下北沢通信

中西理の下北沢通信

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寺田みさこソロダンス「愛音−AION−」@びわ湖ホール

寺田みさこソロダンス「愛音−AION−」びわ湖ホール)を観劇。

振付・出演:寺田みさこ 美術:高嶺格
 照明:高原文江[真昼] 音響:宮田充規[GEKKEN staff room]
 舞台監督:浜村修司 技術監督:夏目雅也 振付助手:石井千春
 振付協力:砂連尾理 宣伝写真:笠井爾示 宣伝美術:木村三晴
 協力:石井アカデミー・ド・バレエ 宮階真紀
 制作:橋本祐介、小倉由佳子
 主催:砂連尾理+寺田みさこ 提携:世田谷パブリックシアター
 助成:平成19年文化庁芸術創造活動重点支援事業 京都芸術センター制作支援事業

 寺田みさこソロダンス「愛音−AION−」も非制御の身体を舞台上に載せたいという意味では問題意識においては黒田と共通する部分を感じた。だが、実際の舞台のアプローチは非常に対極的に思われた。まず面白かったのは普段はデュオである砂連尾理+寺田みさこ(じゃれみさ)として活動している寺田の初めてのソロ作品だが、この人の場合ソロとデュオでは全然作品へのアプローチが違うと感じさせたことだ。 
 この作品では舞台の真ん中に水の入ったお風呂のようなプールのような穴があけられていることに加えて、舞台上には最初から最後まで石鹸の泡のようなものが降り注いで、最後のほうではそれが床を覆ってしまい体重をかけて激しい動きをしようものなら滑ってしまうような不安定な状態になる。こういう身体的負荷がかかる状況で寺田が踊るときに見えてくる制御不能の身体を見せたいおいうのがおそらく今回の美術を担当した高嶺格の狙いではなかったかと思われる。ところが皮肉なのは寺田の身体制御が実はそういう過酷な状況のなかでも片足だけで立ちもう一方の足を空中に浮かしたままさまざまなポーズを変えて足の表情の変化をたっぷりとみせる。その間に不安定な体勢であっても身体の軸がまったく崩れようとしない。こうした綱渡りのような超絶技巧を観客は目のあたりにすることになる。それは確かになかなかの見ものではあったが、この舞台ではっきり分かったのは今さらながらじゃれみさにおける砂連尾理の存在の重要性だ。寺田みさこのこの作品では確かに彼女のダンサーとしての凄さに驚嘆はしたけれど、その存在は「彼岸の人」すぎて、日常的な存在として通訳の役割を果たす砂連尾理がいて共感できたりするものとなるのだということがはっきりしてきた。