下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

コロナ禍における小劇場演劇メモ

コロナ禍における小劇場演劇メモ

緊急事態宣言の概要
緊急事態宣言は2020年3月13日に成立した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく措置です。全国的かつ急速なまん延により、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合などに、総理大臣が宣言を行い、緊急的な措置を取る期間や区域を指定します。
安倍総理大臣は2020年4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を行い、4月16日に対象を全国に拡大しました。

このうち当初から宣言の対象とした7都府県に、北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都の6道府県を加えた13の都道府県を、特に重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていく必要があるとして、「特定警戒都道府県」と位置づけました。

そして、5月14日に北海道・東京・埼玉・千葉・神奈川・大阪・京都・兵庫の8つの都道府県を除く、39県で緊急事態宣言を解除することを決定しました。

5月21日には、大阪・京都・兵庫の3府県について、緊急事態宣言を解除することを決定しました。緊急事態宣言は、東京・神奈川・埼玉・千葉・北海道の5都道県で継続。

5月25日には首都圏1都3県と北海道の緊急事態宣言を解除。およそ1か月半ぶりに全国で解除されることになりました。


コロナ自粛前最後の観劇
2020-03-25
フィスコットーネ レパートリーシアター「山の声 ―ある登山者の追想―」@Space早稲田
(復活公演)2020-10-07
フィスコットーネトライアル公演「ブカブカジョーシブカジョーシ」@下北沢シアターB1
020-03-26
田上パル「Q学」@こまばアゴラ劇場
2020-04-12
うさぎストライプ「いないかもしれない」@こまばアゴラ劇場(公演中止) この後、こまばアゴラ劇場において予定されていた全演目が中止になった。

ZOOM演劇のスタート
20200419 ビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズ ロロ『窓辺』@Youtube
いつ高シリーズでは上演時間1時間1場劇というルールの縛りのもとにサーガ的な連作演劇を試みたロロの三浦直之がコロナ禍で通常の劇場公演ばかりか、演劇の稽古もできないという逆境を逆手にとったようにビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズ ロロ『窓辺』を開始した。
 ビデオ電話システムのZOOMを通して、交流する人々を描く演劇シリーズをYoutubeで生配信するという仕掛け。とりあえず1回目の配信を見た。見るには見たが、これがどういう仕組みのものなのかは判然としかねる部分が実はある。終了後にアーカイブが残るのかどうなのかなどよく分からない部分があるが、とりあえず1日3回生配信という形でしている。通話劇シリーズ、つまり演劇と標榜しているから収録したものを3回配信するということではなくて、生で演じているものをリアルタイムで配信しているのかもしれない。
2020-05-22
ビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズ ロロ 窓辺 第2話『ホームシアター』@Youtube
2020-06-26
ビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズ ロロ 窓辺第3話『ポートレート』 @Youtube
2020-06-28
ロロ×アリオス『#家で劇場を考える』『オンステージ』#おうちでアリオス
20200911 ロロが高校生に捧げるシリーズ いつ高シリーズvol.8『心置きなく屋上で』@横浜KAAT
2020-10-22
驚異のシンクロ率 響き合う二人の作家 新海誠×三浦直之(ロロ) 恋を読むvol.3『秒速5センチメートル』@ヒューリックホール東京

過去公演の映像の期間限定公開
20200418 「劇団4ドル50セント」(秋元康氏プロデュース)×「柿喰う客」 2020年1月〜2月に開催されたコラボ舞台公演作品
2020-05-31
西田シャトナー×保村大和超一人芝居『Believe』(2001年作品)@Youtube
2020-06-06
うさぎストライプ『いないかもしれない』@観劇三昧無料配信(6月6日まで)
2020-06-07
平田オリザ×本広克行 PARCOプロデュース2019『転校生』オンライン同窓会~卒業生にまた会える~<女子校版>@Youtube
2020-06-07
青年団ヤルタ会談」“オンライン”版@Youtube(6月7日まで)
2020-06-13
西田シャトナー×保村大和 超一人芝居『マクベス』(2001年上演の記録映像)@Youtube
2020-06-13
平田オリザ×本広克行 PARCOプロデュース2019『転校生』2019年男子校版(上演時間:約75分)@Youtube
2020-10-17
惑星ピスタチオ『破壊ランナー』(1995年)@Youtubeプレミア公開

無観客配信が再開
20200601 下北沢・本多劇場が再スタート 有料無観客生配信日替わりひとり芝居『DISTANCE』@本多劇場

本多劇場のコロナ禍による休業後、再開第一弾は無観客生配信によるひとり芝居。さっそうチケットセンター(イープラス)で初日(6月1日19時~)のチケットを申し込んでみた。手元のパソコンで映像が見られるかどうかには若干の危惧があるのだが、少なくともスマホでは見ることができそうだというので、見切り発車である。


客数を減らして有観客で配信
2020-06-28
『いいむろなおき マイム小品集』|KAVC 新しい劇場のための work:01
2020-07-10
PARCO劇場オープニング・シリーズ 三谷幸喜氏が書き下ろす新作『大地(Social Distancing Version)』WOWOWStreaming

リモート演劇における新たな挑戦
笑の内閣 高間響の挑戦
2020-06-20
笑の内閣 オンライン演劇 「信長のリモート 武将通信録」シナリオ1「本能寺のzoom」
20200621
笑の内閣 オンライン演劇 「信長のリモート 武将通信録」シナリオ2「麒麟がこぬ」

 「信長のリモート 武将通信録」シナリオ1「本能寺のzoom」は織田信長明智光秀によって本能寺に討たれた天正10年(1582年)において、もしネットがあり信長傘下の武将たちがZOOMで軍議をしていたらというSF的設定を取り入れたZOOM時代劇である。信長側を描いたシナリオ1「本能寺のzoom」と明智側を描くシナリオ2「麒麟がこぬ」 を2夜連続で上演。この日は前編の「本能寺のzoom」が上演生配信された。
 笑の内閣は東京都の健全青少年育成条例案に触発された「非実在少女 のるてちゃん」、ヘイト問題などを取り上げた「ツレがウヨになりまして」などその時々の社会的な問題をコメディーという切り口で作品にしていくきわめてユニークな集団である。
 今回のコロナ禍下で現状に即座に反応、病気療養で実家のある北海道に長期滞在中の作演出高間響が京都の俳優とZOOMで連絡をとり、それぞれの俳優が自宅から一人芝居を上演し好評を得たが、今回は第二弾の企画。とはいえ、京都市が設立した新型コロナウィルス感染症の影響に伴う京都市文化芸術活動緊急奨励金に応募しての出演者多数のおそらくそれまでになかったであろうほど大規模なZOOM演劇となった。

◆シナリオ1・2両方に出演

淺越岳人(アガリスクエンターテイメント)、岡本昇也、神田真直(劇団なかゆび)、三遊亭はらしょう、杉田一起、谷屋俊輔(ステージタイガー/焼酎亭)、寺地ユイ(きまぐれポニーテール) 、中路輝(ゲキゲキ/劇団「劇団」)、髭だるマン(笑の内閣)、福地教光(バンタムクラスステージ)、山下ダニエル弘之

◆シナリオ1のみ出演

和泉聡一郎(劇団道草)、伊藤今人(ゲキバカ/梅棒)、大町浩之(拳士プロジェクト)、河合厚志(押ボタン制作)、熊谷みずほ、近藤珠理、高瀬川すてら(劇団ZTON/Sword Works)、田宮ヨシノリ、土肥嬌也、松田裕一郎、三鬼春奈(gallop)、横山清正(気持ちのいいチョップ)、ラサール石井

◆シナリオ2のみ出演

アパ太郎(トイネスト・パーク)、阿部潤(こと馬鹿ら)、伊藤えん魔、ガトータケヒロ(シイナナ)、黒川猛(THE GO AND MO’S)、椎木樹人(万能グローブガラパゴスダイナモス)、じゅういち、篠原涼、杉森功明、高間響(笑の内閣)、土肥希理子、月亭太遊長岡天神サンダーライガー(不眠クラブ)、HIROFUMI、前田友里子(アガリスクエンターテイメント)、由良真介(笑の内閣)、若旦那家康(コトリ会議)  ほか

2020-09-20
笑の内閣「東京ご臨終〜インパール2020+1〜」@THEATRE E9 KYOTO
小劇場ボードゲーム
www.facebook.com


20200928 ポかリン記憶舎 朗読劇『戀文 koibumi 』~明恵鷹島の石~@世界遺産・栂尾山 高山寺 書院@Youtube(新型コロナウィルス感染症の影響に伴う京都市文化芸術活動緊急奨励金対象公演)


岡田利規とKAATの試み
2020-06-27
岡田利規×内橋和久 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」@Youtube

Youtubeでの配信を見た。一種のリモート演劇ではあるが、箱庭のような舞台空間を机の上に作り、そこに置いた写真立てのような小さな紙製のホワイトボードに役者の映像を投影(プロジェクション)していくという演出。これが複式夢幻能を模したテキストの構造と合致していて非常に面白かった。
 今回の上演では『挫波(ザハ)』『敦賀もんじゅ)』の一部分(能で言うと後ジテの登場する最後のクライマックス部分を除いた前半部分)を上演。『挫波(ザハ)』は日本の新国立競技場の国際コンペを勝ち取りながら、理不尽な理由で白紙撤回の憂き目にあい、その後に亡くなってしまった建築家、ザハ・ハディドについての物語。次の『敦賀もんじゅ)』では高速増殖炉もんじゅのことが描かれた。
 一見突飛な主題にも思われるが、不遇な運命により死んだ人間(あるいは人間以上の存在)の物語が旅の僧(前ジテ)によって語られ、最後にその幽霊として我々の眼前に示現するという複式夢幻能の様式がザハ・ハディドもんじゅが遭遇した運命とうまく合致していて、こういう形式を現代演劇に導入した岡田利規の狙いがよく理解できるようなものとなっていたのではないかと思う。
 岡田利規×内橋和久による音楽劇でもある。音楽劇としての素晴らしさを際立たせていたのは内橋和久の音楽で、彼の代表的な仕事である維新派*1とは全く違うタッチだがやはり内橋節そのものであり、二人が組んだ意味は大きい。

吉祥寺からっぽの演劇祭
吉祥寺からっぽの劇場祭

吉祥寺シアター レジデンスプログラム「吉祥寺からっぽの劇場祭」 2020年7月23日(木)~8月9日(日) 綾門優季(青年団リンク キュイ)/渡辺瑞帆(青年団)・渡邊織音(グループ・野原)/額田大志(ヌトミック/東京塩麹)・福井裕孝・山下恵実(ひとごと。)他。

20200805 [吉祥寺からっぽの劇場祭] 吉祥寺シアターオンラインシンポジウム@Youtube
2020-08-09
吉祥寺からっぽの劇場祭 コンサート【Play from someone(nice sound!)】額田大志 企画@吉祥寺シアター

吉祥寺からっぽの劇場祭は、何も上演していないとしても、誰もいないとしても、からっぽでもなお魅力的な空間である吉祥寺シアターを、どれだけ思う存分使い倒すことが出来るかという一風変わった祭です。
上は屋上から下は奈落まで、劇場空間のほぼすべてをアクティングエリアとして開放します。
映像配信も予定しておりますので、これを契機として、吉祥寺シアターの新しい魅力を知っていただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
チーフ・キュレーター 綾門優季 

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その後の展開
2020-10-20
演劇と映像 二人の女性アーティストによる共同配信ライブ 宮﨑企画「新作短編『回る顔』」@ライブ配信
2020-11-05
月刊根本宗子第18号「もっとも大いなる愛へ」@本多劇場(無観客生配信)
2020-10-17
東京芸術祭2020 芸劇オータムセレクション「ダークマスター VR」@東京芸術劇場

@JAM the Field vol.18@ LIQUIDROOM

@JAM the Field vol.18@ LIQUIDROOM

CROWNPOP
アップアップガールズ(仮)
26時のマスカレード
まねきケチャ

CROWNPOPを見るために配信チケットを購入したのだが、この日見た4グループはそれぞれ方向性の違いはあれ、ライブアイドルとしての実力はあると感じた。CROWNPOPは現在スターダストプラネットの中ではももクロ、たこ虹、アメフラっシと並んで注目してるグループだ。以前はボーカル&ダンスグループという形態を取り、ツインボーカル、4人のダンサーという構成だったのだが、最近は歌割りにもともとボーカル担当だった二人(三田美吹、里奈)以外のメンバーも歌うことが多くなり、さらには最近山本花織の離脱で5人になったのだが、その5人のバランスがからりよくなっていて、魅力的なグループとなりつつある。
どうしても、ももクロファンからという目線になってしまうのだが、もともとダンスを武器と捉えて前面に押し出してきていただけにダンス担当だった二人が歌唱でもセカンドエース的な立場に成長しかけていることで、ももクロの5人時代のような最高のバランスに近づいていくことが可能なのではないかと思った。
とはいえ、このグループの人気浮上のカギを握るのは雪月心愛の存在かもしれない。バラエティートークで実力を発揮し、ライブではメインダンサーと煽りを担当してきた山本花織の卒業で、その役割をグループは雪月心愛の成長に託そうとしているのではないかと思う。TIFの裏トークチャンネルに彼女を押し込んだのはそういう狙いであろうし、ライブの煽り担当やMCも担当する彼女は年齢の若さも相まって、早見あかりが脱退した後の佐々木彩夏を思わせるし、
運営としてもそれを期待してのことだと思う。意外とおじけづかない性格には似ているところもあるし、歌唱の幼さはあるのだが、どういう風になるかが楽しみだ。
 
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青年団リンク やしゃご「ののじにさすってごらん」(1回目)@こまばアゴラ劇場

青年団リンク やしゃご「ののじにさすってごらん」(1回目)@こまばアゴラ劇場

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身体障害者と家族の問題など現代社会が抱える様々な問題にストレートかつリアルに切り込んでいくのが青年団リンク やしゃご(旧伊藤企画)である。今回は外国人労働者の問題を取り上げた。
伊藤毅の作品は演劇スタイルとしては平田オリザ流の現代口語演劇のスタイルを受け継ぎながら、作品ごとに対象の綿密な取材を通じて、社会に存在している問題群を取り上げていくところにある。こうした作品は往々にして政権批判や社会に対する糾弾の形をとることが多いのだが、この手の問題について時の政権の批判を一方的に行って観客の共感を得ることは反対陣営にはけっして届かないから意味がないという平田の主張のように複数の人間の複数の考え方を提示しながら、どうしてこういうことになってしまうのかを観客に考えさせるような仕掛けになっているのが伊藤の作劇の特徴である。
 舞台となっているのは外国人労働者(ここでは中国人とベトナム人)が日本人と一緒に住んでいるシェアハウスである*1。ここにもコロナ禍の影響がひしひしと迫ってきていて、ここに住む日本人も外国人も仕事を解雇されたり、すでにやっていけなくなったり、コロナの流行に身の危険を感じたりして本国に帰ったりしているために、ここは住む人も減ってしまい、かなり閑散としてしまっている。
 住民のほかにもここには中国人女性の面倒を見ているホテルの従業員をはじめとする外部の人間も訪問したりしているが、物語はそれぞれが住む部屋以外の共用空間となっている場所で展開される。物語の前半では着ぐるみキャラクターの中の人をやっていた男のところに若い女性が訪ねてくる。実は男の娘で別れてから十数年ぶりに自分の結婚を報告しにきたのだ。あるいは小説家を目指す男が急に夢を諦めると言い出して、付き合っているらしい水商売の女性ともめるなどのエピソードが描かれていく。
 とはいえ、物語の中核をなすのは日本で働く外国人を巡る物語だ。近所で農業をしている女性が自分の畑を荒らしたのが、ここに住む外国人だと決めつけて、抗議をしてくる。一度は女性の勘違いということで収まりかけるのだが、彼女がおわびに持ってきた野菜にそっくりの野菜をベトナム人の男性が持ち帰ったことから、警察に訴えると言い出し、大騒ぎになる。
 このエピソードは最近話題になっていた外国人労働者を畑荒らしの犯人と決めつける芸能人の書き込みとそれを人種差別だと糾弾した別の有名人の書き込み、それに反論しての多くの書き込みなど賛否両論の大炎上が引き起こされたことをモデルにしたのであろうことは間違いないであろう。
 この舞台で作者は農家の女性の発言により、下手をすると本国送還に追い込まれてしまう弱い立場の外国人に対しではあるが、外国人を責める女性も決して強い立場ではないこともちゃんと書き込まれている。かつて雇っていた外国人労働者に逃げ出された苦い経験を持っていて、警察を呼ぶという彼女に対して、少なくともこのシェアハウスではほかの日本人たちが「証拠もないのに犯人を決めつけて、被害を与えたとこちらこそ警察に訴えるぞ」と逆に攻撃され、追い出された形となる。
 女性は忘れ物として置いてきてしまったバッグも彼女に怒りを向けている人々がいるこの施設に取りに戻れないと途中で泣いていたとの証言が帰りかけていたところを戻ってきた最初に登場した男の娘からも伝えられる。
 農家の女性も外国人もここでは主観的には被害者なのであり、女性に差別的な感情があるとしてもそれは意識的なものではない。もちろん、「無意識であろうが差別的な行為自体決して許されない」というのが最近の世間の風潮ではあるのだが、考えてみれば同じく証拠がないところで、外国人を疑えばそれは差別で、日本人を疑うことは差別ではないのかということもある。
 伊藤の描き方は実はもっと微妙である。犯人は本当は誰なのかははっきりとは示されないのだ。実は最後の方で女がベトナム人を責める時に警察を呼ばれて困ったベトナム人がなんとか女性に許してもらおうと謝るのだが、この時のほかの日本人の中に何人か一緒に誤っているか、あるいはベトナム人に対してあやまっていた人物がいたのではないかという疑問が舞台の終了後しばらくして起こってきたのだ。だとすると、最初の野菜泥棒は本当は彼の仕業なのか。もう一度芝居を見直して再考してみる必要があるかもしれない。

作・演出:伊藤 毅
ある汚いシェアハウスに、日本人と中国人とベトナム人が住んでいました。
皆は貧乏ながらに割と楽しく暮らしていましたが、ひとりひとり、悩みを持っていました。
ある日、技能実習生のベトナム人が、一通の手紙を残して失踪してしまいました。
そこには、ギリ判別できる文字で「ごめんなさい」と書いてありました。

2020年、日本の夏の話。

青年団リンク やしゃご

劇団青年団に所属する俳優、伊藤毅による演劇ユニット。
青年団主宰、平田オリザの提唱する現代口語演劇を元に、所謂『社会の中層階級の中の下』の人々の生活の中にある、宙ぶらりんな喜びと悲しみを忠実に描くことを目的とする。
伊藤毅解釈の現代口語演劇を展開しつつ、登場人物の誰も悪くないにも関わらず起きてしまう、答えの出ない問題をテーマにする。


出演

木崎友紀子、井上みなみ、緑川史絵、佐藤滋、尾﨑宇内、中藤奨(以上、青年団)、石原朋香、岡野康弘(Mrs.fictions)、工藤さや、辻響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)

スタッフ

作・演出:伊藤 毅
照明:伊藤泰行
音響:泉田雄太、秋田雄治
舞台美術:谷佳那香
制作:笠島清剛
舞台監督:中西隆雄、武吉浩二(campana)
チラシ装画:赤刎千久子
チラシデザイン:じゅんむ
演出助手:あずまみか
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

*1:とはいえ、一昔前ならこういう業態は下宿と呼んだんじゃないかと思う。

映画館で見るライブもいい! ひさびさの現場気分 池袋HUMAXシネマズ presents TEAM SHACHI 1st LIVE Blu-ray リリース記念 SP 〜映画館に行こう!#シャチZEROを観よう!〜

池袋HUMAXシネマズ presents TEAM SHACHI 1st LIVE Blu-ray リリース記念 SP 〜映画館に行こう!#シャチZEROを観よう!〜3部

無観客配信ライブの Blu-ray リリース記念を記念して、映画館の音響、大画面でその一部を見ようという企画である。現在はコロナ禍の状況で有観客のライブができないという中で、疑似的にライブ体験を存分に堪能できるという意味ではこれはとても素晴らしい機会だった。
TEAM SHACHIの公演にはチームしゃちほこ時代には東京周辺で開催された大規模ライブに限りという条件付きではあるが、現スタプラのグループの中ではももクロに次ぐぐらいに出掛けていたのだが、最近はフェスでのライブを見る程度にとどまっていて、足が遠ざかっていた。ところで配信ライブの時にも感じた時にも感じたことだが、単位あたりの熱量で会場を盛り上がらせる力という意味では先輩であるももクロエビ中と比べても遜色がないことを再認識させられた。
総じていえば若手のグループのファンには申し訳ないが、スタプラ内でもももクロエビ中、TEAM SHACHI、たこやきレインボーの4グループにはそれぞれに特徴の違いはあるが、それ以降の若手グループとは大きな差があって、埋まってはいない。
 勢いのあるグループのファンの中には特にTEAM SHACHIのことをピークアウトしたグループだと侮る向けもいるようだが、そういう人も今回の映像などを一度見てみればよほど盲目的なファンではない限り、評価は一変するのではないかと思う。
 ブラス隊(ブラス民)やバンド(バンド民)との一体性も高く、これはもはやアイドルとそのバックバンドというのではなく、全体で(あるいは運営や演出・振付、音楽関係のスタッフを含め)「TEAM SHACHI」ということなんだと思う。さらにももクロ陣営などと比べると運営も含めた全員の年齢が若く、それゆえ、メンバーが自分らの意思を反映させやすい体制となっており、アイドルというよりボーカルグループを中心とした音楽プロジェクトだと考えれば「まだまだこれから」ということなんだと思う。
 それでいて、かつてスタダの対戦型ライブイベント「タイナマイト」でももクロエビ中を立て続けに撃破した突破力は今も健在であると思った。
以前に欅坂46ドキュメンタリー映画を映画館で観た時にはもちろん本当のライブにはかなわなくても、ライブができない状況で、こういうコンテンツは家でパソコンやテレビの前でライブ映像を見ているのとは全然違う感覚が得られるんだなと再確認させられたということがあり、ももクロがこの期間に再三のライブ配信をしてくれるのは非常にありがたいことには違いないながらも、限定公開でいいから、こうした映像を通常の映画館の映画上映に合わせた対策をすることを前提に他のファンと同時体験できる機会があればなとなんとなく思っていたのだが、今回TEAM SHACHIの「映画館に行こう!#シャチZEROを観よう!」を見て、改めてライブアイドルとしてのTEAM SHACHの底力を感じさせられるとともにももクロやほかのグループでもライブブルーレイの販売などに合わせて、類似の企画を行ってほしいと思った。
 さらにいえば、この日はライブ本編は全編ではなく、抜粋となっていたものの、チケットにはブルーレイが一緒についた価格となっており、本当のライブに参加するのと同程度のチケット代(7800円)が必要だったものの、この企画が1回1カ所だけで開催される企画だったこともあり、映画が始まる前後にはTEAM SHACHI[のメンバー全員が実際に会場で入場者を前にあいさつし、短いトークもする場面も用意された。
 ライブ映像本編の後には無観客ライブにかかわったスタッフを交えたこの会場だけで上映されるトークも公開された。この内容がメンバー個々にイヤモニの音響設定がかなり違うということから始まり、なぜそうなのかを本人が自ら語るなど専門的に踏み込んだ内容ともなり、そうした話題からメンバーそれぞれの成長とライブへのかかわりの変化が感じられるなど興味深い内容となっていた。満足度の高いイベントだったので、ももクロでも同様のイベントを実施してほしいと思った。

□1部上映セットリスト
1. Orcinus orca / 2. SURVIVOR SURVIVOR / 3. DREAMER / 4. よろしく人類
5. カラカラ / 6. なくしもの with ヒダカトオル / 7. グラブジャムン
8. 眠れないナイNIGHT! / 9. AWAKE / 10. MAMA / 11. Today


□2部上映セットリスト
1. Orcinus orca / 2. SURVIVOR SURVIVOR / 3. ROSE FIGHTERS / 4. よろしく人類
5. Rocket Queen feat. MCU / 6. BURNING FESTIVAL / 7. We are…
8. 眠れないナイNIGHT! / 9. AWAKE / 10. MAMA / 11. Today


□3部上映セットリスト
1. Orcinus orca / 2. SURVIVOR SURVIVOR / 3. よろしく人類 / 4. かなた
5. Rock Away with ヒダカトオル / 6. ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL
7. 眠れないナイNIGHT! / 8. AWAKE / 9. START / 10. MAMA / 11. Today

simokitazawa.hatenablog.com

驚異のシンクロ率 響き合う二人の作家 新海誠×三浦直之(ロロ) 恋を読むvol.3『秒速5センチメートル』@ヒューリックホール東京

恋を読むvol.3『秒速5センチメートル』@ヒューリックホール東京

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「秒速5センチメートル」予告編 HD版 (5 Centimeters per Second)
ロロの三浦直之のことを以前セミネールレクチャー「演劇の新潮流2 ポストゼロ年代へ向けて」*1で「ライトノベル世代の演劇」と評し、次のように論じた。

今回取り上げるのはロロ=三浦直之です。ままごとの柴幸男、柿喰う客の中屋敷法仁ら昨年あたりからポストゼロ年代の劇作家たちが本格的に台頭してきました。そのなかでも漫画、アニメ、小説(ライトノベル)といった他ジャンルのからの影響を強く感じさせるのがロロです。ゼロ年代における(小説・現代美術・映画などの)表現傾向は簡単に言えば「漫画やアニメやゲームみたいだ」ということなのですが、ロロの三浦直之にはどうやらそうしたほかのジャンルの表現の要素を演劇に積極的に取り入れ展開していこうという明確な意識があり、確信犯としてそれを目指しています。

 このように三浦直之は多くの先輩作家が創作のモデルとして映画や小説を念頭に置くように漫画やアニメ、ライトノベルを念頭に置いて自らの創作活動をスタートさせており、公演の枠組み自体は三浦自身がこの作品をと指定したのかどうかははっきりとはしないのだけれど、そうしたゼロ年代以降のアニメ作家の中でも、新海誠と三浦直之とのシンクロ率はきわめて高く、アニメの舞台化としては最高の組み合わせであったのではないかと思った。
 アニメの実写化は多くのヒット作を生んでいる反面、かなり多くの場合に原作ファンとの間に軋轢も呼んでいる。それは多くの場合、三次元の実写映画でアニメと同じイメージを再現することは困難なばかりではなく、アニメが原作であったとしても、映画である限りそれを映画として良いものにする方が、ビジュアルなどでアニメに完全に寄せていくよりも重要視されるのは当然ともいえるからだ。
 その意味で演劇はいつでもそこにリアルに展開される出来事と、そこから喚起されるイメージの二重性において成り立っている。このため、アニメファンであればそこで展開される舞台の向こう側に原作であるアニメや漫画のイメージをそのまま投影することができる。それがアニメを演劇にすることの利点だといえる。
 「恋を読む」という企画*2として、演者は全員が台本を手に持ちながら、互いに離れた台の上などで演じあうスタイルを取っている。これは観客にシーン、シーンで演じられる場に想像力の余地を残す効果をもたらしている。例えば、1場では俳優の実年齢よりも年齢の低い少年少女を演じるわけだが、半ば朗読の要素を強く残すことで、観客はそこにいるのが実際には少年であり、少女なのだというのをイメージすることになる。しかも、それが新海誠の作品を少しでも知っている観客であればそこで投影されて、俳優の演技の先に浮かび上がるイメージはかならずや新海キャラの刻印を押されたものとなるのではないかと思うのである。
 脚本は三浦自身が担当しているが、面白いのはこれが会話だけによって構成された台本をただ読み合うというのではなくて、アニメでは素晴らしいビジュアルによって表現されている情景描写や心情描写などが会話と一緒に書き込まれていて、これを演者は小説を朗読するときのように読んで演じていく。ただ、舞台の背景には満開の桜や降りしきる雪、満天の星などのアニメ映像も映し出されて、セリフだけでは伝わりにくいかもしれない周辺の状況を示すようになってもいるのだ。
 三浦と新海には世界観において共通点が多い。三浦がロロの旗揚げ以来創作してきた作品の多くは「ボーイ・ミーツ・ガール」、つまり男女間の恋愛を主題としたもので、しかもそれがあらかじめ「成就不可能」なものである。つまり、三浦はいろんな形で必然的な失恋を描き続けてきたわけだが、この「秒速5センチメートル」はまさしくそういう作品であり、それを三浦が演出するのはまさに水を得た魚のようなものだといえるかもしれない。
 この物語の最後で明里とタカキはすれちがったまま再び出会うことはない。三浦の作品もそうだし、そうでないといけないのだ*3
 こういう素材を普通の演出家、劇作家が料理しようと試みるといたたまれないような恥ずかしいものになりがちだが、三浦の今回の舞台がそうはなっていないことが素晴らしいことだと思う。
 

10月21日(水)~25日(日)


【原作】新海 誠
【脚本・演出】三浦直之(ロロ)
【出演※出演日順】
入野自由×桜井玲香×田村芽実/海宝直人×妃海 風×山崎紘菜
前山剛久×鬼頭明里×尾崎由香/梶 裕貴×福原 遥×佐倉綾音
黒羽麻璃央×内田真礼×生駒里奈(全日程出演)篠崎大悟(ロロ)、森本 華(ロロ)

www.nicovideo.jp

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:朗読劇シリーズ《恋を読む》『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』、恋を読むvol.2『逃げるは恥だが役に立つ』はいずれも東宝がプロデュース。三浦直之の作演出で人気の原作を舞台として上演された。

*3:だから、「君の名は。」の最後で出会ってしまった時には唖然とさせられたものだ。知人には最近はハッピーエンドでないと受け入れられないのだと言われたが。

浴衣姿で有観客の破壊力 ライブアイドルの実力に震撼せよ! アメフラっシのライブ映像(公式)@Youtube

しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村!「ダウンタウンしおこうじストリングス」第113夜@フジNEXT

しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村!「ダウンタウンしおこうじストリングス」第113夜@フジNEXT

何と言ってもこの日のMVPはシークレットゲストとして後半出てきて、玉井詩織と4曲連続でデュエット曲を歌ったたこやきレインボー(たこ虹)の清井咲希だろうと思う。すべての曲について本来は夏菜子が歌うパートを歌ったので、ネット上では「夏菜子そっくり」「やっぱり似ている」などの文字が躍っていたが、清井咲希は歌うま自慢のアイドルがよくやるように声を張り上げて絶唱するようなことはないけれど、軽く声を出してもピッチが正確で本当に歌がうまいとあらためて感心させられた*1。今度は堀くるみとのデュエットも聴いてみたいと思った。
音楽番組としてこの日の殊勲賞はブリーフ&トランクスだったかもしれない。オリジナル曲の「蚊」や「いい意味で」も面白くて笑わせてもらったが、自分たちの独自のアレンジで歌った「サラバ、愛しき悲しみたちよ」が素晴らしかった。この曲などは楽曲が増えてきたこともあり、ももクロも以前のようには頻繁には歌わなくなっているのだが、アレンジを変えて他人が歌うとあらためて楽曲のよさが浮き彫りになった気がした。
 準備に時間がかかるし、誰でもというわけにもいかないとは思うが、ももクロからの出演者が玉井詩織だけとなり、ももクロ楽曲がレギュラーで歌われるのが、冒頭の「坂崎幸之助が歌うももクロ」だけとなっているなかで、ゲストにももクロ楽曲をその人自身のアレンジによって歌ってもらうというのはよいのではないかと思った*2
松室政哉は宗本康兵がアレンジを担当。Ms.OOJAは加藤いずみの夫にあたる今井マサキがツアーに帯同しており、その関係で招かれたと思うが。一般的な知名度が高いわけではない実力派のミュージシャンを毎回招いているのも、きくちPや坂崎幸之助の人脈から選んでいる感が強いこの番組の人選を広げていくという意味で面白いと思う*3

M01:走れ! (坂崎村長/ももクロ)
M02:Feeling Love (しおりん/THE ALFEE)
M03:遠い世界に (しおりん/五つの赤い風船)
M04:にらめっこ (松室政哉松室政哉)
M05:嫌い (松室政哉松室政哉)
M06:蚊 (ブリーフ&トランクスブリーフ&トランクス)
M07:いい意味で (ブリーフ&トランクスブリーフ&トランクス)
M08:サラバ、愛しき悲しみたちよ (ブリーフ&トランクスももクロ)
M09:異邦人 (Ms.OOJA久保田早紀)
M10:真夜中のドア (Ms.OOJA松原みき)
M11:…愛ですか? (しおりん&いづみ/玉井詩織)
M12:涙目のアリス (しおりん&いづみ/玉井詩織)
M13:シングルベッドはせまいのです (しおりん&さきてぃ/ももたまい)
M14:Ring the Bell (しおりん&さきてぃ/ももたまい)
M15:夜更けのアモーレ (しおりん&さきてぃ/ももたまい)
M16:恋のフーガ (しおりん&さきてぃ/ももたまい)
M17:青春の記憶 (村長&ブリーフ&トランクスTHE ALFEE)
M18:さらば恋人 (しおこうじ/堺正章)

真部裕/林周雅/城元絢花/村中俊之
Ms.OOJA
松室政哉
ブリーフ&トランクス
ほか

しおこうじ(玉井詩織×坂崎幸之助)

生演奏
ダウンタウンしおこうじバンド
宗本康兵
加藤いづみ/佐藤大剛/やまもとひかる/竹上良成

*1:もちろん、声質が似ている部分があるうえ、夏菜子が好きで夏菜子の歌い方を無意識に真似ているため、今回は初披露の歌も多く、似せようとしたかも不明だが意識しなくても似ることは確か。

*2:この日ギターをパーカッション代わりにして演奏に即興で加わったようにももクロ楽曲なら玉井詩織もその場ののりでコーラスや演奏に加わりやすいというメリットもあるのではないか。

*3:個人的には玉井詩織今井マサキのことを今井くんと呼んでいるんだというのが分かったのが面白かった。ガチンコスターダストの番組にコーチ役で参加していることもあり、我々には今井先生として知られているのだが、加藤いづみがそう呼んでいるからしおりんもそうだったのか。竹上さんがたこ虹界隈では竹神様と呼ばれて尊敬されていることが、モノノフあるいは詩織に知られたのも今後なにかの展開がありそうだ。

演劇と映像 二人の女性アーティストによる共同配信ライブ 宮崎企画「新作短編『回る顔』」@ライブ配信

宮崎企画「新作短編『回る顔』」@ライブ配信

 宮崎玲奈(ムニ)は青年団演出部のニュージェネレーションのひとり。今年1月に上演された前作 『つかの間の道』は若手の作品とは思えぬほどの完成度の高さに舌を巻いたが、今回コロナ禍で中止となった公演を受けて無観客配信となった『回る顔』も期待通りともいえる彼女らしい作品となった。

宮崎の視点の切り取り方は複数のカメラを組み合わせたようにより多視点的である。しかも実際に提示されるのは現実のうちの一部だけであり、「描く部分/描かない(で想像にゆだねる)部分」を作り、さらにそれぞれ時間j軸や空間(場所)が異なる場面をまるでレイヤー(層)を重ね合わせるように同時に提示していく。
 この作品の主題は「存在/不在」ではないかと思う。そして、その主題は「表現すること/表現しないこと」という宮崎の演劇の方法論にも重なり合っているように思えた。

 前回作品で宮崎作品をこのように評したがこれはそのまま今回の「回る顔」にもそのまま当てはまるといっていいかもしれない。さらに言えば演劇における「表現すること/表現しないこと」に加えて、今回は映像撮影の小宮山菜子*1が宮崎のそういう美学を共有して、「フレームの中/フレームの外」という切り取りにより、戯曲、演出の段階ですでにあった「表現すること/表現しないこと」を二重構造にして見せているのが興味深い。
 五反田団の前田司郎には死者の世界と往還する一連の地獄巡り譚を思わせる作品があるが、「回る顔」もそれと類似した作品世界を持っている。この舞台は二部構成でどちらにも黒澤多生演じる男と南風盛もえ演じる女が出てきて、故郷に帰るらしい女に男がついていって列車に乗って旅をする。その旅は電車の吊り輪を二人がそれぞれ持ちながら会話する場面に象徴されているが、この電車での移動も、その後出てくる自動車での移動も具象的に考えるとおかしなことになってきかねないので、移動の具体的な描写というよりは浄瑠璃芝居における「道行き」のような演劇的な仕掛けに近いかもしれない。
 男はこの旅によりゆるやかに「死者の世界」にいざなわれていく。危篤状態の女の父親が入院している病院に行く描写はあるが、その次には病室で男は意識がないはずの女の父親と会話を交わす。
 これは実際にあった現実の描写というよりはもはや「死者の世界」における死者との対話に近いのであって、その後、男は女にいざなわれて山奥にある川のほとりで何か正体の分からぬ物の怪のようなもの(けもの)と出会うが、これが宮崎の描写では実体がはっきりしないうえに小宮山菜子のカメラはその姿の一部しか映し出さない*2。演劇の中に存在する「余白」とフレームの外側の描かれない部分という違いはあるが、この二人のアーティストは「描く部分/描かない(で想像にゆだねる)部分」において感性が共鳴しあう部分があり、この作品ではそれが響きあっていたのではないか。
 この後、この二人による別バージョンの有料配信映像も予定されているということで、それも楽しみだ。
 

作・演出:宮﨑玲奈 (ムニ/青年団
人は何によってできているのだろう。自分ではない「誰か」として、ぼろぼろ忘れながら、忘れ物を毎日しているような気分で生きている気もする。他者の知覚を追体験することはできるのか。「痕跡」「傷」について、顔を巡る旅をします。

映像撮影に小宮山菜子さんを迎え、新作短編『回る顔』の無料ライブ配信を行います。
今年は、7月にコンクールに出て、11月にムニの公演を計画中でした。どちらも難しくて、そんな中、3月の公演に向けて、新作短編のライブ配信を行うことにしました。配信は演劇なのかとか、さまざまな意見があるかと思います。けれど、いつもどおり、演劇という装置を通して、世界を捉えなおす、歪みの知覚について探求しています。画面の向こう側の顔も一緒に、知覚を巡る旅ができたらと思います。

この配信は、宮﨑企画「秋のオンラインフェス!」のプログラムです。詳細は劇団HP(https://muni62inum.tumblr.com)をご覧ください。


宮﨑玲奈
劇作家・演出家。「ムニ」主宰。1996年高知県生まれ。青年団演出部所属。過去作に、大学卒業制作の『須磨浦旅行譚』(北海道戯曲賞最終候補)、宮﨑企画『つかの間の道』など。

小宮山菜子
1995年北海道生まれ。東京造形大学映画専攻卒業。映画制作を続けながら、演劇作品の映像に携わる。これまで、犬飼勝哉『木星のおおよその大きさ』『ノーマル』の撮影編集を担当。


伊藤香奈(2020年)

出演
黒澤多生(青年団)南風盛もえ(青年団) 藤家矢麻刀 宮﨑玲奈

スタッフ
映像:小宮山菜子 
照明協力:緒方稔記(黒猿)
舞台監督:黒澤多生(青年団
イラスト:江原未来
制作:河野遥(ヌトミック)

ムニ/宮﨑企画YouTubeアカウント(https://www.youtube.com/channel/UCKMSiXnHbb-LxlJO2Acd0vQ)より配信いたします。
アーカイブは翌日からYouTubeチャンネル「ムニ」でご覧いただけます
https://www.youtube.com/channel/UCKMSiXnHbb-LxlJO2Acd0vQ
※10月21日(水)までアーカイブをご覧いただけます。

simokitazawa.hatenablog.com
simokitazawa.hatenablog.com
www.youtube.com

*1:zfm.tokyo

*2:配信終了後の宮崎と小宮山のトークも刺激的だった。何を撮って、何を撮らないか。ここで書いたようなことは意図的なこだわりだったことが語られている。

コロナ禍で中止になったダムタイプ新作映像を上演 素晴らしい映像 KYOTO PARK STAGE 2020 ダムタイプ 新作パフォーマンス「2020」上映会

KYOTO PARK STAGE 2020 ダムタイプ 新作パフォーマンス「2020」上映会


【ロームシアター京都】ダムタイプ 新作パフォーマンス「2020」上映会 Trailer
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 映像作品だが相当以上に素晴らしい作品だったと思う。コロナで上演できなかったわけだし、もう少し断片的な記録映画的な映像かとも思っていたが、ダムタイプのひさびさの新作としては文字通り断片のつながりを思わせる出来栄えだった前作「Voyage」の初演を思えば格段の完成度の高さであった。映像も本当にクリアで素晴らしくて、音質のクオリティーも高く、新幹線代をはたいて京都まで駆け付けた甲斐はあったと思う。
 「OR」を最後に山中透*1が離脱した後「Voyage」までは共同制作とはいえ高谷史郎*2池田亮司の共作の印象が強まっていたが、今回の「2020」では山中透が復帰し、DJを務めることで、今回も池田亮司が音源を提供したとはいえ、「PH」「S/N」*3と続いたクラブサウンド的な要素の復活など、全体としての内容が多様化。実際には例えば音楽ひとつをとっても原摩利彦*4、濱哲史*5らより若い世代が音楽、映像を製作した場面も多かったようだが、「これがダムタイプだ」と思わせるような場面はむしろ彼らの制作した場面に多く含まれていたようで、「ダムタイプ的なるもの」が確実に次の世代にも受け継がれていることも感じさせた。
ダムタイプの最大の特徴はそれぞれ個性のそして得意分野の異なるアーティストによる共同制作であるということだ。世間ではダムタイプ古橋悌二あるいはダムタイプ=高谷史郎のイメージが敷衍しているかもしれないが、彼らはそれぞれ個人としての作品も製作するアーティストであったが、個人の作品とダムタイプは異なる。
 もちろん、こうしたマルチメディアパフォーマンス(メディアアート)は通常でも音楽、映像、振付、パフォーマー、美術など複数の分野のアーティストが参加して作られるものではあるが、それらとダムタイプが決定的に違うのはそれぞれが特定の作家の指示に従いイメージに従い作品に音楽、映像、美術を提供するというだけではなく、制作初期段階からお互い分野にこだわらずに相互にアイデアをぶつけ合い、一緒に作り上げていくというプロセス(過程)のディティールにこそダムタイプの唯一無二性はあった。
 それゆえ、例えばダムタイプに憧れた若いアーティストが集まって共同制作で作品を作り上げたとしても、それはダムタイプにはならない。その意味で藤本隆行*6、山中透、泊博雅、高谷史郎、高谷桜子らダムタイプを初期から知るメンバーが参加、ダムタイプとして活動するのに先述のより若い世代のアーティストも参加した今回のプロジェクトは「ダムタイプ的なるもの」が次の世代に受け継がれる最後のチャンスであったかもしれない。
 その意味では舞台は私のような以前からのダムタイプファンには明らかに「S/N」のフラッシュライトの点滅の中、壁の向こう側にパフォーマーがのみ込まれていくシーンへのオマージュとして作られたであろう印象的なラストをはじめとして、ダムタイプといえばな、光の点滅がハイスピードで左から右へと流れていく中で、ピっという電子音が定期的に鳴り響くお馴染みの場面など随所に意図的にダムタイプのイメージを散りばめたような場面も数多く挿入され、きわめて懐かしい場面も含まれていたのだが、こういうのは初めてこれでダムタイプを知った若い観客にはどのように映ったのだろうか。
 数十年間様々な舞台芸術を見続けてきた私の目にはいつの時代もダムタイプのパフォーマンスというのは古びるということはなくて、例えば現代日本メディアアートの最高峰にあると考えられるライゾマティクスリサーチ(真鍋大渡)と比べても斬新さという点において何ら遜色はないと思っているのだが、私も老人の身。こうした感覚は知らぬうちに狂っているということもあるやも知れぬ。若い人の感想をぜひ聞いてみたいところだ。
 作り手の側にはいっさい非はないことではありながら、現時点で作品を見ると不満足なのはこの作品が上演できなかった理由でもある未曽有の出来事、新型コロナによる全世界的な感染爆発がこの作品には入っていないことであった。ダムタイプの代表作「S/N」はやはり感染症であるHIVの世界的流行を背景にいま現在ではLGBTなどとして一般にも知られる性的マイノリティーの問題に取り組んだ先験的作品であった。そうであるならばダムタイプこそがコロナを巡る様々な問題群を描き出す作品を制作するのに最適な集団だと思うが、もちろん、「2020」はコロナ前に構想、制作された作品だからそれはないものねだりというものだろう。
 パフォーマーも懐かしいメンバーが砂山典子、田中真由美、薮内美佐子らお馴染みのメンバーが顔を揃えてくれていたことは嬉しいことであった。とはいえ、ダンス的な要素としては平井優子と今回新たに加わったアオイヤマダ*7の存在感は作品に大きなインパクトを付け加えて見せたのではないか。
 コロナがどうなっていくかは予断を許さない状況ではあるが、ダムタイプにはこの問題がある程度、収束し、作品制作が可能な条件が出揃った時点で、コロナ/ポストコロナをモチーフにしたさらなる新作を制作してほしい。そして、それはきっと新生ダムタイプの船出となるだろうと思う。

2020年10月16日(金)~ 10月18日(日)

ダムタイプ 新作パフォーマンス『2020』を映像化、世界初公開!
18年ぶりのダムタイプの新作として、国内外から高い関心と注目を集めたパフォーマンス作品「2020」の上映会が決定しました。本作はKYOTO STEAM―世界文化交流祭―2020のプログラムのひとつとして、2020年3月に上演予定でしたが、新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため中止したパフォーマンス作品で、このたび、無観客で収録、編集したものを、満を持して公開します。現代の人間社会が直面する事象について、洞察と探求を繰り返した末に完成した本作は、時代の大転換期に生きる私たちに深い思考を促すでしょう。

ダムタイプ
池田亮司・大鹿展明・尾﨑聡・白木良・砂山典子・高谷史郎・高谷桜子・田中真由美・泊博雅・濱哲史・原摩利彦・平井優子・藤本隆行・古舘健・薮内美佐子・アオイヤマダ・山中透・吉本有輝子
宣伝美術:南琢也

新型コロナウイルス感染症の状況によって、情報が変更になる場合があります。

rohmtheatrekyoto.jp

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:simokitazawa.hatenablog.com

*4:2019.kyotographie.jp

*5:www.ntticc.or.jp

*6:simokitazawa.hatenablog.com

*7:コンテンポラリーダンス界隈では聞かない名前だったので、誰だろうと思ったのだが、BABYMETALや米津玄師らのMVに出てる人だったのか。こういうボーダー領域からのスターダンサーが今後は現れてくるんだろうなと思った。まだ、19歳か。凄い。