下北沢通信

中西理の下北沢通信

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10月のお薦め芝居(2004年)



10月のお薦め芝居


10月のお薦め芝居

by中西理



 




 先月は忙しくてついにお薦め芝居の原稿を落としてしまった。下北沢通信サイトもプロバイダーの都合で消滅してしまい現在、リニューアルを含めて移転を検討中。観劇の記録などは。大阪日記の方で継続中なのでそちらを覗いてみてほしい。




 今月のお薦め芝居のイチオシは東西での野外劇の対決。大阪はもちろん維新派「キートン」★★★★(大阪南港ふれあい港館駐車場内、〜27日)、東京はク・ナウカアンティゴネ」★★★★東京国立博物館本館前、〜20日)である。
 維新派「キートン」はサイレント映画時代の3大喜劇スターの1人、バスター・キートンがテーマ。奈良・室生、岡山・犬島、東京・新国立劇場とここ3年間旅公演を続けてきた維新派がひさびびさにホームグラウンドの大阪・南港に戻り、過去最大規模の舞台装置を建設する。今回は舞台美術を惑星ピスタチオのビジュアルコーディネーターとして知られるデザイナーの黒田武志が担当。構成・演出・脚本の松本雄吉、音楽の内橋和久との新コンビで取り組むのも話題。
 維新派の松本雄吉は舞台美術の林田裕至*1と組んで「南風」など祝祭的な舞台を作り上げてきたが、今回は黒田と組むことでオブジェや絵画がそのまま巨大化して動き出すような舞台を仕上げた。サイレント、モノクロームの映画の世界の再現にも挑戦したことでこれまでの維新派ともまたひと味違う新たな世界を体験することになりそう。
 一方、ク・ナウカアンティゴネ」は東京国立博物館の洋風建築をそのまま借景に使うという野外劇ならではの贅沢なロケーションが魅力。こちらもいままでの2人1役の演出ではなく、自在な演出に宮城が挑戦しており、タイトルロールを演じる美加理のビジュアルだけでなく、官能的とさえいってもいい台詞回しを堪能できる。




 弘前劇場「賢治幻想 電信柱の歌」★★★★アイホール)、ジャブジャブサーキット「しずかなごはん」★★★★ウィングフィールド)と注目の地方劇団の公演も見逃せない。弘前劇場の公演はなんと別役実の書き下ろし新作。あの別役ワールドが弘前劇場の手によるとどんな風に変貌するのか、楽しみである。一方、「しずかなごはん」ははせひろいちの新作。謎が謎を呼ぶ、はせのミステリな世界が今回挑むのは拒食症などさまざまな依存症を治療するクリニック。こちらもどんなものが飛び出してくるのか期待大である。




 群像会話劇(関係性の演劇)の旗手として長谷川孝治弘前劇場)、はせひろいち(ジャブジャブサーキット)とともに「3ハセ」と呼んできた長谷基弘の群像劇の佳作が再演され桃唄309「K病院の引越し」★★★★も神経科の病院が舞台。長谷はそこに入院している患者たちのおかしくも哀しい生態を淡々と描いていくことで、精神医療とはなにかといった問題を浮かび上がらせていく。




 東京では今もっとも旬な2劇団が相次ぎ新作を上演。チェルフィッチュ「労苦の終わり」★★★★シベリア少女鉄道「VR」★★★★は方向性こそまったく異なるが、日本現代演劇においてもっともラディカルな方法論を持ち、どんなものが飛び出してくるのか予想がつきにくい(けれど刺激的であることだけはおおいに期待できる)という意味でどちらも必見である。




 ダンスでは山下残「せき」★★★★金森穣Noism04「black ice」★★★などが気になるところ。言葉とダンスの関係のズレを遊んでみせる山下はいま関西でもっともラジカルな振付家といっていいだろう。ワーク・イン・プログレスの意味もあった演劇公演「せきをしてもひとり」では尾崎放哉(ほうさい)の自由律俳句を動きに変換してみせてくれたが、本公演ではそれがどんな風に変わるのだろうか。金森穣の新作は舞台美術・映像を元ダムタイプパフォーマー現代美術家高嶺格が担当するのも話題といえよう。




 関西の若手劇団でもっとも注目しているTAKE IT EASY!の中井由梨子が作演出を担当するシアタードラマシティプロデュース「猫堀骨董店」*2★★★★HEP HALL)は最近、音楽劇に傾斜してきた中井にとって初の本格ミュージカルへの挑戦。しかも、世界初?のアカペラミュージカルになるという。これまでに、1930年代の上海・平安時代・近代イギリス・鏡の世界などさまざまな場所や時代を舞台に、少年・ロボット・人形など、性別にとらわれないキャラクターを使い、独特の異世界を表現してきたTAKE IT EASY!の世界は「立体少女マンガ」とも評され、まさに劇団★新感線の女の子版といってもよく、最初に会った時には「打倒スタジオライフ」とも叫んでいた(笑い)から、これはそれに向けての第一歩といってもいいかもしれない。でも、まだ会場はドラマシティじゃなくてHEP HALLなんだけどね。




 ダンスでは京都クリエイターズ・ミーティング4「ダンスが先? 音楽が先?」★★★★にも注目。こちらは音楽家と振付家とのコラボレーションをテーマに巻上公一と北村成美のセッション、ダンス批評家で音楽家でもある桜井圭介が砂連尾理・寺田みさこと共同製作するなど盛りだくさん。
 





 
 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けます。私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。







中西



*1:1961年兵庫県出身。東京芸術大学油画科卒業。映画の特殊造形・美術デザイナーとして活躍。手掛けた主な作品に「ロビンソンの庭」(1987)「てなもんやコネクション」(1990)「水の中の八月」(1995)などがある。他、ポスターデザイン、CD-ROM製作、ゲームソフトのコンセプトデザインなどもこなす。維新派には『echo』(1990)以後、美術監督として参加。

*2:http://eee.eplus.co.jp/s/neko/cast.html