下北沢通信

中西理の下北沢通信

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6月のお薦め芝居(2005年)



6月のお薦め芝居


6月のお薦め芝居

by中西理



 




 Off Nibroll 、ポかリン記憶舎と刺激的な公演が目白押しだった先月の舞台だったが、残念だったのは関西の公演がいずれもやや肩透かしだったこと。今月の舞台ではぜひとも巻き返しに期待したいところだ。大阪日記もやや更新が遅れ気味だが、今月こそ張り切って更新したいと思っているので、ぜひ覗いてみてほしい。





 今月のお薦め芝居でまず、なんといっても一番に注目したいのはCRUSTACEA「GARDEN」」★★★★(梅田HEP HALL)*1である。今年の春横浜ソロ&デュオコンペティションでついにナショナル協議員賞を受賞した濱谷由美子の受賞後最初の新作となるとともにHEPHALLがスタートさせるダンス企画「Dance expression」の最初の公演にもなる。作品の詳しい内容は不明ではあるが、どうやら横浜で上演した「スピン」を発展させたものとなるらしい。
 前回の「R」はCRUSTACEAには珍しく立ち尽くすというようなミニマルな動きを主体とした舞台だったが、「スピン」は一転して体力の限界まで踊り続けるというコンセプトで、ダンサー2人のユニットであるCRUSTACEAの原点回帰といった作品だった。関西のダンス公演はこれまではどうしても限られた観客が見るものというイメージが強かったが、梅田HEP HALLがダンス公演のプロデュースに乗り出したのはそういう状況を変えていこうという意図が感じられ、ぜひとも私も応援していきたいところ。その最初の公演としてはエンターテインメント性が高くダンスファン以外にも訴求力のあるCRUSTACEAの起用はうなずけるところがあり、そういう意味でこれはダンスをこれまであまり見たことのない人にもぜひ見てもらいたい舞台なのである。
 そういえば今となってはずいぶん昔のことになるが、東京のコンテンポラリーダンスの客層が一気に広がっていくきっかけとなったのが、当時まだ無名といっていい珍しいキノコ舞踊団H・アール・カオス、Nestが参加した渋谷SEEDホール*2のダンスマトリックスなる企画であった。都心の一等地にある商業施設内にあるちょっとおしゃれな小劇場という点では共通点があるし、この公演が成功して後に次の公演が続くことで関西のダンスの置かれた状況に一石を投じてほしいという意味でも注目の公演なのである。




 関西イチオシの若手劇団といい続けてきたTAKE IT EASY!「暗号解読者」★★★★も楽しみな舞台。主宰である中井由梨子が作演出を務めるミュージカル「猫堀骨董店」がこの夏再演され、今回はシアタードラマシティ、東京では銀座博品館劇場と中劇場に進出するなど活動のフィールドが広がりつつあるTAKE IT EASY!だが、ミュージカルの影響もあってかファンタジー色の強かった前作から一転し今回は暗号解読ミステリに挑戦する。

 アメリカヴァージニアリンチバーグのワシントンホテル支配人、ロバート・モリスは、トマス・J・ビールと名乗る男に、錠のかかった鉄製の箱を預けられた。「この箱を、これから10年間大切に保管して欲しい。
 中には、私と私の仲間の命と財産に関わる重要な書類が入っている。もし、10年経っても私が帰ってこなかったら…錠を壊して箱を開けてもらいたい。10年後の6月に、この書類を読み解く手がかりとなる手紙が、あなたに届けられるだろう。」そうしてビールは立ち去り、二度と戻ってくることはなかった…。
 それから10年後。モリスは、謎の箱を開けた。中に入っていたのは、ビールの字で書かれたメモと、3通の不思議な書類。メモによると、どうやらビールは、彼の仲間と大量の金を発見し、その金をどこかに埋めたらしい。3通の書類に、本当の埋蔵場所と受取人が書かれているという。しかし、それらの書類は、ビールの手によって暗号化されていた!
 莫大な金が隠されていると知ったモリスは、6月に届くという手紙を心待ちにするが、結局その手紙は届かなかった。「ビール暗号」は、その後約1世紀に渡って様々な人の手を渡り歩いた。3通のうちの1通はなんとか解読することができたが、誰の知恵を借りても、どんな手を使っても、決して残り2つの暗号を解くことはできなかった。
 やがて、その伝説の暗号がふたりの日本人の手に渡る。努力と根気の秀才・北岡と直感と天性の才能の持ち主・河野。ふたりのライバルによる、「ビール暗号」を巡っての壮絶な暗号解読バトルが始まった!

 19世紀に実際にあった「ビール暗号」の史実をモチーフに虚実ないまぜ、中井由梨子の才気はそこからどんな新たな物語をつむぎ出すのか。立体少女漫画を思わせる分かりやすく魅力的な少年キャラつくりと意外と骨太で壮大な物語が魅力の集団が本領を発揮してくれそうだ。 





 関西では今月は笑い系の劇団の舞台が相次いで上演される。吉本興業の存在のためか関西といえば「笑い」というのがステレオタイプなイメージとしてついてまわるところがあるが、純粋に笑いに特化した集団というのは意外に少なく、演劇界の内部ではあまり正当な評価を受けていない不満がある。そんななかで関西を代表する笑い系劇団の新作として注目したいのがベトナムからの笑い声「ニセキョセンブーム」★★★★(アートコンプレックス1928)。

持ち味のスピードとテンポ、バイオレンスをベースに、ぬるーい間、シュールな名言、下品と残酷を織り交ぜる、黒川猛の狂気と妄想の「笑い」。立体化する俳優と特殊美術と音楽。
不条理感満載。嘘満載。気持ち悪さ満載。バカバカしさ満載のオムニバス4本。
もちろん、キョセンもニセキョセンも出てきません。

 ということでキョセンもニセキョセンも出てこないようだが、「日本の演劇界が12劇団になって幾年。今年も、新人獲得会議=演劇ドラフト会議が始まった。彗星のごとく現れたゴールデンルーキー。社会人演劇トーナメントを制した舞台美術家、世界のミヤケが認めた驚愕の衣装家…。果たして万年最下位の弱小劇団は、希望通りの補強を行うことが出来るか」という「ザ・演劇ドラフト会議」など今回も黒川猛ならではの悪意に満ちた黒い笑いが爆発しそう。この劇団これまでは京都以外からは行きにくい小さな劇場でこっそり公演することが多かったので、人には薦めにくかった(笑い)だが、今回は大阪などからも便利なアートコンプレックスでの公演ということもあり、これまで見てなかった人は一度だまされたと思って見に行ってほしい。絶対面白いはずだから。




 笑いにのみフォーカスした演劇としてはスクエア「けーさつ」★★★★にも注目したい。スクエア*3
といえばべたなイメージがつきまとうようだが、自らのサイトに「スクエアコメディのつくりかた 」と題して、*4どういう種類の笑いを志向しているのかを宣言しているかを読めば分かるように、その笑いは実は人間観察に基づく、シニカルなものである。強烈な個性を持つメンバー4人に加えて、前回出演した楠見薫のように客演の女優陣をうまくつかって思わぬ魅力を発揮させるのもここのセールスポイントといえるが、今回はわかぎゑふリリパットアーミー〓) 佐久間京子(ランニングシアターダッシュ)と強力な客演を迎え、これを迎え撃つスクエアの4人がどんな風に渡り合うのかも楽しみだ。 
 




 ベトナムからの笑い声と同じく笑い系に入るものの元・遊気舎の魔人ハンターミツルギの作演出によるトリオ天満宮ゴージャス「豪華客船フラミン号、沈没せず」★★★アイホール、7月1−3日)はもう少しゆるーい微妙な笑いが特色。これまで遊気舎に所属しながら、年に1回自分のプロデュース公演として「トリオ天満宮」公演を続けてきたミツルギだが、今回は退団して自らの集団「超人予備校」を発足して初の公演となる。ミツルギには笑いのセンスがあると期待し続けているのだが、これまでの公演ではそのゆるい微妙さが裏目にでているところもあった。今回こそ化けてくれと期待は大きいのだけれど、さてどうなるだろうか……。




 元・遊気舎といえばサカイヒロトの新作WIRE「H●LL」★★★にも注目したい。今回の公演は1年を通じて物語と演劇の可能性を探るという連続公演「スカリトロ」シリーズの一環として企画されたもので、この「H●LL」は全体として3つのフェーズに分かれたシリーズの集大成となる。第1のフェーズはJUNGLE iNDPENDENT THEATEREで上演された「DOORDOOR」と題するリーディング公演。第2フェーズとして昨年末、大阪芸術創造館の全館を使うインスタレーション(美術)&パフォーマンス公演「CROSS1」、大阪現代演劇際仮設劇場<WA>での「CROSS2」が上演され、それぞれ同じ物語と登場人物(キャラクター)、テキストを共用しながら、まったく異なったアプローチでの上演を試みてきた。
 サカイヒロトによれば今回の上演はパフォーマンス色が強かったこれまでの公演と比べれば演劇色の強いものになるらしい。ただ、アイホールをロビー空間も含めて使うなどこれまでの公演ではあまりない趣向も用意されているようで、どんな公演になるのか楽しみである。




 ダンスではトヨタコレオグラフィーアワード最終選考会★★★★に注目したい。今年で4回目を迎え、いまやその年度のコンテンポラリーダンスを振り返る夏の風物詩的存在にもなっているトヨタアワードだが、今年の話題は岸田戯曲賞をすでに受賞しているチェルフィッチュ岡田利規が候補にノミネートされて、演劇・ダンスの代表的な新人賞でのダブルクラウンという空前にしておそらく絶後だろうとも思われる快挙が果たしてなるかだろう。ただ、個人的には今年はついに以前から応援していた松山のYunny Danceがノミネートされたこともあり、その応援モードで参加するつもり。私の場合これまで応援してきた人が戯曲賞でもダンスのコンペでもことごとく落選するというジンクスのようなものがあって、応援をするというのがはばかられていたのだが、横浜ソロ&デュオでの濱谷由美子、岸田戯曲賞岡田利規とついにその壁を破って結果を出す人が出てきてくれたことで、今回は大手を振って広言することができるのである。




 演劇ではジャブジャブサーキット「成層圏まで徒歩5分」★★★★桃唄309「ブラジャー」★★★★とともに岸田戯曲賞の候補にもなった実力派の劇作家による新作2公演に注目したい。はせひろいち(ジャブジャブサーキット)、長谷基弘(桃唄309)ともに90年代末から2000年代はじめの日本現代演劇を席捲した「関係性の演劇」の代表的な劇作家であり*5、現在も手法的な実験を繰り返しながら私にとって、もっとも刺激的な舞台を作り続けている。
 はせの新作「成層圏まで徒歩5分」はとある商店街の文化サロン的なレストランを舞台に隣接する天文台の職員や研究者、近くの文化人や商店主、学生や旅行者が繰り広げる物語。
年に一度の<星見会>の企画を立ち上げる最中、怪しげな女が訪れたりして……。
 物語は彼がもっとも得意とするミステリ仕立てで進み、地方都市のある場所で起こる日常のなかに潜む非日常的な出来事に迫っていくというもので、こうした手法でこれまではせは彼の代表作といえる「非常怪談」「高野の七福神」といった傑作群を作り出してきているだけに今回の新作も期待が持てそう。
 一方、長谷の新作「ブラジャー」はブラジャーの歴史に託して人類の文化と経済と価値観の変遷を描くという壮大(?)な作品で、これだけではそんなものが演劇になるのか(笑い)、海のものとも山のものとも分からないところがあるのだけれど、こういう検討がつかない時に限って抜群に面白いものを作ってきた長谷なのでこの作品もきっと面白いものに仕上がっているはず。それにしても、強力のところに「株式会社ワコール」とあるのには笑ってしまったけれど、来年はついに初の関西公演が京都で実現しそうだと聞いているし、これってひょっとして最強のタイアップ演劇?。
 どちらの舞台も必見だと思う。




 水と油「不時着」★★★★の滋賀、大阪にも注目。関西の演劇・ダンスファンにもぜひ一度その不思議な世界を味わってもらいたい。水と油の世界を説明するときにまるでエッシャーの絵が動いているようなとついつい言いたくなるがこの作品はなかでもそんな雰囲気が色濃く出ている舞台。パントマイムというとあの白塗りで赤い鼻をつけたと勝手に勘違いして敬遠する人も多いようだが、水と油の舞台はスピード感に溢れて、スタイリッシュ。「百聞は一見にしかず」である。





 京都造形芸術大学出身の桑折現(こおり・げん)によるdots「KZ」★★★アイホール)にも注目したい。これまでオリジナルの映像・照明・音響・美術を駆使したマルチメディアパフォーマンスとして、ダムタイプと比較されることが多かったdotsであるが、学生劇団から桑折ら主要メンバーの卒業で今回は技術スタッフなども入れ替わり、新体制となったこともあり、これまでの作品とは少しテイストの違ったものとなりそう。以前に話を聞いたところでは桑折自身はこれまでのdotsよりもやや演劇的なところに興味の中心が移りつつあるとのことで今後の展開を占う意味でも見逃せないものとなりそうだ。





 
 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。特にチェルフィッチュについてはどこかにまとまった形で書いておきたいと思っているのだけれど、どこか書かせてくれるという媒体はないだろうか。
 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。







中西



*1:公演の詳細はこちらを参照http://www.h2.dion.ne.jp/~capcr/page003.html

*2:今はなきと言わなければならないのが残念だが

*3:http://square.serio.jp/

*4:1.まず、身近で生活している人を用意する。2.その馬鹿さが笑えるまでよく観察する。3.次に、自分の馬鹿さを知る。4.馬鹿が馬鹿を笑っていたことに気付き、驚く。5.しかるのち、2つの馬鹿を共に笑う。6.明日も、とにかく生きてみる。7.1にもどる

*5:これに弘前劇場長谷川孝治を加えて、「3ハセ」と名付けたこともあった