下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

東京コンペ「ダンスバザール大賞公開選考会」

 東京コンペ「ダンスバザール大賞公開選考会」(東京・丸ビルホール)を見る。

西尾美也 『Untitled(無題)』
初期型01-04 『ワキのニオイをワキガという』
長尾忍 『ランチタイムPM11:00〜PM14:00』
渡邊芳博 『混欲- flow』
わしろじんぺい/JINPEIプロジェクト 『光り絵』
たかぎまゆ 『UNDER GROUND CHEER LEADER 2』
はむつんサーブ 『アニメーションスタイルダンス』
ほうほう堂 『マーブル』
康本雅子 『メメごと』
高橋砂織×三好絵美 『白い恋人
pass into silence+Ruby 『sakura 2004』
岡本真理子 『まばたきくぐり』
ひろいようこ 『マシュマロ・アワー』
身体表現サークル 『範ちゃんへ?』
鈴木ユキオ 『明日の為に<その1> 体温、体音』
PORT+PORTAIL 『生きものの記録』

 公募で選ばれた16組の作品(それぞれ10分間のパフォーマンス)のなかから、3人の審査員(三浦雅士伊藤キムケラリーノ・サンドロヴィッチ)が各賞を選ぶというダンス&パフォーマンスのコンペティション。結果は次の通り。
大賞(100万円)=岡本真理子
優秀賞(20万円)=はむつんサーブ、初期型01-04、康本雅子
審査員賞(3万円)=渡辺芳博(伊藤キム賞)、ほうほう堂(ケラリーノ・サンドロヴィッチ賞)*2、西尾美也(三浦雅士賞)
協賛賞/キヤノン賞(キヤノンデジタルカメラ)=身体表現サークル
協賛賞/大丸有エリアマネジメント協会賞(3万円)=PORT+PORTAIL
協賛賞/丸の内法人会賞(3万円)=たかぎまゆ
 
 ケラがメンバーに入っている審査員の人選から、もう少しラジカルな賞になるのかと思っていたら、大賞は案外順当というか、保守的な結果でちょっと肩透かしである。大賞となった岡本真理子『まばたきくぐり』はこれまでいくつかのコンペに参加して惜しくも賞を逃してきた作品でもあり、何度もいろんな形で再演されてきたものでもあり、ダンス作品としてのクオリティという意味ではこの日のパフォーマンスのなかでは一頭抜きん出ていたことは確か。その意味では賞に値する作品だった。ただ、私としてはこの作品はもういいから「この次」が見たかった。
 個人的に面白いと思ったのはたかぎまゆ 『UNDER GROUND CHEER LEADER 2』、ほうほう堂 『マーブル』、康本雅子 『メメごと』、高橋砂織×三好絵美 『白い恋人』、身体表現サークル 『範ちゃんへ?』、PORT+PORTAIL 『生きものの記録』。その中から賞とかそういうことは度外視して純粋に好みで選ぶとすると高橋砂織×三好絵美 『白い恋人』。松山でのyummy danceの公演で見た時からこの作品は好きで、今回もう一度見てやはりこれはいいと再確認した。ただ、コンテンポラリーダンス&パフォーマンスのコンペというような場では選ばれる作品ではないだろうとは思うし、動きの細かいようなディティールの見えにくい今回のような状況ではこの作品のよさは分からないだろうなということも理解できる。馬の被り物を使っていたこともあって、ほとんどの人には単なる「ネタもの」に見えてしまったんじゃないかと思う。
 一部下馬評の高かった身体表現サークルは面白いには面白かったが、トヨタアワードにノミネートされて、オーディエンス賞を受賞した前の作品に比べると、現時点での完成度はあまりにも低すぎた。同じようなことは程度の差こそあれ、康本雅子『メメごと』にも感じた。どちらも現時点では素材としては面白いのだが、作品として評価するようなレベルには達していなかった。逆にほうほう堂 『マーブル』は表題のとおりに色彩感覚にあふれたポップさが好ましかった。こちらは個人的には作品の方向性としてはトヨタで踊った作品よりも彼女らの魅力が素直に発揮されているように思えて好ましく思ったのだが、よくも悪くもパステルでさらっと描いてみたラフスケッチのようなところがあって、これが完成形なのかというとちょっと疑問符。たかぎまゆ 『UNDER GROUND CHEER LEADER 2』もキッチュな面白さに本人のキャラも重なって面白く見られたが、身体表現としてオリジナリティがあるのかといわれれば苦しい面もある。PORT+PORTAIL 『生きものの記録』は
Kim Miyaという人の作品を初めて見て、こういうある種ウェルメードなコンサートピースのような作品を作らせたら腕があって達者な人だと感心させられたが、これもコンテンポラリーダンスの枠組みで彼女だけの独自性があるのかというとちょっと弱いといわざるをえない。
 ダンスのコンペというのはそれぞれの作品自体のよし悪しも当然あるにはあるのだが、最近はそれぞれのコンペの審査員がどういうスタンス(判断基準)で作品を選んだのかということが、逆にそのコンペの性格付けを逆照射するような色合いがより強くなってきている。
 この東京コンペでは授賞式で伊藤キム氏がすべての作品についてどういう風に評価したのかを逃げないでコメントしたことには潔さを感じた。
 以前にも何度か触れたけれど、最近の東京のコンテンポラリーダンスの風潮はアイデアやキャラ優先でなんでもダンスと言い張ればそれでダンスというところがあって、それが気にはなっていたので、いつかそういう風潮に対してはっきりとアンチを突きつける人が現れるだろうなと思っていたのだけれど、この日の伊藤キムの発言はそれが彼の口から出てきたというのがちょっと意外ではあったのだけれど、「ついにでてきた」という意味では興味深かった。
 逆に残念であったのはコンテンポラリーダンスだけでなくコンテンポラリー&パフォーマンスのコンペであることや10分の作品のビデオ審査という形でハードルをほかのコンペよりも低くしたことで既存のダンス界以外のところから隠し玉のようなものが出てくることへの期待があったのだが、そういうものはなくて、だいたいどこかで見たようなものが多かったこと。優秀賞にストリートダンス系のはむつんサーブ 『アニメーションスタイルダンス』を選んだことなどはこのコンペをトヨタや横浜と差別化しようという政治的な判断を感じられて、審査員の人選も含めて今後続けるとすれば課題が感じられるところでもあった。