下北沢通信

中西理の下北沢通信

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クロムモリブデン「たまには海が泳げ!」@花まる学習会王子小劇場

クロムモリブデン「たまには海が泳げ!」@花まる学習会王子小劇場

作・演出 青木秀樹

出演
池村匡紀 岡野優介 奥田ワレタ 小林義典 戸村健太郎 土井玲奈 花戸祐介 森下亮 吉田電話 渡邉とかげ

2018年3月20日(火)~4月1日(日)
佐藤佐吉大演劇祭2018 in北区」参加作品


 大阪時代に開催したセミネールレクチャーでクロムモリブデンのことを以下のように解説した。「ポストゼロ年代演劇の特徴1)その劇団に固有の決まった演技・演出様式がなく作品ごとに変わる2)作品に物語のほかにメタレベルで提供される遊戯的なルール(のようなもの)が課され、その遂行と作品の進行が同時進行する3)感動させることを厭わない……など」としたうえで「クロムモリブデンの舞台はポストゼロ年代演劇の特徴のうち1)2)が該当する。特に顕著なのは2)の作品に物語のほかにメタレベルで提供される遊戯的なルール(のようなもの)が課され、その遂行と作品の進行が同時進行する、であろう」と書いた。
 「たまには海が泳げ!」もそうした特徴を特に色濃く反映した作品だった。この作品では常時同じセリフ・場面が3回づつ繰り返されるループ構造が多用されている。
  なぜこういう風なスタイルになっているのかについて当日パンフで青木秀樹は「クロムモリブデンらしいスタイルだから」と説明しているが、これはもちろん青木ならでは見事なまでの嘘っぱち(笑)。これまで20年以上クロムモリブデンの芝居を見てきたが、セリフを3回繰り返すなどというスタイルがこれまで試みられたことがないからだ。
 とはいえこの繰り返しはポストゼロ年代演劇の特徴である「2)作品に物語のほかにメタレベルで提供される遊戯的なルール(のようなもの)が課され、その遂行と作品の進行が同時進行する」に該当するし、こうしたループ構造はいわゆる「ゼロ年代カルチャー」であるアニメ、ラノベなどに顕著なものであり、そのうちの多くは作品(物語)がゲームをモデルにしたような構造を持っているからでもある。
 もっと最近の演劇作品でも青年団リンク キュイの「来世でも前世でも君は僕のことが嫌」がやはりループを繰り返すようなゲーム的な劇構造を持っていた。ただ、それぞれの劇構造には大きな相違もある。クロムモリブデンが3回の繰り返しが連鎖するような構造になっており、さらに言えば最後の方で最初の方に上演された場面が再びリピートされているのに対し、 「来世でも前世でも君は僕のことが嫌」では厳密な意味でのリピートはない。ただ、劇世界に平行して5つの世界(シーン)があり、どの場面でも次々と人が殺されていくが、それを止めようとしている視点人物も含め全員が死んでしまうと世界はリスタートになって振り出しに戻ってしまう。
 いずれにせよ両者に共通するのは東浩紀のいう「ゲーム的リアリズム」のように作品構築のモデルがゲームないしゲーム的世界にあることだ。
さらに言えば通常であればPC(政治的に正しい)的にいえば完全にアウトな過激な描写を連発する(「来世でも前世でも君は僕のことが嫌」で言えば人を殺しまくる場面、「たまには~」は幼女レイプ犯が刑を終え、釈放されて出てくるという設定)という挑発的な作風にも共通点はある。
 ただ、今回の舞台では3回繰り返すというのが繰り返されるというループ世界は本当は現実の世界ではなくて、ある人物の脳内世界であり、それは最初に起こったとされる事件がその人物の謀りごととして、そそのかされて起こったことで、そのために真犯人は自殺してしまい、その事実と向かい合えなかったがゆえの妄想だったということが暗示されて終わる。 

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