下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ロロいつ高シリーズいつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校ファイナル2本立て公演@吉祥寺シアター

ロロいつ高シリーズいつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校ファイナル2本立て公演@吉祥寺シアター

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ロロのいつ高シリーズの完結編2本立て公演*1vol.9『ほつれる水面で縫われたぐるみ』は二枚看板である板橋駿谷と亀島一徳が珍しくそろって顔を揃え、さらに最後となるvol.10『とぶ』には篠崎大悟も加わり、フィナーレに相応しい顔ぶれとなった。
 ポストゼロ年代以降の世代の演劇作家では同世代で岸田國士戯曲賞を最初に受賞した柴幸男に代表されるように手法や方法論の実験性が目立ちがちで、ロロの三浦直之もデビュー時から「アニメ・漫画的リアリズム」といった世代の特徴も色濃く見られたが、その一番の才能はその人物造形の巧みさではないか思い始めている。そのことは彼が映画やテレビドラマの脚本も手掛けるようになってより強く感じるようになった。演劇においてはそれがもっともよく生かされ魅力的な登場人物が多いのがいつ高シリーズの作品群かもしれない。
 いつ高シリーズはある地方の高校を舞台にそこに通う生徒らを上演時間60分という高校演劇の上演ルールに基づいて描がきだす連作群像劇として構想されている。教室から中庭の渡り廊下、その近くにあるベンチ、自転車置き場、屋上、図書館などと次々と校内の異なる場所で展開していく。1作品に登場する人物は多くはない(下記参照)が、ある作品で出てくる人物が複数の別の作品にも登場したり、登場しないが作中で話題となる人物が別の作品には出てくるといった作品を縦断するつながりにより、個々の作品はスケッチ風の短編でも、全体をつなげるとまるで長い小説のようにひとつの学校という世界を俯瞰するように紡いでいくのだ。
 『ほつれる水面で縫われたぐるみ』で舞台となるのは水抜きされたプール。しばらく使用されていなかったせいか、そこには粗大ごみのようなものが散らかっており、それを片付けながら瑠璃色(るりいろ=森本華)が何かを探している。探しているのは友達である茉莉(まつり=多賀麻美)がかつて校内対抗でここに打ち込んだホームランボールなんだということが分かってくるのだが、それを瑠璃色が探すのは在校中に輝いていた瞬間を思い出させることで、卒業後の進路に迷っている茉莉を励まそうと考えているからだ。
 後半では群青(ぐんじょう=板橋駿谷)が大きな穴を掘ってそこに埋めようとしているタイムカプセルのエピソードが出てくるようにこの作品のモチーフは過去の記憶なのだ。そうした記憶を共有しながらも高校生活を終えた彼らはやがてそれぞれ別の世界に離れていく。
 記憶は実はこのシリーズを通しての主題なのかもしれない。作中に登場する様々な固有名詞から現代ではなく、三浦直之自身が青春時代を過ごした十数年前の時代を描いているようだが、例えばこの作品でもセブンティーンアイスプレイステーションウルトラマン、「天元突破グレンラガン」などの時代の刻印を押された言葉が頻出し、ある種の郷愁感が醸し出されるような仕掛けがほどこされているからだ。
 個々の作品は響きあうようにひとつの世界を構成しているが、今回の上演で驚かされたのは最後の「とぶ」であった。舞台上にはvol.1『いつだって窓際であたしたち』を思わせる教室のセットが配置されているのだが、それは実は体育館に置いたセットでそこで将門(まさかど=亀島一徳)が映画を撮っている。その映画を手伝っている篠崎大悟が一緒になって本読みを始めるのだが、その内容がどうやらvol.1と同じなのではないかというのが分かってくる。もう一度最終話の脚本で確認したうえでvol.1から再確認したい気分に襲われたのだが、ひょっとしたらvol.1がひょっとしたらvol.10『とぶ』で撮ろうとしている映画の中身であり、いくつかの作品はやはり映画の内容であって、このシリーズは入れ子の内外が入り混じっていたのではないかということなのだ。シリーズ中の作品にはいくつか非常にファンタジーな出来事が突然起こり、辻褄が合いにくいものが入り」こんでいるのだが、こうした系列の話が劇中で撮ろうとしていた将門の映画
の中身なんだと考えれば説明はつくのかもしれない。7月31日までの期限でちょうど過去作品の映像も公開されているようなので、ぜひもう一度見返してみたいという気にさせられた。

vol.9『ほつれる水面で縫われたぐるみ』
脚本・演出|三浦直之
出演|板橋駿谷 亀島一徳 森本華 重岡漠 多賀麻美
愛してやまないビニールプールが破けたのは4歳のころで、母が破けたビニールをぬいあわせて愛してやまない熊の吾郎をつくってくれたのは5歳のころ。吾郎のお腹から真っ白でふわふわのハラワタが溢れ出したのは、たしか10歳か11歳で、ハラワタを筆箱にしまって持ち運ぶようになったのは13歳。15歳で友達のためにつくったお守りあめにすり替わってたって気づいたのは17歳だったけど、そのときにはもうただの砂糖になっていて、それを溶かして学校の水を甘くしてやろうってプールサイドに立っている私はいま18歳。


vol.10『とぶ』
脚本・演出|三浦直之
出演|板橋駿谷 亀島一徳 篠崎大悟
ぼくの懐かしさはあなたの懐かしさじゃない。それをさみしいなんておもわない。いつかの放課後、体育館で進路指導の先生が「私の夢は光合成できるようになることです」って言ったことを、あなたは覚えてない。いつかの放課後、体育館で生徒会長が制服廃止をもとめて披露した手品をぼくは覚えてない。ぼくたちは、思い出を共有するためじゃなく、忘れたことを数えるためにいつまでもくだらない話を続けてるんだ、って気づくのは、もっとずっと先のこと。いまは、なにもわからないまま、さみしくなくて、体育館。

CAST

vol.9『ほつれる水面で縫われたぐるみ』
出演|板橋駿谷
亀島一徳
森本華 (以上ロロ)
重岡漠 (青年団
多賀麻美 (青年団

vol.10『とぶ』
出演|板橋駿谷
亀島一徳
篠崎大悟(以上ロロ)

STAFF

脚本・演出|三浦直之
美術|中村友美 いとうすずらん
照明|久津美太地(Baobab)
照明操作|蘭智咲
音響|池田野歩
舞台監督|岩澤哲野(libido:)
演出助手|山道弥栄(木ノ下歌舞伎)
谷口順子
イラスト|西村ツチカ
デザイン|佐々木俊
当日運営|黒澤たける
制作助手|大蔵麻月(libido:)
制作|奥山三代都 坂本もも

協力|中村未希
jungle
⻘年団
レトル
écru
合同会社 Conel
Baobab
theater apartment complex libido:
木ノ下歌舞伎
AYOND
合同会社範宙遊泳
急な坂スタジオ
ローソンチケット

vol.1『いつだって窓際であたしたち』
【出演】亀島一徳/森本華/島田桃子(以上ロロ)
    大場みなみ/多賀麻美(青年団)/新名基浩

vol.2『校舎、ナイトクルージング』
【出演】亀島一徳/島田桃子/望月綾乃(以上ロロ)
    大石将弘(ままごと/ナイロン100℃)/北村恵(ワワフラミンゴ)

vol.3『すれ違う、渡り廊下の距離って』
【出演】篠崎大悟(ロロ)/大石将弘(ままごと/ナイロン100℃)/大場みなみ/大村わたる(柿喰う客)

vol.4『いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した』
【出演】森本華(ロロ)/多賀麻美(青年団)/田中美希恵

vol.5『いつだって窓際でぼくたち』
【出演】板橋駿谷/⻲島一徳(以上ロロ)
    重岡漠(⻘年団)/新名基浩

vol.6『グッド・モーニング』
【出演】望月綾乃(ロロ)/大場みな

vol.7『本がまくらじゃ冬眠できない』
【出演】篠崎大悟/島田桃子(以上ロロ)、
    大石将弘(ままごと/NYLON100℃)、端田新菜(ままごと/青年団

vol.8『心置きなく屋上で』
【出演】篠崎大悟 森本華(以上ロロ)
    多賀麻美(青年団)/田中美希恵/端田新菜(ままごと/青年団