下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

悪い芝居「らぶドロッドロ人間」ART COMPLEX 1928


悪い芝居「らぶドロッドロ人間」
日程:2010/5/19〜5/23 ART COMPLEX 1928(京都)
   2010/6/11〜6/14 王子小劇場(東京)
 作・演出:山崎彬 舞台監督:hige(BS-II)、涌本法明(BS-II) 美術:東野麻美
 照明:西崎浩造(キザシ) 音響:中野千弘 衣裳:西岡未央 小道具:梅田眞千子、
 進野大輔 宣伝美術:植田順平、山崎彬 演出助手:鈴木トオル、進野大輔
 広報:四宮章吾 制作:吉川莉早、大川原瑞穂、梅田眞千子
 共催:ART COMPLEX 1928 企画・製作:悪い芝居
 ART COMPLEX 1928 POWER PUSH COMPANY 京都芸術センター制作支援事業
 出演:
 きたまり(KIKIKIKIKIKI):心(彼氏の浮気が許せない女子、施設に自ら入所)
 吉川莉早 :愛(OL 心の彼氏を寝取る)
 大川原瑞穂:由香(愛の姉 小劇場女優 愛と部屋をシェア)
 梅田眞千子:未来(愛の友人 愛と部屋をシェア

 進野大輔 :足川(心のバイト仲間 心に叶わない片思い中)
 四宮章吾 :口男(心の彼氏、施設の侵入者)
 仲里玲央 :胸山(施設の職員、心の父親
 西岡未央 :尻田(施設の職員、心の母親)
 植田順平 :腰骨(施設の職員 長髪)
 山崎彬  :巨婦人(マザコン口男の母)

<料金>一般前売¥2500 当日¥2800
※各種割引あり
<お問い合わせ>悪い芝居 http://waruishibai.jp

 演劇のスタイルや演出を作品ごとに変化させるのは最近の若い劇団(柿喰う客、ままごと、東京デスロック、快快……)の特徴のようだが、悪い芝居もその典型。ただ、これまでは作品世界とそのスタイルがピタリとはまる感じがなかったのも事実だが、今回はよく合致したかも。舞台は2階建て構造になっていて、階上が「こころ」という名前の女の子の部屋がリアルなセットで作りこまれている。階下とその部屋の外側は「森の世界」と設定されており、そこは森のようなあるいは病院施設のようなイメージが混在しているが、リアルというよりは不思議さがただような空間である。
 「らぶドロッドロ人間」という芝居はこの2つの世界で物語が同時進行していくような構造となっている。互いに独立した2つの世界が同時進行していくという物語構造は最近では東浩紀の「クォンタム・ファミリーズ」がそうだし、もっというなら「1Q84」をはじめとする村上春樹の小説にも頻出する構造で、「セカイ系」的ともいえるし、今風ともいえなくはないが、逆に言えばそれだけではそれほど珍しいわけではない。
 今回の悪い芝居の独自の工夫と思われるのは階上の「部屋の世界」と「森の世界」ではそれを体現する俳優の演技のスタイル自体がまったく異なり、しかもそれが通常のように交互に展開していくだけではなく、時にシンクロ(同期)しながら同時多発的に進行していくということだ。
 複数の部屋で起きる出来事が同時進行していくという作劇法は最近ではポツドール三浦大輔が「顔よ」「恋の渦」などで用いており、異なる演技体が同じ舞台上で同時に展開していくという演出法も山の手事情社のハイパーコラージュなど過去に例がないわけではない。ただ、今回の悪い芝居「らぶドロッドロ人間」はその2つの手法を組み合わせたのがアイデアで、階上の「部屋の世界」では登場人物の演技は比較的リアルで、青年団あるいはポツドールによくあるような群像の現代口語演劇で展開される。これに対し、「森の世界」に登場する俳優らの演出・演技法はある意味80年代演劇的。部屋の世界での演技とはまったく違い、賑やかにあたり狭しと飛び回ったり、殴り合いをしたりしている。
 
 詳しい作品についての分析は後ほど台本を手に入れてから、時間がある時に書こうと思うが、大ブレイク寸前の若い劇団ならではの勢いを感じさせる作品。こういう勢いのある時期の集団特有の魅力というのは惑星ピスタチオ、遊気舎、シベリア少女鉄道ポツドール五反田団、ダンスで言えばイデビアン・クルー珍しいキノコ舞踊団など過去にも何度も立ち会ってきたが、今の悪い芝居にも同種の匂いというか輝きを感じ取ることができる。客演のきたまりもダンサーとしての特異な身体能力を発揮して大活躍。京都公演は終了したが、これからはじまる東京公演は要注目である。