下北沢通信

中西理の下北沢通信

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多田淳之介×きたまり/KIKIKIKIKIKI「きたまりダンス食堂vol.5」@京都

多田淳之介×きたまり/KIKIKIKIKIKI「きたまりダンス食堂vol.5」@京都

 きたまりの即興ダンスなのだが、今回は東京デスロックの多田淳之介が選曲を担当、両者のコラボ作品と言ってもおかしくない公演となった。
 本当に多田淳之介のやりたい放題という選曲でこの曲選びの選択自体が、単に好きな曲を並べたというものではなく、演劇における脚本のように物語的な流れを与えるものとなっている。こういう時の多田淳之介の才能は「再生」や「RE/PLAY」 で既に明らかになっていることだが、今回は3時間という長尺の時間をもらってやりたいこと全部盛りという内容でおおいに楽しませてもらった。
とはいえ、強調せねばならないのはまずダンサー・パフォーマーとしてのきたまりの素晴らしさだ。3時間という長丁場たったひとりで踊り続けるわけだが、観客側もそれを見続けることになるわけだが、それでも退屈してしまうことがなかったのはきたまりが魅力溢れるダンサーだったからに尽きる。最近、コンテンポラリーダンスの作品で「ただ実験的なだけでは、見ていて退屈してしまう」などの感想を抱くことが時折あるのだけれど、演劇と違いことさらダンスの場合、批評の対象とすることは難しいのだが、「ダンスの魅力」における「ダンサーの魅力」が大きな役割を果たしていることが大きいことは否定できない。
 日本の代表的なダンスカンパニーを振り返ってみてもH・アール・カオスの白河直子、じゃれみさ(砂連尾理+寺田みさこ)の寺田みさこ、BATIKの黒田育子、BABY-Qの東野祥子、そしてもちろんKARASの勅使川原三郎、ヤザキタケシ(アローダンスコミュニケーション)。これらのダンスには優れたダンサーの存在が必須であった。きたまりはこうしたダンサーと並んで何の遜色もない優れた資質を持っている。というか、3時間の即興という条件を考えると前に挙げた存在のうちでも特別な存在感を持つ。それというのも舞踏出身だが、音楽に合わせての感情表出や激しい動きによるエネルギーの爆発など表現の領域がかなり広いからだ。
 とえいえ、多田淳之介の選曲はそうしたきたまりの手癖を見透かしたように畳み掛け、負荷をかけてきた。この企画の話を最初に目にしたときに見にこようと思ったのは私がきたまりをまるでアイドルのように追っかけているオタクだからというわけではなく、多田淳之介(選曲)、きたまり(即興ダンス)、上演時間3時間というのを聞いたときにこれは絶対多田淳之介にとって「再生」「再/生」「Re:Play」と続く、音楽に合わせて身体に負荷をかけることで現れてくる身体のありようを見せていく作品群の重要な最新作になるに違いないという確信があったからだ。そういう意味で選曲において、多田がどのように曲を入れてくるか。そしてそれは「再生」ないし「RE/PLAY 」の選曲と幾分重なり合うようなものとなることで、前作のイメージを喚起するものとなるんじゃないかと予想していた。そして、その場合、一番注目していたのは多田がいろんな作品のクライマックスで1曲だけ使うことが多い、Perfumeの楽曲をどこで使うのかということでもあった。
 そして、それは見事に的中したと言いたい所ではあるのだが、多田の選曲は完全に私の予想の斜め上を行っていたのだ。曲名は忘れたが最初の1曲目が終わった冒頭近くの場面でいきなり「RE/PLAY」のクライマックス場面で何度も何度もリピートされるPerfumeの「glitter」が突然始まったのだ。これは使われるとしてももう少しクライマックス場面でと予測していたのでいきなりここでというのはかなりの驚きであった。

Perfume GLITTER
(続く)

即興で踊る180分。お食事と、お酒と、そしてダンス。

即興で踊る180分。お食事と、お酒と、そしてダンス。 ダンサー・コレオグラファーのきたまりが、完全即興を己に課す「きたまりダンス食堂」。 2018年10月に行った初回は、3日間それぞれ異なるミュージシャンと切り結ぶ1時間のセッション。 2019年1月に臨んだ2回目は、iPodからランダムに流れてくる楽曲と無音の時間を織り交ぜておよそ1時間半。 2019年4月の3回目は、選曲にryotaroを迎え2時間、 2019年7月の4回目は選曲に原田忍を迎え、2時間半を踊り切った。 今回、きたまりが挑むのは選曲に多田淳之介を迎え、3時間踊り続けます。途中入退場自由! Ur食堂自慢のディナープレートと一緒に、心ゆくまでお楽しみ下さい。