下北沢通信

中西理の下北沢通信

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コトリ会議「セミの空の空」(2回目)@こまばアゴラ劇場

コトリ会議「セミの空の空」(2回目)@こまばアゴラ劇場

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 以前と比べると定期的に東京公演を行う劇団が少なくなってきている現状でコトリ会議は大量動員がのぞめる人気劇団というわけではないのにこのところ毎年このこまばアゴラ劇場で東京公演を続けており、首都圏でも一定以上の評価を受ける劇団のひとつとなっている。
 これまでのコトリ会議(山本正典)の劇世界では何の脈絡もなく「宇宙人」という存在が出てきて、それが物語の進行の仕掛けとなっていたが、今回は出てこない。あえていえばセミか「2つめの月」がそれに似た存在なのかもしれない。
 ここで描かれる世界は生と死のあわいがあいまいな世界となっている。あるいは「セミの空の空」の世界では「2つめの月」のビームを浴びることで人間は変容するとされているのだが、ひょっとすると本人が気が付いているついていないの違いはありこそすれ、登場人物はもう全員死んでいるということなのかもしれない。
 そのように考えればいつも抜け殻を残し、短命でもあるセミは死のイメージを色濃く象徴なのかもしれない。この舞台を見ながら考えたのは日本のホラー映画との近親性である。のんびりとした演技と全体としての演出で舞台にはそれほど怖さを感じないのだが、世界観自体は「回路」の黒沢清「リング」中田秀夫らのホラー映画と近いかもしれない。

KAIRO

ただ、決定的に違うのはノイズ音やラップ音を多用した音響の有無であり、日本のホラー映画の怖さは音響が醸し出す空気感が生み出している部分が多分にあるので、演出演技はそのままでもそうした音を重ねていくとホラー味が増していくのではないか。一度そういうものを見てみたい。あるいは公演の映像があればこれに音響、音楽だけを不穏な感覚のものに差し替えて重なればまた違ったおもむきの作品となるのかもしれない。 

作・演出:山本正典

夏の日、息子がすがりついて、
「お父さん、コトリ会議の次回公演には宇宙人、出ないの?」
「出ないよ」
「僕宇宙人、出てほしいよう」
「タイトルをご覧。宇宙人、ひとかけらもないだろう」
「空の空だってカッコつけたって、どうせ宇宙のことなんだろう?」
「どうせ、どうせ宇宙なんだろう?」
「どうせ宇宙さ、そうだろう?」
「どうせ宇宙なんだろう?」
「どうせ宇宙なんだろう?」
「どうせ、どうせ」
「宇宙なんだろう?」

生きるものの小ささを軽妙な会話で丁寧に描く。その言葉は寓話的な表現を織り交ぜつつ、詩のような言葉で劇世界を立ち上げていく。
シアトリカル應典院演劇祭「space×drama2010」優秀劇団を受賞。
2017年に初めてのツアー公演『あ、カッコンの竹』をいきなり5都市で開催。同作で山本が第25回OMS戯曲賞佳作受賞。同年、第9回せんがわ劇場演劇コンクール 劇作家賞。ツアー公演とイベント企画での神出鬼没な小作品を両軸に活動中。

出演

牛嶋千佳、三村るな、まえかつと(以上、コトリ会議) 野村有志(オパンポン創造社)、中村彩乃(安住の地/劇団飛び道具)、浜本克弥(小骨座)

スタッフ

舞台監督 柴田頼克(かすがい創造庫)
音響 佐藤武
照明 石田光羽
演出助手 要小飴
美術 竹腰かなこ
小道具 伊達江李華(小骨座)
衣装 松崎雛乃
宣伝美術 小泉しゅん(Awesome Balance)
イラスト 牛嶋千佳
制作 若旦那家康<<

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