下北沢通信

中西理の下北沢通信

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2006年今年の収穫

◎「2006年今年の収穫」 中西理(中西理の大阪日記)http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/
「悲劇喜劇」(早川書房)アンケート
A=戯曲
1.前田司郎「さようなら僕の小さな名声」(五反田団
2.前田司郎「ふたりいる景色」(五反田団
3.畑澤聖悟「夜の行進」(渡辺源四郎商店)
今年目立った才能といえばまずなんといっても五反田団の前田司郎を挙げなければならないだろう。一昨年の岡田利規チェルフィッチュ)、昨年の三浦大輔ポツドール)に続く、きわだった才能である。いわゆる「セカイ系」との近親性を感じさせる妄想劇は2000年以降の若手作家らに顕著なひとつの傾向を示すものだが、その中でも前田のとぼけたなかにも毒を感じさせる劇世界は頭ひとつ抜きん出ている。弘前劇場を退団、自らの集団を立ち上げた畑澤聖悟の活躍ぶりも目立った。
B=舞台
1.維新派「ナツノトビラ」(作・構成・演出・松本雄吉)
2.五反田団「ふたりいる景色」(作・演出前田司郎)
3.ポかリン記憶舎「煙の行方」(作・演出明神慈)
  意図して選んだわけではないが今年(2006年)を象徴する芝居と考えた時に非日常との邂逅を描いたこの3本となった。いずれも「死者ないし異界との遭遇」という伝統演劇である能楽に通底するような構造を持っており、それを舞台でアクチャルに示現させる独自の方法論を持つ。維新派「ナツノトビラ」はこの集団がいまもなお進化を続けて、新たなフェーズに入りつつあることを示した道標となった舞台。五反田団の前田司郎もこの舞台と「さようなら僕の名声」の2作品で、平田オリザの重力圏から離れ、「妄想劇」という自らの立ち位置の独自性を明確に示した。「煙の行方」も単なる再演にとどまらず京都・須佐命舎という「場の力」を存分に活用した「見立ての演劇」という新たなアプローチを鮮明にした。 
C=演技
1.金替康博(五反田団「ふたりいる景色」=MONO)
2.小山加油維新派「ナツノトビラ」)
3.加藤巨樹(いるかHotel「月と牛の耳」=Axle、劇団ひまわり
 金替康博は情けない男を演じさせたら日本で一番似合う俳優。世間との関係をいっさい絶って、ゴマだけを食して、即身仏になるというなんとも浮世離れした人物がリアルに感じられるのは彼の存在あってのことであった。小山加油は「ナツノトビラ」の少女を好演、この作品は彼女なしに成立しなかったであろう。聞くところによるとこれを最後に維新派退団ということらしいが、なんとも残念としかいいようがない。いるかHotelの「月と牛の耳」はキャスティングの妙が光った好舞台だったが、なかでも3枚目から2枚目にキャラを豹変させた加藤巨樹の演技は印象的であった。
  
D=演劇書
1.宮沢章夫東京大学『80年代地下文化論』講義」 (白夜書房
 演劇書にいれていいかは迷うところだが、劇作家、宮沢章夫が東大の学生を前に80年代の東京のサブカルチャーについて講義した本書の内容は刺激的であった。