下北沢通信

中西理の下北沢通信

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世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007 『キネマと恋人』

世田谷パブリックシアターKERA・MAP#007 『キネマと恋人』

【台本・演出】 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

【出演】
妻夫木聡   緒川たまき

ともさかりえ
三上市朗 佐藤誓   橋本淳
尾方宣久 廣川三憲 村岡希美

崎山莉奈 王下貴司 仁科幸 北川結 片山敦郎

 評判が高かった作品だが、初演時は結局見られず。今回もチケット争奪戦に敗れ一度は諦めかけたが、追加公演で何とか観劇することができた。
 ヒロイン役の緒川たまきがなんとキュートなこと、全編が映画愛、特に喜劇映画愛に溢れていること。いかにもケラらしい作品で見ることができて良かったと感激した。批評家らしくない文章を続いたが、こういうのはまさに批評家泣かせというか、舞台はいろんな良さに溢れていてそれを列挙するたまけで終わってしまう。
 ケラは以前米国の無声映画時代の喜劇役者ロスコー・アーバックルらを描いた「SLAPSTICKS」*1を製作、あれも映画愛に溢れたとてもいい舞台だったが、この舞台はスタッフワークをはじめ、数段グレードアップされたもの。なかでも場と場の間の転換場面を良質のダンス作品のように仕立てあげた小野寺修二の仕事は本当に素晴らしく、この作品の洒脱さを象徴するような仕上がりになっていた。
「キネマと恋人」はウッディ・アレンの映画「カイロの紫のバラ」の翻案だということになっている。映画の登場人物がスクリーンから飛び出してきて、映画の大ファンだった夢見がちの女性と恋の逃避行にでる、などの主要なアイデアは映画から借りているのだけれど、作品を見終わって受ける印象はかなり異なる。
原作の「カイロの紫のバラ」では抜け出してくるのは主役のスターだが、ケラ版では脇役の喜劇役者ということになっているからだ。喜劇映画愛に溢れていると書いたのはそういうところだが、その俳優が会見に遅れてきた理由を古川緑波(ロッパ)を寄席で見ていたからだと熱く語るところなどいかにもケラらしさを感じさせるところだ。