下北沢通信

中西理の下北沢通信

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佐々木彩夏ソロコンサート「AYAKA NATION 2021 in Yokohama Arena」@神奈川県・横浜アリーナ

佐々木彩夏ソロコンサート「AYAKA NATION 2021 in Yokohama Arena」@神奈川県・横浜アリーナ

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同じ会場(横浜アリーナ)のバレンタインイベントには来場しているものの、佐々木彩夏ソロコンサート「AYAKA NATION」は昨年はコロナ禍で中止を余儀なくされ、配信の「A-CHANNEL」*1となったので2年ぶりの参戦となった。佐々木彩夏演出によるソロコンは毎年ももクロライブの中でももっとも凝った演出が特徴だ。ストレートに楽曲を披露していくに留まらず毎年異なる世界観を打ち出し、会場全体を染め上げていく。
「A-RIN KINGDOM」(「あーりん王国」)なる新曲も配信されており、大好きだという映画「ローマの休日」のように王女様に扮するのかなというのが会場に来る前の予想だったが鮮やかに裏切られた。
テーマに選ばれたのは「あーりん美術館」。ももクロは「ミュゼ・ドゥ・ももクロ」という美術番組をテレ朝動画系で配信しており、もともと美術好きで展覧会などに好んでいくことが多かった佐々木はより一層美術への傾斜を深めてきた。それが背景にあるのは間違いないだろう。
冒頭の映像では例年ライブの世界観が提示されるのだが、今回は特にその部分に力が入っていた。映像はなんと本物の東京国立博物館をロケ地として、その内部で撮影されており、ドレスアップしてそこにやってきたあーりんが、壁に据え付けられた4つの額縁の前に立つ。しかし、額縁の中はまだ真っ白で絵は見えない。そこからパフォーマンスが展開され、それが終わり、再び絵の前に立つと額縁の中には絵画作品が忽然と現れる。それまでのパフォーマンスがその絵画をイメージしたものであったことが初めて分かるという仕掛けなのだ。
「美術大好き」というあーりんが自分の好きな絵画作品4つを選び、それぞれの作品からイメージされる衣装、楽曲、照明などを決定し、ステージ上に絵画を描くように展開していく。いかにもあーりんらしい主題ではあるが、それだけではないのではないか。ライブを美術展に準えたのはコロナでコールも禁じられ、静かに見ざるをえない観客に対し全員が黙って静かに作品を見ている美術の展覧会でも心の中では「凄い」とか「きれい」とか「いったい何を描いたものなのだろう」というような様々な心の声が渦巻いているように、こんな時だからこそ美術展のようにライブも楽しんでみてもいいのではないか。これが演出である佐々木彩夏の提案なのだろう。

あーりんが選んだのは次の4枚である*2

①モネ『散歩、日傘をさす女』*3
ゴッホ『ひまわり』*4
ミュシャ『連作≪四つの花-薔薇≫』
ルノワールムーランド・ラ・ギャレット(の舞踏会)』

最初の場面では日傘に青みがかかったストライプ模様のドレスで登場し、「Generade」「Early SUMMER!!!」とスロー、ミディアムテンポのソロ曲をたっぷりと歌いこんだ。さらにももクロのラップ曲「Sweet Wanderer」をソロで歌い、最後には「空でも虹でも星でもない」を客前では初めて披露し、昨今の歌唱力の向上ぶりを見せつけた。もちろん、まだその域にはないことを承知で言うのだが、毎年じりじりと浜崎あゆみ松田聖子らあーりんが憧れる歌姫たちのパフォーマンスに近づきつつある。そう思える今回の歌だった。
 次に展開されたのは「SPECIALIZER」「境界のペンデュラム」「サラバ、愛しき悲しみたちよ」「Bunny Gone Bad」とロック系の楽曲を集めたゾーン。アメフラっシ、B.O.L.T.からの4人を従えての5人フォーメーションの「サラバ、愛しき悲しみたちよ」をひさびさに見ることができたのはムネアツなことでもあった。聞かれても「そんなことは考えてなかった」と言いそうだが、ファンの隠された願望をさりげなく拾い上げてみせるのが佐々木彩夏演出の真骨頂なのだ。
ここで纏っているのが鮮やかな黄色の衣装で、あーりんに映えるというかとても魅力的なのだが、玉井詩織の担当カラーということもありももクロライブではけっして着ることはない色合い。衣装の一部にはひまわりがあしらってあり、ゴッホ『ひまわり』にちなんだ場面であったことが了解される。
楽曲の構成も例年とは違った。いつものようなカバー楽曲はなく、自らのソロ曲とももクロの楽曲のみで構成されていた。ももクロ本体もライブができずにファンがライブを待ち望んでいることなども勘案したもののようだ。そういう意味では一種のジュークボックスミュージカルのようなショーの構成といえると思う。
ソロコンサートのもうひとつの愉しみは恒例となった後輩グループの参加だ。今回は3つのグループ(アメフラっシ、B.O.L.T.、CROWN POP)を共演者として招き、一緒に場を表現していくダンサーに起用するなど、ショー仕立てで展開する楽しいライブとなった。演出家佐々木は最初のソロコンからプロのダンサーなどを使わず、後輩のアイドルを起用するなどのこだわりを見せてきたが、最初は年少の子供たちに大きな会場に立つ貴重な経験の場を与えるという趣旨が強かったと思う。しかし、彼女たちも成長、今回のライブではそれぞれのグループがその持ち味を発揮するなど、一緒に舞台を作り上げる仲間という表現がふさわしいまでに到達した。とはいえ、参加した後輩の全員がかつてEXILEのバックダンサーとしてこの会場に立った有安杏果がソロコンでこの会場に立ったように「いつか自分たちだけの力でここに立ちたい」との思いを新たにしたのではないだろうか。
3つ目のブロックは再びバラード中心だが、ここではあえてバックダンサーは使わず、歌姫的アイドルへの憧れを表現した。MCでは「桃色空」への思いを語り、「ピンクなんだから自分の歌みたいなものなのだが、その割には歌割りが少ないのが不満だった」のコメントに思わず笑ってしまった。
 最後はCROWN POP(クラポ)とのブロックでダンスを得意としいろんなタイプのダンスに対応ができるクラポの魅力を存分に引き出した。クラポ自身が行っているパフォーマンスではあまり見ることがないキュートなところを引き出しているのが、佐々木彩夏演出の卓越したところで、当日は席が遠くて十分には汲み取れなかった細部もアーカイブを見て堪能したいと考えた。

佐々木彩夏ソロコンサート『AYAKA NATION 2021 in Yokohama Arena』
2021年6月27日(日)
<セットリスト>
あーりんちゅあ
1.Grenade
2.Early SUMMER!!!
3.Sweet Wanderer
4.空で虹でも星でもない
5.SPECIALIZER
6.境界のペンデュラム
7.サラバ、愛しき悲しみたちよ
8.Bunny Gone Bad
9.月色Chainon
10.桃色空(ルビ:ピンクゾラ)
11.Memories, Stories
12.My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ)
13.My Hamburger Boy(浮気なハンバーガーボーイ)
14.Girls Meeting
15.A-rin Kingdom
<ENCORE>
16.あーりんは反抗期!
17.仕事しろ
18.ハッピー♡スイート♡バースデー!
19.あーりんはあーりん♡
20.だって あーりんなんだもーん☆

※2021年7月1日(木)20:00 〜 2021年7月31日(土)23:59の期間でニコ生にて再配信を実施いたします
【再配信詳細】
佐々木彩夏コンサート「AYAKA NATION 2021」再配信
配信日時:7月1日(木)20時00分~
タイムシフト視聴期間:7月31日(土)23時59分まで
配信URL:https://live.nicovideo.jp/watch/lv332482783

出演:佐々木彩夏、アメフラっシ、B.O.L.T.、CROWN POP
2021年6月27日(日)
会場:神奈川県・横浜アリーナ

open.spotify.com

*1:

*2:ネット上などでは全部印象派で統一しないのはおかしいとか、なぜ系統の違うミュシャが入っているのなどの声も散見されたが、この作品は美術批評でもなんでもない。そんなことを指摘するのは野暮の極みではないか。

*3:casie.jp

*4:media.thisisgallery.com