下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

連載)平成の舞台芸術回想録(5) 上海太郎舞踏公司「ダーウィンのみた悪夢」

連載)平成の舞台芸術回想録(5) 上海太郎舞踏公司ダーウィンのみた悪夢」

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ダーウィンをみた悪夢」から「#16 プロローグ 逆転」
 日本の現代演劇を最初に見るようになった時にその表現としての刺激的面白さに夢中になった集団がいくつかあった。平田オリザ青年団がそのひとつで「ソウル市民」をザ・スズナリで見た後、海外公演を韓国プサンまで追いかけていったが、もうひとつの例が上海太郎舞踏公司ダーウィンのみた悪夢」近鉄アート館)の魅力に魅入られてしまいロンドン公演まで追いかけていくことになった。
関西に多い世界に通用するパフォーマンス集団
 関西と東京の舞台芸術を比較すると単なる演劇やダンス、美術といった分野の枠組みを超えて総合的なアートパフォーマンスにおいて世界に通用する集団を生み出したという点において関西には一日の長があった。ダムタイプ維新派、そしてこの上海太郎舞踏公司(上舞)がそれを代表する存在であり、前二者と比べ、東京での知名度が圧倒的に低く、知られていないということが今でも悔しくてならない。
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 そうした状況をなんとか崩したいと考え、演劇批評の世界で私なりに頑張ってきたつもりだが、関西以外でその傑作群を生で見た観客が少ないという事実を覆すことは困難で、上海太郎自体が妙に器用であり、いろんなタイプのエンターテインメント作品を作ることができたのも、逆に真価が伝わりにくくなった面もあるかもしれない。
人気劇団そとばこまち座長から独立
先ずは以前開催したレクチャーでまとめた紹介文を引用。上海太郎について解説すると以下のような内容となる。

関西を代表する人気劇団だったそとばこまちの座長の座を捨て退団。言葉の壁を越える演劇を目標として新たな表現の場を求めて、劇団「上海太郎舞踏公司」を1989年に設立。ダンス、パントマイムをベースにした短い場面を積み重ね、壮大でイメージ豊かなドラマを構成するという独特のスタイルにより「ダーウィンのみた悪夢」「マックスウェルの悪魔」などの傑作群を制作し、海外公演などでも評価を得ました。 注目すべきは上舞は上海が冬樹(中村冬樹)と一緒に旗揚げしたカンパニーであったということ。冬樹はダンスボックスの発足時の共同プロデューサーでもあり関西のコンテンポラリーダンスの草分け的存在。そういう経緯もあってか、コンテンポラリーダンスとも深いつながりを持ち劇団員だった文(dancebox)、垣尾優(contact Gonzo創始者)をはじめ、ヤザキタケシ、北村成美、いいむろなおきら数多くの関西を代表するダンサー・パフォーマーが客演し、創作へのヒントを得るなどその黎明期に大きな影響を与えた。最近はダンス界からはその存在を無視されている感もあるが、存在意義は実は大きい。 さらに最近ではクラシックの名曲に勝手な歌詞を付けてアカペラで歌う上海太郎舞踏公司Bの活動も積極的に進めるなど多彩な才能を見せる上海の全貌にも迫っていきたい。

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壮大でイメージ豊かなドラマ
 上記に「ダンス、パントマイムをベースにした短い場面を積み重ね、壮大でイメージ豊かなドラマを構成するという独特のスタイル」とあるが、「ダーウィンのみた悪夢」はまさにそういう構成で構築されている。短い場面のそれぞれのトーンはバラエティーに富んでいて、動物の動きを取り入れたコミカルなマイムを駆使した「猿まね」「アニマルセックス」「深夜徘徊族」のように単独のショート コントとしても笑えるシーンにも事欠かないが、白眉といえるのがアメーバから人類までの数十億年の生物の進化の歴史を群舞によるダンス作品にまとめあげた「進化」の場面。さらにその場面を中核に上海太郎が自ら演じる浮浪者のような男の一生と生物の進化の歴史のような悠久の「進化」の動きがあたかもフィルムを巻き戻すかのように逆回転し、それにそれまでの各エピソードがオーバーラップして重なり合う瞬間に人間の等身大を超えた壮大なビジョンが生まれるような構造が最後には用意されている。

ダーウィンのみた悪夢」
初演:1990年アートスペース無門館、近鉄アート館  大阪、京都、東京、名古屋、ロンドン、エディンバラ、ダブリンで100ステージ以上


#1  街の風景I
#2  少年時代
#3  進化
#4  猿まね
#5 SEXミクロ編
#6 アニマルセックス
#7 SEXミクロ編II
#8 深夜徘徊族
#9 パスカルの情景
#10 胡蝶の夢
#11 狐のお宿
#12 TVの中の宇宙
#13 街の風景II
#14 サークルゲーム
#15 おもいで
#16 プロローグ
上海太郎の代表的振付け作品「進化」をはじめ「少年時代(虫取り)」「猿まね」「アニマルSEX」「夜間徘徊族(ゴキブリ)」など、動物の動きを全編に取り入れた作品。また海外での公演を意識し白い着物を着た女達が舞い踊る「狐のお宿」のような日本的なシーンもある。テーマは「我々は何処から来て何処に行くのか」

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ダーウィンのみた悪夢」より「#11 狐のお宿」
東京ノート」と「三月の5日間」の近景と遠景の配置にシンクロニシティーを感じたと以前の連載で書いたが、「ダーウィンのみた悪夢」を見ている観客がままごとの観客の中にほとんどいないだろうというのを勘案して、これまでの論評ではほとんど指摘したことはなかったのだが、ままごとの「わが星」を最初に見た時に想起したのが、実は何よりも「ダーウィンのみた悪夢」のことだった。
 そしてこの両作品も近景と遠景をひとつの作品で同時に描いている。それは「わが星」ではちいちゃんの生涯と地球の誕生から消滅の歴史だった。「ダーウィンのみた悪夢」では公園を歩いて倒れて死んでしまう浮浪者とアメーバから人類へと脈々と続いてきた地球上の生物の歴史である。どちらも物語の最後で並列されて2つの物語は重なり合ってひとつの壮大なビジョンを紡ぎ出すのである。

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