下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ウミ下着「少女は不幸がお好き」@大阪芸術創造館

ウミ下着「少女は不幸がお好き」(大阪芸術創造館)を観劇。

構成・演出・振付  中西ちさと
出演 池浦さだ夢/岡田由紀/重里実穂/福井菜月/中西ちさと
照明:馬場陽子 
音響:菊池航 
舞台:InagakiHiroshi
人形制作:畑崎みさき
制作:中本有紀子 
デザイン:中西ちさと 
写真:中本有紀子
協力:齋藤亮 珈琲舎 書肆アラビク


DANCEBOX主催の「なにわ橋駅! ダンスサーカス」で初めて作品を見た時に短い作品だったのだが、ダンスのテクニックはほとんどなくて、はっきり言って下手なのに(失礼)、妙にひかれるところがあり、公演があったらぜひ見にいきたいと思っていたカンパニーである。カンパニーと書いたが、実際は近畿大学出身の中西ちさとの個人ユニットで、メンバーは固定はしていないとのことである。
 前半はなかなか面白い。「少女は不幸がお好き」の表題通りに白いふわふわした衣装を着て人形を持った女の子が登場して、「妄想を喚起させ、五感に訴える身体表現」とのキャッチフレーズ通りに想像上の不幸に陶酔する少女を戯画的に描いていく。少女性というか「女の子」性を強調した表現や演劇的な要素が強いことにはクリウィムバアニーなどを彷彿とさせるところが若干あるが、映像を比べてみてほしいが、漫画に例えればクリウィムバアニーが乙女チックな少女漫画とすればウミ下着は「ガロ」の漫画か楳図かずお、要するにアングラっぽさがあるのだけれど、両者のイメージにはそのくらいの大きな違いがあるのだ。ただ、アングラっぽいとは書いたけれど、彼女らの作品にはポップなところもあって、それはKIKIKIKIKIKI(きたまり)やBATIK(黒田育世)のような舞踏をベースにしたような表現の持つ湿度のようなものとは明らかに一線を画しているところがあり、そこが新鮮なのである。

 前半は面白いとまず書いたのはアップテンポの音楽に乗せてキャラ立ちのはっきりしたような場面で見せていく前半に対して、後半部分では一転して静かな曲にのせてゆっくりした動きで身体をじっくりと見せていくような場面が続く。ここの部分が残念ながらまだ十分には成立していないように見えた。これは逆に言えば先ほど舞踏的な要素がないことをプラスとして書いたけれど、これは基礎となるようなダンス技術が不足しているということでもあって、このスローテンポな部分などでは技術のなさというその欠陥が露わになる。いずれは自分たちならでは動きのオリジナリティーは何かということと向かい合うことは必要ではあるけれど、現時点では欠陥が露呈しないように前半的な部分のみで作品を構成していくか、作品としての完成度を度外視してその不十分な部分と向かい合っていくか。長所においては魅力は十分にあるだけにここが難しいところであろう。
 というのはウミ下着を面白さは身体と向かい合うとかそういうことではなくて、「そういうものが全然なくても、アイデアとセンスで作品を成立させてしまうよ」という作り手の才気だったからだ。こういうセンスは踊れるというようなことよりもむしろ貴重だと思っている。ところが、往々にしてダンサーとして自分たちの身体と向かい合うというようなことを下手に考え始めると、それが仇になってこういう表層的な批評性の面白さがモダンダンス的な自己表出に絡み取られて、消えてしまいがちだということをいままでにも経験しているからだ。もっとも、ここままじゃ難しいことも確かなので、やはりそこが悩ましいのではある。いずれにせよ、関西にひさびさに次の作品が早く見たいと思わせられた、注目すべき若手が現れた、ことは間違いない。
 最後に一言だけ付け加えると客演の池浦さだ夢はこのカンパニー、あるいは作品にとって無用の長物であったと思われた。どうやら、振付の中西らは面白がって出演させているようなのだが、すごく内輪受け的な感覚を感じて、正直言ってあまりいい感じは受けなかった。もともと、池浦ならびに彼が率いる男肉 du Soleilにまったく面白さが感じられないということもあるのだが、それを置いておいてもこういう種類のくすぐりやゆるさというのはこのカンパニーには不必要で、女性だけのカンパニーとして押していった方がいいのではないかと思った。