下北沢通信

中西理の下北沢通信

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平田オリザ・演劇展vol.6 青年団『走りながら眠れ』@こまばアゴラ劇場

平田オリザ・演劇展vol.6 青年団『走りながら眠れ』@こまばアゴラ劇場

『走りながら眠れ』
能島瑞穂 古屋隆太

「ただいま」「おかえりなさい」
社会主義運動の中で虐殺された、大正時代のアナキスト大杉栄と妻の伊藤野枝
恋愛スキャンダル、幾度にもわたる投獄―
壮絶な人生を辿りながら、どこまでも己を貫いた彼らの最期の2ヶ月を繊細に綴った、大人の会話劇。
何気ない日常の中から、2人の生き様が浮かび上がる。
*上演時間:約80分

 現代ないし近未来における群像会話劇というのが平田オリザの作品のメインストリームであることは間違いないが、実在の歴史上人物や過去のある時代にフォーカスした作品もあるにはあって社会主義運動の中で虐殺された、大正時代のアナキスト大杉栄と妻の伊藤野枝を描いた評伝劇『走りながら眠れ』もそういう分野の作品。最近の上演では能島瑞穂(伊藤野枝)、古屋隆太(大杉栄)の二人が演じることが多いが、彼ら二人にとってもキャリアを代表する1本といってもいいかもしれない。特に物語上の中核的役柄を担うことの少なくない古屋隆太とは違って、能島瑞穂は「銀河鉄道の夜」Aチームで紹介した鄭亜美などと並び主役やヒロインを演じることはほとんどないのだが、癒し系のキャラクターで脇に回ると短い出番でも印象に残る役柄を演じることが多い。
 この「走りながら眠れ」はそんな能島瑞穂がヒロインを演じて、しかもふたり芝居だから80分近い上演時間の間ほぼ出ずっぱり。その魅力が存分に堪能できる作品でもあり、私は密かに偏愛しているのである。青年団では女性の性的な魅力などは隠蔽されているような演技態をとることが多いが、伊藤野枝が見せる素足とそれに時折触る大杉栄は実に生々しいもので、きわめてエロチックでもあるのだが、それは下品にならないのは能島、古屋が持つ品の良さかもしれない。