことにも感心させられた。
 今回の参加者のなかで唯一作品を見たことがあったのが山下恵実。彼女は青年団演出部の所属で見たことがあったのは演劇作品「景観の邪魔」(綾門優季作)でダンス作品を見るのはこれが初めてだった。青年団関係者はこのところ戯曲賞、演出家コンクールなど様々な賞レースの常連となっており、受賞者も多い。しかし、ダンスコンペは初めてと思うので、そういう意味でもどういうものが見られるのか期待していたのである。
 山下恵実『互いに交わることのない、いくつかの』は作品のレベルは高いとは思ったが演劇+ダンスの作品になってしまっていて、演劇×ダンスとはなっていないのが残念だった。
 どういうことか、「紛争、移民、災害、数々の報道とそれに対する私たちの距離について」がモチーフだとしているのだが、それは主としてナレーション、つまり「言葉」として提示される。一方で舞台上では男女2人のダンサーによるダンサーのダンスが踊られるが、これがコラージュのように並置されるにとどまっている。せっかく、青年団という言葉と動きの関係性について今もっとも真摯に考えている人たちの集団の内部にいるのだから、言葉と身体の動きの関係性についてもっと考えつくしてほしいと思った。期待があったため、注文が厳しくなったかもしれない。作品のレベルは高かったのでこれを選ぶ人がいてもおかしくはないと思う。
 佐伯 春樺『Persona』はソロ作品。表題の通りに人格がペルソナ(仮面)をかぶるように人の様相がその時の状況に従って変わるというのを音楽が変わるとダンスの動きの持つ表情が一変することで表現しようとしたのだろうと思う。素直なダンスでダンサーとしたら素質もありそうだ、ただ、この作品においてはそれが仇になってキャラ作りにおける強い個性の違いが出し切れていないように感じた。
 山田暁「幽の域」は男性2人(山田暁、原正樹)のデュオ。男性2人のデュオでは男女のデュオとは異なり、抽象性の高い二人の身体で個人としての人間ではない何かを表現していくようなダンスはあり、彼らはそれにあたるだろう、ダンサーとしての技術もあり、作品も悪くはない。
 だが、今回のコンペでは前日に黒田勇らのデュオが男女でありながら彼らとやや似たような傾向のダンスをしており、不運なことにそれと比べると表現のディティールのきめ細かさ、スキのなさにおいて大きな差を感じてしまった。
 NISHIMURA KAIYA『NO ONE KNOWS ME』はダンサーとしては色気や華があり、はっとするような魅力も感じた。どちらかというと三浦大知とかそういう系列のダンスで、そういうものも最近ではコンテンポラリーダンスに分類されているので、それはだめだとする気はないのだけれど、これは見事に踊ってはいるが、それだけでは作品になっていないのではないかと感じた。

横浜ダンスコレクション コンペティションII
2.7 [fri] 19:00 ※上演順未定

NISHIMURA KAIYA『NO ONE KNOWS ME』
木村素子『MATE』
佐伯 春樺『Persona』
山田 暁『幽の域』
山下 恵実『互いに交わることのない、いくつかの』

2.6 [thu] 19:00 ※上演順未定

甲斐 ひろな『Dogs Have No Hell』
黒田 勇 『狼狽』
小林 萌『machi』
髙橋 灯『4’33″』
橋本 ロマンス『サイクロン・クロニクル』
ヤマグチ リオ『Little love』