下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

DANCE BOX vol.119「Dance Circus 29」

「Dance Circus 29」 (アートシアターdB)を観劇。

藤野直美「sa-la-la」作・出演 : 藤野直美 音楽:This=MISA×SAIKOU
市川まや「カラッポの抜け殻」振付・出演:市川まや作曲:大川剛
新宅一平「ローン地獄」作・出演:新宅一平音楽・衣装:ライオン会
はっぴぃすまいる「ドルチェ・オーラ」作・演出:TEN 出演:三林かおる、富田嘉代子
七感弥広彰/NANAMI Kohshou「improviseation〜blancheur sauvage#05〜」構想・出演:七感弥広彰

 5組が12分ずつの作品を連続上演する恒例のダンスショーケース。毎回見たことがない人のなかでキラリと光る才能を見つけられないかと楽しみにして、出かけるのだが、正直停滞感が感じられる。今回注目していたのはモノクロームサーカスのダンサーである藤野直美のソロ作品「sa-la-la」とはっぴぃすまいる「ドルチェ・オーラ」。藤野はカンパニーの作品で踊るところは何度も見ているのだけれど、彼女自身の振付作品を見たのはこれが初めて。モノクロームサーカスのメンバーは有吉睦子がソロ作品をこのところ精力的に発表したり、荻野ちよ、佐伯有香が「双子の未亡人」というデュオユニットを結成したり、主宰の坂本公成がここのところ個人的に多忙でグループとしての活動が少ないこともあってか、個人個人の活動が活発になっている。そのこと自体はいいことだと思うのだが、まだ未見の「双子の未亡人」は別にして、皆真面目なせいか、経験の浅さか、「悪くはないんだけれど、パンチ不足だなあ」という風に有吉、藤野の作品を続けて見て思ってしまった。
 藤野はダンサーとしての力量は高いので、今回の作品についてもソロのダンスとして特に後半部分などかなりの見ごたえもあったし、かっちりと作ってあるとも思ったのだが、厳しい見方をすればそれでなにが表現したかったのという印象が否めないのだ。有吉との比較でいえば、藤野の方がよりモノクロームサーカスの作品の匂いを強く残しているといえ、そのことは所属のダンサーの作品としてはかならずしも全面的に否定すべきことでもないことかもしれないが、今回は彼女の作品を初めて見ただけに「それでどうなの」という感想が先に出てしまった。ちょっと書き方が抽象的になっているので、もう少し具体的に書くと、この作品は全編にThis=MISA×SAIKOUの音楽を使った作品で、
ダンスを使って、その外側の枠組みでなにかを表現しようというよりは歌詞もある部分もあるとはいえ、どちらかというとあまり具体的な意味性のない音楽と照明による空間構成とダンスのムーブメントで見せていこうという方向性の作品だったのだが、見ていて具体的な物語とか、主題とかははっきりとは読み取りにくい。しかも、2人のダンサーの絡みなどによって、関係性が提示されることが多い、モノクロームサーカスの振付でよく使われるコンタクトインプロビゼーションとは違って、この「sa-la-la」は純粋のソロ作品で、映像などの具象的な素材も一切使ってないため、どうしても見る側は抽象的な身体のムーブメントそのものに注目せざるをえない。
 この作品では残念ながら、ムーブメントそのもので見せきるには動きの独自性がなく、どこかで見たことがあるという既視感を感じてしまった。ついつい厳しい書き口になってしまったが、ここまで書いたことはこの作品がこれまでダンサー専門だった人間が初めて(かどうかは不明だが、少なくとも最初のうちに)作った習作と考えれば相当にレベルは高く、例えばこのソロがそのままモノクロームサーカスの作品の一部に使われていたとしても遜色がないぐらいの出来栄えだったのも確かなのだ。ここがこの作品をどのように捉えたらいいのかをちょっと迷ってしまうところで、その意味ではソロでなにがやりたかったのか本人にも聞いてみたかったのだが、この日は忙しくてそれが出来なかったのは残念であった。
 一方、はっぴぃすまいる「ドルチェ・オーラ」はこの日見た作品のなかでは一番見ごたえのある作品ではあったが、作演出のTENがそれなりのキャリアもあって、関西のコンテンポラリーダンスでは砂連尾理+寺田みさこ、濱谷由美子、北村成美らに次ぐ第2世代の振付家としてすでにそれなりの評価を受けている存在であることからすれば、正直言ってまだまだもの足りない。コンテンポラリーダンスという枠組みでこれは自分にしかできない、だからこれをやっていますというストロングポイントがはっきり見えてこないのである。はっぴぃすまいるは元々、ジャズ、クラシック、ストリートダンスとそれぞれ出自の違うダンサーが集まって作られたダンスユニットということだったのだが、どうやらメンバーがひとり入れ替わったようだし、出自がといってもバレエいう基礎があるとはいえ、三林かおるは最近の活動形態からいえばほとんどコンテンポラリーダンサーのようなものだし、はっぴぃすまいる以外の活動でもTENと行動をともにしていることが多いようだし、TENが行っているほかの活動(sonnoなど)とどこがどう違うのかもはや区別がはっきりとはしなくなっている。しかも、この作品ではTENが出演していないこともあって、いわゆる「コンテンポラリーダンス」の制度的な枠組みのなかにすっぽりと収まってしまっていて、そういう意味での新鮮さがなくなっているのではないかと思った。