下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ロロ「四角い2つのさみしい窓」(2回目)@こまばアゴラ劇場

ロロ「四角い2つのさみしい窓」(2回目)@こまばアゴラ劇場

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劇中に出てくる「海岸沿いに透明な壁が建てられた。その壁を通して眺める海は、いくつもの過去が折り重なってみえるらしい」という壁はゴーストウオールと呼ばれている。時折その向こうから大きな波の音が聞こえる。海とこちらを隔てる半透明な巨大な壁。壁の向こう側には失われた家族がいる……。これは震災後に海岸に築かれた防潮堤のイメージではないか*1。芝居を見ながらこんなことを考えた。宮城県出身の三浦直之の作品の芯には震災により失われた故郷*2の原風景がある。今回の「四角い2つのさみしい窓」*3もそういう作品に見えた。
 もちろんそれ以外の要素もふんだんに盛り込まれているので、この作品を単純に「震災劇」と言い切ることには若干の躊躇があることも確かなのだけど、家族に象徴されるような壁の向こう側の過去の記憶は津波によって永久に失われてしまった故郷の姿の投影なのだろうと考えた。
 この物語は終わろうとしている劇団を描いた近未来劇*4でもある。前作である「はなればなれたち」*5もそうだったが、演劇あるいは劇団も最近の三浦作品の重要なモチーフ(主題)である。
 舞台である近未来の世界。その時代にはほとんどの演劇はVR(バーチャルリアリティ)になっていて、透明な壁の向こうの演者には触れることができない。これに対し劇中の劇団は昔ながらの演劇で旅公演を続けているという設定も三浦の演劇に対する強い思いを感じさせた。
 三浦の作品ではいつも音楽が効果的に使用される。劇中劇の場面が劇自体は野外劇でアングラ演劇的な表題なのにミュージカル的な音楽劇として提示されるのも三浦らしかった。途中でBGM的に流れラストでスマホからもう一度流された後、エンディング曲のようになる川本真琴の「にぶんのいち」*6
も印象的である。これは単にエンディング曲というだけではなくて、前段部分でムオクが「『2コの心臓がくっついてく』って歌詞からサビの『唇と唇 瞳と瞳と 手と手』って歌詞につながるんだけど、『くっついてく』の『く』と『くちびる』の『く』が実際にくっついて歌われるのはすごいないか」と強く主張していたのを新入りのサンセビに紹介する場面があって、そのことの意味はあまりはっきりとは分からないのだけれど、とにかくこの歌がムオクがよく歌っていた彼のテーマソングのような歌だったことは理解されて、ここでムオクのこととこの舞台のラストがつながるように思えてくるからだ。音楽の使い方はやはり巧みだ。

脚本・演出|三浦直之


海岸沿いに透明な壁が建てられた。その壁を通して眺める海は、いくつもの過去が折り重なってみえるらしい。
たくさんの人たちが壁のもとに集まってくる。目の見えない綱渡り師、透明人間の恋人を探す女性、窓ガラス清掃をする元役者、スノードームをつくる観光客、ミノタウロスとくだんのあいだに生まれた未来のみえないこども。

「私、フチになりたいんだ。麦わら帽子のフチとか、ルパンが盗む絵画の額縁とか、コップのフチ子とか、あと、絶望のフチとか」

今夜、透明な壁で物語が上演される。

ロロとは

劇作家・演出家の三浦直之が主宰を務める劇団。2009年、 王子小劇場で上演された『家族のこと、その他のたくさんのこと』にて旗揚げ。「家族」や 「恋人」など既存の関係性を問い直し、異質な存在の「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」を描く作品をつくり続けている。古今東西のポップカルチャ ーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持され ている。近年はヒップホップグループ「Enjoy Music Club」とともにライブ活動も行っているほか、15年に始まった『いつ高』シリーズでは高校演劇活性化のために戯曲の無料公開や高校生の観劇無料化を行うなど、演劇の射程を広げるべく活動中。主な作品として『LOVE02』(12年)、『ハンサム な大悟』(15年)、『BGM』(17年)など。『ハンサムな大悟』は第60回岸田國士戯曲賞最終候補ノミネート。http://loloweb.jp/

出演

亀島一徳 篠崎大悟 島田桃子 望月綾乃 森本華

スタッフ

美術|杉山至 照明|富山貴之 音響|池田野歩 衣裳|伊賀大介 舞台監督|鳥養友美

演出部|岩澤哲野 演出助手|中村未希 脚本協力|稲泉広平

宣伝イラスト|矢野恵司 デザイン|佐々木俊 広報|浦谷晃代 制作|奥山三代都 坂本もも

*1:初見では聞き落していたが、三陸地方南部に位置する夜海原町とあり、壁についても世界初の透明防潮堤グレートウォールとはっきり提示されていた。

*2:三浦直之は幼少期を宮城県女川町で育った。とはいえ、実際に家族が津波で亡くなったりしたというわけではない。

*3:気仙沼の防潮堤には壁の向こうに広がる海をそこから覗き込める四角い窓が開けられていて、今回の作品の表題はそしたイメージから取られたのかもしれない。blog.enviro-studio.net

*4:溜息座という劇団が「哀しみの鶏人間 血染めの鶏冠でまっぷたつ」という野外劇を上演している。

*5:simokitazawa.hatenablog.com

*6: