下北沢通信

中西理の下北沢通信

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渡辺源四郎商店「小泊の長い夏」@ザ・スズナリ

渡辺源四郎商店「小泊の長い夏」*1ザ・スズナリ)を観劇。

作・演出:畑澤聖悟
出演:森内美由紀(青年団)、工藤由佳子、佐藤誠青年団)、高坂明生、萱森由介、工藤静香(劇団夢遊病社)、宮越昭司(劇団雪の会)、藤本英円、三上晴佳、山上由美子、ささきまこと

 
近未来。地球温暖化の進んだ青森が舞台である。日本海に面した津軽半島の山間に小さな神社、大照神社(おおてるじ んじゃ)がある。美しい夕日を信仰し、代々続く秘術を人知れず守り通してきた老宮司(宮越昭司)。そしてその家族たち。変わりゆく空の下、家族の朝がいつもと変わりなく始まる。
実はこの家族たちは息子(ささきまこと)を除いてすべてこのために集められた偽者であった。死期の近づいた父親の元に29年ぶりに帰ってきた息子は父親に現在の境遇についてうそをついていた。死に臨む父親をがっかりさせまいとここで集められた家族たちは皆、これが終わればちゃんとした家に住むことができるという条件につられて集められた偽者たちだったからだ。
 この「小泊の長い夏」は弘前劇場時代からこれまでの畑澤作品によくある趣向と渡辺源四郎商店となっての新たな試みがバランスよく盛り込まれた好舞台であった。まずひとつ目の特徴としてこの舞台ではなにかの理由によって「うそをつく人」が重要な役割を果たす。「うそをつく人」は「演技する人」と言い換えてもいい。畑澤の代表作である「月と牛の耳」「夜の行進」「背中から四十分」「ケンちゃんの贈りもの」。実は今回の「小泊の長い夏」を見るまではそれほど明確には認識できていなかったのだが、今回はっきりと気がついたこれらの舞台の共通点はいずれも舞台上の相手役の前でなにかの「うそをつく」すなわち「演技する人」が登場することなのだ。例えば「月と牛の耳」には格闘家である父親とその息子・娘たちが出てくるが、それは一度寝てしまうとその日の起床から寝るまでの記憶を失ってしまうという特殊な記憶障害にかかって、7年前までで記憶が止まってしまった父親の前で息子・娘たちが今がまるで7年前であるかのように「演技をする」物語であった。
 その意味では「小泊の長い夏」は「月と牛の耳」のもうひとつの変奏曲のようなところが感じられる。ここでも父親と息子の関係、そして時の経過とともに受け継がれていく伝統というような主題はやはり重要な主題となってくるからだ。
 
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