下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ゆうめい「姿」@三鷹市芸術文化センター

MITAKA“Next” Selection ゆうめい「姿」@三鷹市芸術文化センター

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 最近見た若手劇団の公演のうちゆうめい『姿』@三鷹市芸術文化センターとキリグス 『MOTHER LAND』 @横浜STSPOTはどちらも実際の自分の家族にあったこと(家族史)を基にした舞台だった。ただ、キリグスが主としていつも娘の演劇作りに協力してくれる母親のために母親の生涯をファンタジー色を交えて描いたのに対して、ゆうめいは作者の実の父親が舞台に実際に父親役として出演しているなど「家族の間で実際に起こったことを舞台にした」という感覚が強い。
 それだけに母方の祖父母の間の不和やそれと類似の争いが両親の間で再び繰り返され離婚してしまったことの顛末などを赤裸々に描いてしまっているので、父母の知人とかが見に来る可能性もあるのにこういうことを舞台で見せてしまって大丈夫なんだろうかと余計な心配をしてしまった。
 そんなことを考えたのはこの舞台の中にはいろいろ作者(をモデルにした主人公)と東京の地方公務員で管理職をしている母親との価値観の違いと互いに理解できなさがリアルに書き込まれていて、母親が息子が現在しているアニメの仕事や演劇を「そんなものは何の価値もない」と簡単に切り捨てるところのリアルさ、そしてそのことの不愉快さはまるで自分も全否定されたような重みでもって迫ってきたからだ。
 実はこの母子のやりとりは最近の出来事であればあいちトリエンナーレを巡る一連の騒動で現代アート否定派の言説とも重なりあうようなところがある。この舞台は三鷹市運営の公立劇場の主催による公演であり、その意味では「公演の費用に税金が使われている」わけだが、この母親同様に税金を使わずに自分たちの金で勝手にやれと批判する側はほぼ確実に実際の作品を見ることもなく、価値がないと断じている。そして、池田亮のような若い表現者が置かれた社会状況というのはそういう人たちが跋扈するアーティストにとっては逆風下にあることは間違いないであろう。
 ところでそういうことにもましてこの舞台に関してぐっときたのが舞台の最後の方で出演者皆で踊られたモーニング娘。の「ハッピーサマーエンディング」に関することだった。実をいうと舞台を見終わった時点でもこの歌をここに置いた意味はあまり身に染みては分かっていなかったかもしれない。 この歌は表題通りにハッピーな感じの歌であるし、主人公の母親が若いころつんく♂モー娘。のファンだという話題が劇中のエピソードとして出てくるために物語の最後を飾る場面として先述したようなけっこうシビアで救いのない話のなかでの一服の清涼剤のような狙いで挿入したのかなというぐらいのことを思って見ていたのだ。
 ところが家に帰って来てからモーニング娘。の歌う「ハッピーサマーウエディング」を見ていていろんなことが一度につながって、シンクロしてしまい涙が止まらなくなってしまったのだ。
 ここから先は演劇評論というよりは私の妄想にも近いので聞き逃してほしいが、実はこの作品には直接出てこないが、作・演出の池田亮から「実は私も最近結婚したんですよ」との言葉を聞いたということがあった。つまり、この作品の内外には池田の家族の三代にわたる結婚というのが関連しているわけだ。そしてそのうち2回はうまくいったとは言い難い結果に終わったというのがかなり克明に描かれている。
 この物語内容を受けながらつんく♂がまだ結婚前のモー娘メンバーに書いた結婚前の娘が育ててくれた両親に向けた感謝の念を歌ったこの歌を聴いた特に私の中でその時点と現時点でのモー娘とつんく♂に関することとゆうめい「姿」の中で語られたいろんな人生のことが一瞬でフラッシュバックして爆発したのだ。

作・演出:池田亮
出演:森谷ふみ(ニッポンの河川)、高野ゆらこ、五島ケンノ介、石倉来輝(ままごと)、黒澤多生、児玉磨利(エンニュイ)、中村亮太(天ぷら銀河)、矢野昌幸、田中祐希(ゆうめい)、小松大二郎(ゆうめい)

主催:公益財団法人三鷹市スポーツと文化財

電話:0422-47-5122(三鷹市芸術文化センターチケットカウンター)

ゆうめい『姿』schedule
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出世したバリキャリの母。
慕ってきた定年後の父。
別れる。

女と男、妻と夫の今までとこれからのお話。
今のあたりまえ、から、次のあたりまえ。

実話を基に子が脚本を書いて演出し、実の父も演じる三鷹での演劇。

池田亮さんからのメッセージ

作・演出:池田亮
撮影:川喜田 茉莉

MITAKA“Next” Selectionに選んでいただいたので、「次」にまつわることをします。次々と遭遇しまくる「あっちは満足、でもこっちは超不満」という摂理みたいなものは、どうすりゃいいのか悩んだり聞いたり抵抗したりしながら、おずおずと、なんというか、公演を行うというより発表をする気でいます。

尊敬する俳優の方々に加え僕の実父も出演し、素晴らしいスタッフの方々と共に作る発表を楽しんでいただければ幸いです。

みなさま、どうかお願いします!


モーニング娘。 『ハッピーサマーウェディング』 (MV)