雨傘屋vol.4「わが星」@熊本河原町ギャラリADO(記録DVD)
ポストゼロ年代演劇の新潮流 ゲスト天野天街(少年王者舘)@三鷹SCOOL セミネールin東京に向けて
天野天街(少年王者舘)による柴幸男「わが星」
12月16日に少年王者舘の天野天街をゲストに迎え、三鷹SCOOLにてレクチャー&トークを開催する予定(予約募集中)なのだが、その準備もあって、熊本のみで上演された雨傘屋vol.4「わが星」の記録映像を見ることができた。熊本の雨傘屋という劇団(プロデュースユニット)と天野の共同制作作品は熊本地震により中止になったのを除けばこのところ毎年のように継続的に上演が行われている企画だが、残念ながら遠隔地ということもありこれまで一度も見ることができていない。
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演目自体が現代を代表する劇作家の作品を天野の独特な演出で上演するというもので、どんな風な作品が上演されたのかというのが知りたいものばかり。なかでも6年前(2013年)に上演された柴幸男「わが星」の上演は作者本人が天野の影響を受けて創作したと語る作品を影響を与えた側の天野がどのように演出したのかというのがぜひ知りたいと以前から思っており、今回記録映像という形ではあるが、見ることができたのは極めて刺激的な経験であった。
そもそも天野は過去にもさまざまな他者作品を天野演出で上演して経験はあり、私もそのいくつかを見てきたのだが、作品ごとに結果としての上演には何日もかけて煮込んだクリームシチューのように具材ともいえる原テキストが解体されてしまって、ほとんど原型をとどめていない場合から、原作のテイストを生かしながら十分な味付けをした具材がゴロゴロ入ったビーフシチューのような作品まである(とはいえどちらも作品の隅々まで天野の風味が浸み込んでいるのは違いがない)。
今回見た「わが星」は原テキスト自体に天野の劇世界との親和性が強いこともあり、珠水のオリジナル楽曲を何曲も使っていることもあり、使用楽曲の差し替えは随所にあつたけれどセリフ回しや発話のスタイル自体は私が想像していたよりもずっと原作に忠実なものであった。むしろ、驚かされたのは映像だけでははっきりとは分からないのだが、上演会場となった熊本河原町ギャラリADOという空間がまるで古い家屋の中の廊下を思わせるような細長く狭い空間であり、この作品がここで上演されたということが驚きでもあり、その制約もあってかままごとの上演ともまったく異なるが、通常の少年王者舘ともまったく雰囲気の異なる舞台空間となっていた。そして、そのことがこれまでは空間構成においてはどの作品においても作品を超えた「天野らしさ」を感じており、それがスタイルとも思っていたが、空間が変われば違う引き出しもいろいろ持っているんだと感心させられた。
その一方ではこの「わが星」という戯曲テキストからは少しの演出、演技や空間構成の違いでは揺るがない強さを感じた。これは山縣太一によるオフィスマウンテン版の「三月の5日間」を見た後の印象と少し似ている。山縣太一は作品で重要なのは俳優であり、俳優の演技であると強調したいようであったが、見た後に残ったのは「三月の5日間」という戯曲テキストの生み出す世界の強さであり、映像という条件付きではあるがこの「わが星」にも同様の強さを感じたのである。
とはいえ、これを見て逆に映像やダンスなどを付け加え、舞台装置も十分以上に建て込んだ少年王者舘による「わが星」もできれば下北沢ザ・スズナリで見てみたいと思った。本家のままごとはオリジナルキャストの何度かの上演を繰り返した現在「わが星」の上演は当面行わないと宣言している。いずれ「三月の5日間」同様にリニューアル版の上演もされることはあるとは思うが、今回映像を見てみてその前に少年王者舘版「わが星」を見てみたいと思ったのである。
(2013/5/31-6/4 6ステージ)
http://galleryado.com/
全自由 前売2000円 当日2500円 ペア割(2枚セット)3600円作:柴幸男[ままごと]
演出:天野天街[少年王者舘]
美術:雨傘屋舞台部
舞台監督:亀井純太郎
照明:玉垣哲朗
音楽:珠水[少年王者舘]
テクニカルサポート:坂本龍彦
チラシコラージュ:アマノテンガイ
チラシデザイン:SSI Art Factory DM・パンフレットデザイン:佐藤健二
受付:古殿万利子 制作:黒田惠子 雨傘屋制作部
出演:
椎葉みず穂 :わたし(ちいちゃん)
街乃珠衣[少年王者舘]:月ちゃん
平野浩治[劇団濫觴] :お父さん
松本麻衣子[あったかハートふれあい劇団]:お母さん
松崎仁美[劇団濫觴] :お姉ちゃん
コバヤシユカリ[小林どろり]:お婆ちゃん
徳冨敬隆[DO GANG] :先生
桑路ススム :男子