下北沢通信

中西理の下北沢通信

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 北村成美「シゲニカルゲート」(7時〜、アートシアターdB)なにわのコリオグラファーしげやん、こと北村成美の魅力がいろんな形で味わえる好企画であった。全体は3部構成で第1部が昨年初演されて以来再演を重ねてきた「ラベンダー」、第2部は劇場から飛び出して、シアターdBがその中にある都市型「遊園地施設」フェスティバルゲートの中庭に誘導されての即興の要素が強いダンス、第3部はこれが初演となる新作「うたげうた」であった。
 「ラベンダー」は昨年にフランスへの短期留学から帰還してすぐにその時の体験などを元に作った舞台であるが、その後、再演を重ねたこともあり、初演の時の八方破れぶっちゃけダンスの印象からかなり洗練された舞台へと進化してきている。
第1部が終わるとバスの添乗員よろしく先導する案内人に連れられて、観客はぞろぞろと劇場を出て、回転木馬のある遊園地の敷地に入り、少しひらけた中庭のような場所に移動させられる。第2部はこの公演とは直接関係のない公開空間で行われた。激しいロック調の曲がかかり、第2部とはうって変わって派手なピンクの衣装を着た北村が1階上の渡り廊下のようなところに現れ、そこから身を乗り出すように踊りはじめる。それをあっけに取られて見ていると北村は走って、観客の中に降りてきて、観客のすぐ近くで自らの存在を誇示するように激しく踊りだす。この時にはいつの間にか通り掛かりの人もいったいなにが始まったのかと足をとめて北村の元気いっぱいの踊りに見入っていた。
 劇場に戻っての第3部「うたげうた」はそれまでのテーストとは一変して静謐な雰囲気の舞台。客席に乱入したり、舞台上でバタバタ暴れ回ったりしないという意味で静かなイメージなのだが、かといって、いきなり冒頭部分では薔薇の花を花弁の方から口にくわえて、それを口から入れたり出したりしてみせるなど普通のダンサーならまずやらない北村らしさは健在。作品の熟成度としては「ラベンダー」よりは劣るが今後、リトルアジアダンスプロジェクト、踊りに行くぜ!と練り上げていく機会にはこと欠かないので、そうした試行錯誤を通じてどのような作品に成長していくのかに注目していきたい。少なくとも素材としては十分な可能性を感じさせる作品だった。