下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

無観客ライブの新たな可能性拓くオンラインライブ「佐々木彩夏(ももクロ)『A-CHANNEL』」@GYAO

無観客ライブの新たな可能性拓くオンラインライブ「佐々木彩夏ももクロ)『A-CHANNEL』」@GYAO

『A-CHANNEL』*1はこれまでの配信ライブのイメージを一変した驚きのライブであった。ももクロ佐々木彩夏の演出家としての才気に驚嘆させられた。無観客ライブの新たな可能性を拓くオンラインライブで、以降心あるライブ演出者はこれを意識せざるえないということになるのではないか。
 このライブを見てしまうとこれまでの配信ライブのほぼすべてが集客ライブ中継かテレビの音楽番組の劣化版にすぎないと感じられてしまうからだ。
 私は演劇が専門なのだが、京都に笑の内閣という劇団という劇団がありその演出家である高間響は「昨今流行しているZOOM演劇はほとんどが劣化した舞台か映画にすぎないと批判したうえで、そうではないZOOM演劇でしかできないものを創作しなければならない」と提唱し、信長の時代にもしZOOMがあって軍議にZOOMを活用していたらというZOOM時代劇*2を創作した。佐々木彩夏によるオンラインライブ『A-CHANNEL』も無観客配信でなければ実現できないありかたを提唱したという意味では革命的なものだったのではないかと思う。
 今回の無観客ライブのテーマは「あーりんの成長」。4パート(小学生・中学生・高校生・社会人)の構成で、あーりんワールドが展開される。佐々木彩夏が生きてきたこれまでの半生を音楽劇として振り返るという設定なのだが、それは最近発売となった自らのファーストソロアルバム「A-rin Assort」のアルバムライブとして、一種のジュークボックスミュージカルのように展開される。ももクロではこれまでも自らの楽曲によるジュークボックスミュージカル「ドュユ・ワナ・ダンス?」ややはり音楽劇のように構成されたアルバムライブ「MOMOIRO CLOVERZ」*3などを上演してきたほか、佐々木彩夏自身も横浜アリーナ両国国技館といった大会場でのライブを毎年開催してきたが、今回のライブは20代半ばという若さにも関わらずこれまで本人が体験したライブ演出のノウハウをすべて注ぎ込んだものとなっており、その実現にはもちろん各分野のプロの全面的な協力を得ているとはいえ、そのすべてにおいて「こういうものでなければならない」という本人の美学が入りこんだものとなっている。
 実は最後にアンコールで歌われた曲につけた手話の振り付けについて、それを佐々木と協力して制作した手話専門家が舞台裏を紹介*4しているのだが、これは専門家の言うとおりに振りつけられた手話をやっているのではなくて、自らが歌詞を手話で表現する時にそれに込めたい意味を実現したいとして、徹底的な話し合い、打ち合わせの末にそれが実現したことが語られているのだが、おそらく、映像、美術、ダンスの振り付け、構成、カメラワークなどすべての部分についてスタッフに丸投げして適当にやってということはなく、同じようなやりとりが交わされたのではないかと思う。  
 実は今回のライブにはコロナ禍によって中止になってしまったソロコン「AYAKA-NATION2020」の代替え開催の意見合いもあったのだが、単なる「ソロコンの劣化版」にしないための仕掛けが随所にあった。実はライブ前に「今回のライブはいろんな場所を移動しながら進行する」と説明していたので、ロビーや客席、サブイベント会場など多目的な機能を持つ横浜アリーナを移動しながらライブするのではないかと予想していたのだが、あーりんの選択は予想の斜め上を行く
 会場は横浜アリーナではなく、大規模なフェス系クラブイベントが開催可能な新木場スタジオコースト*5。ここにまるで映画撮影のように舞台美術、照明機材を持ち込み、プリセットされて合成されたアニメーションや映像を除けばライブ自体はすべてを一発撮りの生中継で曲ごとに場所を移動しながら、おそらく単独のカメラによる長回し的な移動撮影で展開*6された。テレビ局の制作スタッフはなぜ自分たちにこれが出来なかったのか*7を振り返って考えてみるべきだと思う。
 ここまで演出家、佐々木彩夏のことばかり語ってきたが、もちろん、今回のようなライブを可能にしているのはあーりんのパフォーマーとしての人並外れたポテンシャルがあってのことだというのは間違いない。同じようなことを企画したとして、それが人を飽きさせないで魅了し続けることのできるパフォーマーが日本に果たしてどれだけいるのか。
こんなことが可能になるのは演者でもある佐々木彩夏がそれこそももクロに入る前の幼少時代からアイドル「あーりん」をセルフプロデュースしてきた稀有な存在だからだ。松田聖子とか小泉今日子とか過去にも自らを独自のアイドルとセルフプロデュースしてきたアイドルはいたはずだが、あーりんほどキャラとしての「あーりん」が本人によってはっきりと意識化されている例は珍しいのではないか。そのことの結果として、キャラクターとしての「あーりん」はアニメや人形(劇)、バーチャルな世界との親和性がきわめて高い。過去の例でもあーりんはゆるキャラふなっしーやバーチャルAIのキズナアイ、最近では自宅にいる(ある)チロちゃんなどバーチャル世界のキャラクターと組み合わせた時に無類の面白さを発揮するが、今回もそれはアニメの「あーりんちゅあ」から新曲「ハッピースイートバースデー!」*8からCROWN POP、アメフラっシをバックダンサーを引き連れての子供姿でのあーりんによる「ゴリラパンチ」、アニメ主題歌をカバーした「キューティーハニー」、アニメ「ちびまる子ちゃん」のキャラと共演する「私を選んで! 花輪くん」へとシームレスにつながっていく。やはり、アニメの主題歌ではあるがももクロ曲の「笑一笑 ~シャオイーシャオ!~」は後輩をバックに従えて、普段ステージに使われている空間から中継。
 ひとりに戻ってピンクの少女らしい衣装に着替えてた「だって あーりんなんだもーん☆」では歌うあーりんの上をピンクのCG画像が舞った。続く「 君が好きだと叫びたい」は会場の屋外部分にあるプールに無数のプラスティックボールを浮かべたセットで靴を脱いで裸足になり足を水につけながら歌った。アニメ「SLAM DUNK」の主題歌のカバーなのだが、あーりんが歌うバージョンはMCを務めた「愛踊祭」の課題曲としてヒャダインが編曲したもので、あーりんには珍しい恋愛ソングにもなっている。ここからは中学生ブロックが続くのだが、“50's”がモチーフにの「My Hamburger Boy(浮気なハンバーガーボーイ)」「My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ)」に合わせて今度は全員がかわいいマスクをつけての演出となりCROWN POP、アメフラっシのメンバーを引き連れて会場内を移動していく。廊下や通常は飲料販売なども行うカウンターなどあらゆる場所をステージに使う演出が見事であった。
 アニメのあーりんロボコントに引き続き「あーりんは反抗期」ではセーラー服で再登場。最初は三つ編みの真面目な生徒だが、反抗期が講じて次第に不良に変貌、ついにはももクロ曲をソロカバーした「あーりん飛ばしすぎ!」に突入、この日のために構成作家のオークラが書いた特別バージョンの歌詞をたったひとりで歌い上げた。 
(続く)

佐々木彩夏「A-CHANNEL」2020年7月12日 セットリスト
SE. あーりんちゅあ
01. ハッピー▽スイート▽バースデー!
02. ゴリラパンチ
03. キューティーハニー
04. 私を選んで!花輪くん
05. 笑一笑 ~シャオイーシャオ!~
06. だって あーりんなんだもーん☆
07. 君が好きだと叫びたい
08. My Hamburger Boy(浮気なハンバーガーボーイ)
09. My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ)
10. あーりんは反抗期!
11. あーりん飛ばしすぎ!
12. Bunny Gone Bad
13. スイート・エイティーン・ブギ
14. あーりんはあーりん▽
15. Memories, Stories
16. Grenade
17. 空でも虹でも星でもない
18. Early SUMMER!!!
19. Girls Meeting
<アンコール>
20. モノクロデッサン

A-rin Assort【通常盤】

A-rin Assort【通常盤】

A-rin Assort【初回限定盤】

A-rin Assort【初回限定盤】

natalie.mu

(見逃し配信8月28日まで)

*1:
3夜連続!!! 『A-CHANNEL』直前生配信 第1夜 (2020年7月9日)

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:
ももいろクローバーZ / レディ・メイ(from 5th ALBUM『MOMOIRO CLOVER Z』SHOW at 東京キネマ倶楽部)

*4:minamiruruka.seesaa.net

*5:www.studio-coast.com

*6:見せ方のことばかりを考えていたが、これなら撮影スタッフは照明、音響などをプリセットしておけばひとりだけで済み、ディスタンスも取れるわけだ。

*7:予算の問題はもちろんあるだろうが、FNSやNHK制作の音楽番組をこれと比べると、要するに既存のイメージ上で作るか、出来ることの可能性を探るかの違いがあることは明白だと思う。

*8:
佐々木彩夏「ハッピー♡スイート♡バースデー!」MUSIC VIDEO