下北沢通信

中西理の下北沢通信

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2007年今年の収穫

◎「2007年今年の収穫」 中西理(中西理の大阪日記)http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/
「悲劇喜劇」(早川書房)アンケート
A=戯曲
1.前田司郎「生きてるものはいないのか」(五反田団+演劇計画2007)
2.畑澤聖悟「小泊の長い夏」(渡辺源四郎商店)
3.青木秀樹マトリョーシカ地獄」(クロムモリブデン
 もっとも注目される劇作家・演出家を挙げるとすると五反田団の前田司郎を挙げなければならないだろう。前田は京都芸術センターとの共同製作となった「生きてるものはいないのか」で昨年に引き続きその才気を見せ付けた。いわゆる「セカイ系」との近親性を感じさせる妄想劇は2000年以降の若手作家らに顕著なひとつの傾向を示すが、前田のとぼけたなかにも毒を感じさせる劇世界は頭ひとつ抜きん出ている。畑澤聖悟、青木秀樹の活躍ぶりも目立った。
B=舞台
1.維新派「nostalgia」(作・構成・演出・松本雄吉)
2.MIKUNI YANAIHARA PROJECT「青ノ鳥」(作・構成・演出矢内原美邦
3.地点「かもめ」(演出三浦基)
  維新派「nostalgia」の第1位は動かしがたい。「<彼>と旅する20世紀三部作#1」という副題がつけられ三部作の始まりとなる。主題(モチーフ)的にもこのところ続いた絵画的ビジュアル重視から物語(ナラティブ)の要素が強まり次の段階(フェーズ)に入った。ニブロール矢内原美邦アウトサイダーながら刺激的な舞台を作る一人。「青ノ鳥」はその実験性において90年代にもっともラジカルな方法論的実験を行った山の手事情社の安田雅弘を思わせた。ここでは「かもめ」を選んだが「ワーニャ叔父」「桜の園」とチェホフ四大戯曲の連続上演に挑んだ地点、三浦基も確かな舞台成果を残した。 
C=演技
1.宮越昭司(渡辺源四郎商店「小泊の長い夏」)
2.こやまあい(遊劇体「天守物語」)
3.江口恵美(桃園会「a tide of classics」)
 「小泊の長い夏」で宮司を演じた宮越昭司の存在感は本当にすばらしく、この重くて、ある意味現実離れした絵空事にもなりかねない設定に見事にアクチャリティーを与えた。個人的には「天守物語」といえばク・ナウカ、なかでも富姫の美加理がワン・アンド・オンリーの存在なのだが、こやまあいの富姫もなかなか印象的で鮮烈な印象を残した。岸田國士紙風船」の妻役を演じた江口恵美の演技も忘れがたい。
D=演劇書
1.ハヤカワ演劇文庫の刊行
 早川書房の雑誌「悲劇喜劇」にこれを書くのは手前味噌になりそうだし、創刊は2006年なわけだが、今後への期待もこめて選んだ。平田オリザや坂出洋二の戯曲が文庫で読めるというのは少し昔だったら、ちょっと信じられない快挙である。版権の問題もあり難しいかもしれないが、今後は岡田利規三浦大輔ら若手劇作家の作品も取り上げてほしい。