下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

エビ中の配信ガチライブ「私立恵比寿中学オンライン学芸会〜all of our playlist〜」@GYAO!

私立恵比寿中学オンライン学芸会〜all of our playlist〜」@GYAO!


私立恵比寿中学オンライン学芸会〜all of our playlist〜ダイジェスト映像



 私立恵比寿中学(エビ中)の配信(オンライン)ライブである。エビ中が所属している大手芸能事務所スターダストプロモーションのアイドル部門「スターダストプラネット」のアイドルグループはそれぞれ配信ライブによりコロナ禍によって中断していたライブ活動を再開しているが、エビ中の「私立恵比寿中学オンライン学芸会〜all of our playlist〜」はその最後を飾るものとなった。

 配信のライブに対しては各陣営にそれぞれ差異があるのがスタダの面白さで、大別するとももクロ陣営のように配信というメディアに独自の付加価値を与えていこうという考え方とTEAM SHACHIのようにバンドやブラス隊も含め音楽的にタイトなライブを作り、臨場感を持ってそれを配信するという考え方の陣営に大別されている。
 ももクロのような企画性の高いライブは強力なスタッフが必要。誰にもできるものというものでもないので、たこ虹のようにまずはavex traxの全面的な支援で「CLUB RAINBOW2020」というかつて行った「アイドルとクラブミュージックの融合」という主題に合わせた音楽性を最大限に重視したライブを敢行したうえで、今度(8月29日予定)はももクロメンバーの佐々木彩夏を総合演出に迎え、ももクロ陣営の持つノウハウを全面的に取り入れ、歌あり笑いありのバラエティーショーを手掛けようというグループも現れている。
 ポストコロナのアイドルについてのシンポジウム*1に参加したエピ中プロデューサーの藤井校長(藤井ユーイチ)は「配信自体にはそれほど興味はない、とにもかくにもライブがやりたい」と話していた。エビ中の配信はそのためにライブ性の高いものとなるであろうことはあらかじめ予想はできていたが、予想通りに質の高いライブ中継となった。
 その舞台装置の質感や複数カメラによるスイッチングなどから臨場感を重視したというよりは高品質の収録音楽番組のように見えた。もちろん、生配信ではあるのだが、途中に画面を6分割して、メンバーそれぞれを推しカメラ的にとらえるシーンもあるなど楽曲ごとに相当念入りなリハーサルをしたのではないかと思われる内容と思われた。
 エビ中にとっては今回の配信ライブは新アルバム「 playlist」の発売を受けてやる予定であったが、中止となったツアーの代替えの性格が強いものだ。アルバム収録の10曲はすべてパフォーマンスを行ったうえで、その他の曲も最近の人気曲中心に選びライブ楽曲を決定したように見えた。
 実は私立恵比寿中学に関しては氣志團万博や自らが主催した「MUSiCフェス」などのフェスで何度も見たことがあるものの、ももクロ、TEAM SHACHI、たこ虹のように単独ライブに参戦したことが一度もない。この日のライブを見てもメンバーの歌唱力は高く、特に最近の楽曲についてはアーティストに依頼したようなスタイリッシュな楽曲が多い印象がある。そしてこの日のパフォーマンスもそれを支えるスキルの高さを感じさせた。
 ただ、ここからはあくまで私の個人的な好みの問題と思ってもらっていいが、楽曲やパフォーマンスの幅はももクロやたこ虹と比べて狭いように思われた。それでもヒャダインが楽曲を頻繁に提供していた頃はトンチキ曲も多かった印象があるのだが、この日のライブは演出の意図上でそういう要素もかなり排除されていた*2ため、余計にそういう印象が強くなったかもしれない。
 「playlist」というアルバムの方向性とも関係するのだろうが、全体的にスタイリッシュな印象が強く、そういうところも含めてももクロが直前に配信した「夏のバカ騒ぎ2020」とは対照的なライブであった。
 ライブをすべて見終わってから改めて分かったことがある。それはこのライブがエビ中の6人による再スタートの意味合いを強く持たせたライブだったのではないかということだ。それは冒頭の曲「ジャンプ」の次に歌ったのが「響」で、これが廣田あいか転校(卒業)後初めて6人体制になって披露したその時の新曲を安本彩花が長期の離脱から復帰した6人の再スタートで披露したことには象徴的な意味があったのではないかと思った。 
 ももクロ、TEAM SHACHIは二度にわたるメンバーの離脱とグループ名の改称、たこ虹はグループ初期におけるセンター、リーダーを兼務する中心メンバーの卒業といずれのグループも激動の歴史を背負ってはいるけれど、私立恵比寿中学ほど運命的な出会い、別れを繰り返してきたグループは少ないのではないか。その中には主要メンバーの死去という未曽有の出来事も含まれているが、それは特別すぎる出来事だとしても私立恵比寿中学がスタダのグループとしては珍しく、新加入と転校(卒業)を前提としていたということもあるだろう。それゆえにももクロを含め前述の3グループが離脱したメンバーについて公式にはほどんど言及しないのに対し、エビ中の過去映像ではクローズアップされることこそなくても(他事務所所属のぁぃぁぃも含め)過去にいたメンバーの映像もちゃんと映し出されている。
 そういうこともあり、初期曲こそあまり歌われることはなかったが、メンバーが作詞を手掛けた新アルバム曲「HISTORY」がそうであるようにエビ中の過去と現在と未来に思いをはせるような楽曲がこのセトリには多く見られたかもしれない。楽曲の方向性について言えば新旧も含めた音楽ジャンルの多様性をかなり意図的に体現している最近のももクロに比べて、エビ中の楽曲は女性ボーカルグループへの接近が明らかにあるのではないか。いずれのグループも初期と比べると大人の匂いが楽曲により強いはなっているが、バンド演奏に徹したロック系曲が増えているTEAM SHACHI、avex traxらしくダンスミュージックを中核に置くたこ虹とそれぞれの違いがよりはっきりしてきている。エビ中のファンは歌の上手さを誇って、他グループをdisる傾向があるが、少なくともスタダの上位4グループについては表現の方向性が異なるだけで、歌唱力の優劣はほとんどなくと思う*3
 ただ、コーラスの完成度の高さという意味であればエビ中はアイドルの中では最上位の部類で、Egirlのような女性ボーカルグループやK-POPの女性グループにも一歩も引けをとらない域に達しているとも感じた。

セットリスト
1.ジャンプ
2.響

私立恵比寿中学「響」MV

3.春の嵐
4.SHAKE!SHAKE!
5.制服“報連相”ファンク
6.禁断のカルマ
7.藍色のMonday
8.トレンディガール
9.オメカシフィーバー
10.ちがうの
11.PANDORA
12.イート・ザ・大目玉
13.シングルTONEでお願い
14.I'll be here
15.曇天
16.自由へ道連れ
17.愛のレンタル
18.HISTORY
19.星の数え方
20.サドンデス
21.COLOR
太字は「playlist」収録曲

【生配信日】
8月16日 19:00~
※2020年8月18日(火)19:00〜2020年8月24日(月)18:59の期間で見逃し配信を実施いたします。
【視聴料金】
3,500円(税込)
※生配信購入者のみ見逃し配信もご覧いただけます。




【販売期間】
〜2020年8月24日(月)11:59まで

販売ページ・視聴URLはこちら
https://yahoo.jp/cJklQH

ディスク1
1.ちがうの/2.SHAKE! SHAKE!/3.愛のレンタル/4.ジャンプ/5.I'll be here/6.PANDORA/7.シングルTONEでお願い/8.オメカシ・フィーバー/9.HISTORY/10.トレンディガール

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:「サドンデス」などが典型

*3:個人的には技術的なテクニックだけでいえばたこ虹が一番かもしれないと考えてはいる。