下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

渡辺源四郎商店×(一社)おきなわ芸術文化の箱 渡辺源四郎商店第28回公演「ハイサイせば〜Hello-Goodbye〜」(2回目)@こまばアゴラ劇場

渡辺源四郎商店×(一社)おきなわ芸術文化の箱 渡辺源四郎商店第28回公演「ハイサイせば〜Hello-Goodbye〜」(2回目)@こまばアゴラ劇場

 戦時中に暗号代わりに一般の人には聞き取るのが困難な薩摩弁を用いたというエピソードはけっこうよく知られた話なのだが、いくら難解とはいえ使い続けていると相手に見破られてしまうので、今度は海軍省千代田区霞が関)の施設に津軽弁を話す青森出身者(三上晴佳、工藤良平)とウチナーグチ琉球語)を話す沖縄出身者(安和学治、当山彰一)がそれぞれ2人ずつ集められ、秘密作戦の遂行を託されるというのが「ハイサイさば」の物語の冒頭である。
 青森市に本拠を置く渡辺源四郎商店とおきなわ芸術文化の箱の合同公演。青森、沖縄双方の俳優が出演し、それぞれの方言が舞台上で展開される会話劇。畑沢聖悟の作劇術が巧みだ。沖縄戦間近の東京海軍施設に舞台をとり、冒頭に書いたように海軍の秘密作戦という触れ込みで話は進み、そのなかで青森、沖縄の方言が舞台上で頻繁に交わされるとともに、中央政府と地域(特に東北や沖縄と言う辺境地域)との現在まで尾を引く関係性(差別の構造)が浮かび上がってくる。
(以下ネタバレあり)











 現代口語演劇のなかに地域語(方言)を入れ込んでいくという手法は畑澤聖悟も以前在籍していた弘前劇場長谷川孝治が得意としていて、そこでは津軽弁だけに限らず関西弁や場合によっては中国語なども同じ舞台の中で交錯するような舞台空間が創造されたが、長谷川のそれはあくまで現代の日常語としての地域語であり、そうした様々な言語の混在によって提示されるのはそこにいる人々の微妙な関係性の変容であったりした。
 今回、畑沢も同一の舞台空間で複数の言葉を提示したが、その趣きは全く異なる。そこではそれぞれの言葉が動物園にいる檻の中の動物のように動態展示され、対比される。
 先にも挙げたように暗号を巡る物語という設定の面白さから、実はそれは真実ではなかったというプロット上のどんでん返し。さらにそういう中で次第に浮かび上がってくる(方言札などのエピソード)差別の構造、最後に見えてくる戦争の悲劇、それをささえる三上晴佳の絶妙の演技などこの舞台は重層的な面白さを抱えており、そこに評価すべき点は数多いが、実は最大の魅力は青森、沖縄の俳優が交わす方言とそれが生み出す「そこだけ」の空気感ではないかと思っている。
 どちらかの方言は聞き取ることのできる青森、沖縄での公演はともかく、東京の観客にはこの舞台のセリフの半分近くは逐語的に聞き取り意味を解することはできないとも思われるが、それでも確かに観客に届いてくるものはあって、それこそが「演劇」じゃないかと思ったのである。
 

作・演出:畑澤聖悟
出演:
<渡辺源四郎商店>三上晴佳 工藤良平
佐藤宏之 我満望美 工藤和嵯 畑澤聖悟
<劇艶おとな団>安和学治 当山彰一