年末恒例の2016年演劇ベストアクト*1 *2 *3 *4 *5 *6 *7 *8 *9 *10 *11 *12 *13 を掲載することにしたい。さて、皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメントなどを書いてもらえると嬉しい。
2016年演劇ベストアクト
1,青年団リンク キュイ「止まらない子供たちが轢かれていく」「不眠普及」(小竹向原・アトリエ春風舎)
2,マレビトの会「福島を上演する」(にしすがも創造舎)
3,青年団リンク ホエイ「麦とクシャミ」(小竹向原・アトリエ春風舎)
4,僕たちが好きだった川村紗也「ゆっくり回る菊池」(こまばアゴラ劇場)
5,青年団リンク 玉田企画「あの日々の話」(小竹向原・アトリエ春風舎)
6,遊園地再生事業団+こまばアゴラ劇場「子どもたちは未来のように笑う」(こまばアゴラ劇場)
7,うさぎストライプ「みんな死ねばいいのに」(こまばアゴラ劇場)
8,SPAC「イナバとナバホの白兎」(駿府城公園 紅葉山庭園前広場特設会場)
9,杉原邦生×松井周「ルーツ」(KAAT神奈川芸術劇場)
10,ミクニヤナイハラプロジェクト「東京ノート」(吉祥寺シアター)
今年1年の演劇界を振り返ったときまず特筆せねばならぬことは演出家の蜷川幸雄、維新派の松本雄吉、俳優の平幹二朗ら日本現代演劇を代表する巨匠が相次ぎ亡くなったことだ。それに伴い追悼公演として行われた維新派最終公演「アマハラ」のように忘れがたい印象を残した公演もあったが、ここではあえてそうしたものは外し、今後の現代演劇の新潮流ともなりそうな刺激を受けた舞台を選んだ。
青年団ならびにその関連の公演が過半を占めたのは単なる偶然ではなく、現在そうした動きの中核にあるのが、青年団であることを反映しているかもしれない。その中で今後への期待を含め、2年連続で青年団演出部の若き俊英、綾門優季の舞台をベスト1に選んだ。多田淳之介、前田司郎、松井周、岩井秀人ら次々と現代演劇の新たな才能を輩出した青年団周辺で次の世代を担うアンファンテリブルとして驚くべき才能の出現を感じさせたのが綾門優季(青年団リンク キュイ)だった。
対象はともにせんだい短編戯曲賞を受賞した「止まらない子供たちが轢かれていく」「不眠普及」を再演した2本立て公演。登場人物を「キャラ」として構築し、作品上に駒のように配置。その置き方は伝統的に演劇表現が造形してきた人間のリアリティーを感じさせるものではない。むしろゲームやアニメ・漫画のキャラに近いものといっていいかもしれないなどと昨年の「汗と涙の結晶を破壊」の解説で書いたが、学級崩壊をコミカルに描いた「止まらない子供たちが轢かれていく」はやはりそうした特徴を共有する作品。これに対し、もともとは一人芝居として上演された戯曲を加筆し3人の女優が役柄を変えながら演じた「不眠普及」はそれまでの綾門作品とは少し異なった趣き。さらにはここには挙げることはしなかったが、先ほど挙げた2つの舞台では演出は他人に任せ劇作家に徹していたのに対し、青年団リンク キュイの本公演としてチェルフィッチュの岡田利規の戯曲「現在地」を自らの手で演出し、演出家としての手腕も見せている。来春には3編の新作短編戯曲を3人の若手演出家により演出してもらい競作するという企画も控えており、綾門優季と青年団リンク キュイは今後もますます注目度を高めていきそうだ。
*1:2015年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20151231
*2:2014年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20141231
*3:2013年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20131231
*4:2012年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20121231
*5:2011年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20111231
*6:2010年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20101231
*7:2009年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20091231
*8:2008年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20081231
*9:2003年演劇ベストアクトhttp://www.pan-kyoto.com/data/review/49-04.html
*10:2004年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/200412
*11:2005年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060123
*12:2006年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20061231
*13:2007年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20071231