下北沢通信

中西理の下北沢通信

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Baobab PRESENTS『DANCE×Scrum!!! 2020』(3日目)@池袋あうるすぽっと

Baobab PRESENTS『DANCE×Scrum!!! 2020』(3日目)@池袋あうるすぽっと

吉沢楓「歯みがき」に破壊力があった。こういうのを見るたびにガーディアンガーデン演劇祭があればなあと思い、残念でならない。「白鳥の湖」の音楽を使用し、「四羽の白鳥の踊り」の振り付けをなぞって、歯たちが踊るパロディ的なシーンから始まるが、単なるコントのネタではなくて、バレエ経験とかがある程度以上あって、ちゃんと「四羽の白鳥」を踊ろうと思えば踊れるんだろうなという人たちが、そのダンステクニックの無駄遣いで、こういうことをしているというのが何ともいえずバカバカしい。とんでもなく面白いが、コンテンポラリーダンスコンペティションで勝つのは難しいかもなあと思う。
 作りとしては子供向けの教育番組にもありそうな「歯を磨こう」という啓発的な内容ともいえなくもないのだが、先述したバレエ場面といい突然始まるへたうま風ミュージカルといい盛り込まれた内容の過剰性の度が過ぎすぎていて、まったく内容が残らない(笑)。おおいに笑わせてもらった。
 『DANCE×Scrum!!! 2020』には劇場のステージを使用するステージプログラムとロビーの空間を回遊的に用いるホワイエプログラムの二種類のプログラムが交互に上演されるのが特徴。ホワイエプログラムは以前は出入りや見方を観客の自由裁量にゆだねるなどもう少し開放的なものであったが、今年はコロナ禍での感染対策を意識したものとならざるをえなかったので、観客も残念ながら座り位置や立ち位置を厳密に管理したものとならざるえず客いじりなどの演出もできなくなったが、それでもこの両者がどちらもあることでダンスという表現のすそ野の広さを感じさせる役割は果たしたのではないか。
 「歯みがき」はホワイエ向きの作品であったが、もうひとつこうした空間での観客を巻き込んでいくような訴求力の強さを見せつけたのが和太鼓+ダンスユニット<まだこばやし>「かくかくしかじか」であった。和太鼓のパフォーマンスとダンスパフォーマンスを組み合わせたものだが、和太鼓という芸能に軸足を置きながらも、太鼓にリズム合わせての激しいダンスはどちらかというと動き自体は芸能的なものというよりはコンテンポラリーダンスやジャズダンス的なテクニックを感じさせるものとなっている。さらにはこれにどう考えても伝統的なものではない奇妙な群唱が加わり、独特なパフォーマンスが成立していた。アーティスティックスなものというよりは娯楽性の高いものであり、その意味では伝統芸能そのものではないが、現代において芸能を行うとこういう風になるということもできるかもしれない。