下北沢通信

中西理の下北沢通信

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肋骨蜜柑同好会「殊類と成る」 @下北沢Geki地下Liberty

肋骨蜜柑同好会「殊類と成る」 @下北沢Geki地下Liberty

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殊類と成る

2019年12月5日(木)~10日(火) @Geki地下Liberty
酔わねばならぬ

気がついたら、見知らぬ駅のホームだった。
ここがどこなのかも、どうやって来たのかもわからない。
ぼんやりした意識の中で、男はやがてこんなことを考える。
一体これはどんな始末だ。
自分はもう、完全に人間ではなくなってしまったのだろうか。

偶因狂疾成殊類
災患相仍不可逃

今宵もあの山のどこかで
十六夜の月に照らされて
醜い獣が短く噑える
脚本・演出
フジタタイセイ
出演
嶋谷佳恵(劇団肋骨蜜柑同好会)
藤本悠希(劇団肋骨蜜柑同好会)
室田渓人(劇団肋骨蜜柑同好会)
森かなみ(劇団肋骨蜜柑同好会)

赤星雨(八角家/やさしい味わい)
安東信助(日本のラジオ)
杏奈(石榴の花が咲いてる。)
石川琢康
岩井正宣(SPプロデュース)
日下部そう
塩原俊之
林揚羽(しあわせ学級崩壊)
星秀美
丸本陽子
やまおきあや

フジタタイセイ(劇団肋骨蜜柑同好会)

 劇団肋骨蜜柑同好会は筑波大学出身のフジタタイセイらによる設立されて10年の中堅劇団だ。今回は出演者である女優でしあわせ学級崩壊の制作も務めている林揚羽さんの紹介で招待してもらったのだが、この劇団を観劇するのは初めてであった。
 設立されて10年というキャリアからすれば新人劇団とは言い難い。今回の舞台にもキャスト表で初めて知ったが、日下部そう、星秀美と名前を知っている客演陣もおり、それなりの活動歴はあるはずなのだ。舞台を見てみても作品のクオリティーはかなり高い。
 ところがうかつなことにこの集団の名前を聞いたことはいままでなく、東京を拠点とする劇団の中にはまだまだ知らない実力派劇団がいくつもあるのだろうなとあらためて思った。
 作品は中島敦のいくつかの小説作品とカフカの「変身」、シェイクスピアの「マクベス」からの引用やオマージュが全編に散りばめられており、文学好き好みの劇団ということができるかもしれない。それは小説も古典好きな私にとっては好ましいものであったが、そういうものにあまり興味のない最近の若い人にはややとっつきにくいのではないかとも感じた。
 物語の構造もけっこう複雑で前半部分では高校教師をしている男と「サブロウ」と呼ばれている引きこもりの男の話が交互に並行して語られるのだが、物語の最後になってそれが同一人物だということが明かされる。この構成は面白いものではあるが、やや唐突感があることも確かで若干狐か狸に化かされたような感覚でエンディングを迎えた印象もなくはない。
 作者によれば実はこの物語は実際に鬱で病院通いをすることになってしまった俳優の実話に基づいたものであるということだが、それをドキュメンタリータッチではなく、文学作品を縦横に引用しながら構築したというのがこの劇団の面白さなのであろう。