下北沢通信

中西理の下北沢通信

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in→dependent theatre PRODUCE #10「ファイティングブロードキャスト」@independent theatre 2nd

in→dependent theatre PRODUCE #10「ファイティングブロードキャスト」(independent theatre 2nd
)を観劇。
 話の筋立ては公式サイトによるあらすじ紹介*1あるのでそちらを参照してもらいたい。要するに不動産会社に社屋を買収されそうになって右往左往するケーブルテレビ局「日本橋ケーブルビジョン」を群像劇として面白おかしく描き出すシチュエーションコメディなわけだが、芝居自体は出演する役者たちの奮闘で面白く見られた。
 西田政彦(遊気舎)や石原正一(石原正一ショー)ら一部のキャストを除けば30人となるキャストはいずれも
この劇場などを中心に活動している若手劇団の中からオーディションで選抜された俳優らで、最近はこうした若手劇団に対してはあまりフォローできなくなっていることもあってそれぞれの演技ぶりや個性を知るよい機会となるととともに何人かの役者たちの得がたいと思わせる個性にはその人の劇団を見てみたいと思わせるところもあって、収穫の多い舞台だった。こういう風に思わせただけでも劇場のプロデュース作品としてはそれなりの成果をおさめたといえなくもないと思う。
 ただ、シチュエーションコメディとして見た場合には根本的な難点があると思わざるをえなかった。というのは状況設定の強引さに納得しがたい部分が散見されるからだ。ケーブルテレビ局が日本橋に一大アミューズメントセンターを開発しようというデベロッパーの手によって買収されそうになるという設定はまだいいが、不動産会社の社長が自ら現れて「今から予定外の生番組を放送せよ」と無理難題を突きつけるということの意味、なんでそんなことをわざわざしなければいけないのかの動機がこの舞台からだとよくわからない。そのため、テレビ会社側がクリアしなければいけないという課題の条件設定がわからないので、番組が続けられるかどうかという状況設定にあまり緊迫感やアクチャリティーが感じられないのだ。ただ、難癖をつけるための無理難題ということではやはり弱すぎるし、あのとってつけたような終わり方にもやはり納得がいかなかったのだ。
 シチュエーションコメディならば例えば舞台の後、映画化もされた三谷幸喜の「ラジオ番組に降りかかってくる難題のようなものとそれにもかかわらずに番組を続けていこうと頑張るという登場人物たちという2つのベクトルのせめぎ合いにこそドラマのドライブングフォースとなるべきなのだが、この続けようという切迫感がこの舞台では非常に少数の人にしか共有されていない*2ため、観客もそれを共有するというこいとにはならない。結局はこの設定自体をひとつの枠組みとしてその場その場のこねたで笑いを取ったりして場をつないでいる。いくら個々のそうした場面は笑えたとしても全体の枠組みのゆるさが私には気になって最後までそれぞれの俳優の個性を楽しむという以上に物語に入りこむのが私には難しかった。
 もっとも、実は今回のこの舞台は2つの劇場で同時進行する2つの物語がシンクロするというのが企画趣旨のなかで大きな部分を占めているようだ。実はこちらもこの舞台だけでがいまひとつ効果的に取り入れられていないのではないかと思ったのだがもう1本の「ポーカーフェイス・アパートメント」は日曜日(22日)の昼に見る予定なのでそれを見た後でもう一度評価したいと思う。


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*1:http://i-theatre.jp/pro10/story02.html

*2:プロデュース公演としては仕方ないが、登場人物もシチュエーションコメディとしては出すぎでそのため焦点がぼけ散漫になったことも否めない