下北沢通信

中西理の下北沢通信

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第29次笑の内閣「マクラDEリア王」@配信

第29次笑の内閣「マクラDEリア王」@配信

笑の内閣「マクラDEリア王」を配信で観劇した。シェイクスピアの「リア王*1を下敷きに、演劇界を舞台に引き起こされたハラスメント問題を描いている。舞台はブリテン市となっているが、明らかに京都市がモデルだ。笑の内閣の本拠地でもあり京都でローム劇場の芸術監督への三浦基氏の選任に関して起こった出来事がモデルになっていることは間違いないだろう。
 実際に京都演劇界に当事者もいる事件を取り上げるのはそれなりのリスクもあるのではないかと思うが、「リア王」という古典を仲立ちとすることで、ワンクッション置くことで、芝居の内容自体は事実そのものではなく明確にデフォルメされたものに置き換えられ、笑えるものとなっている。個別の現実の出来事を糾弾するというよりも加害者とその周辺の劇団関係者に起こる共依存の関係など演劇におけるハラスメント問題が一筋縄にはいかない理由も浮かび上がらせている。
 原作の「リア王」に登場するリア王の三人の娘を「新リア王」のオーディションに合格してそれぞれリーガン、ゴネリル、コーディネリアというリア王の3人の娘役を演じる予定である女優という設定に置き換えているのだが、この「マクラDEリア王」は演出家の千葉ジョーがこの三人に性関係を強要するような文書をわたすところから始まる。
リア王」では上の二人の娘はリアに対する追従で美辞麗句を並べ立てるが、末の娘コーディネリアだけはそれをしないので、リアは末娘を追放してしまう。「マクラDEリア王」では「新リア王」の後に上演が予定されている「新マクベス」のマクベス夫人役のキャスティングについて3人の女優が争うことになり、演出家が肉体関係を強要し、それを拒否した女優が一方的に役を降ろすと脅されることになる。
演劇界に本当にこのようなことがありうるのかというのはよく分からないし、昔はともかくさすがに大映ドラマじゃあるまいし、こういうことはありえない、物語上の虚構だと信じたいところだが、最近複数の事例で起こっている劇団主催者、演出家側による一方的な回顧(パワハラ)だけでなく、性的行為の強要(セクハラ)の案件としているのは舞台作品として話をより明快にしているのだと思う。
 笑の内閣の作品を評価したいのは問題行為を題材として取り上げる場合によくある問題劇のように勧善懲悪的な構図で問題行為を糾弾することはしないことだ。「マクラDEリア王」では演出家の過去のハラスメント行為の被害者であるジャーナリストやハラスメントを許さないと糾弾する関係者も登場するが、この人たちが単純に正義の代弁者というわけではない。こういう人たちもこういう人たちなりの利己的な動機で行動を起こしているということも作品の中では描かれている。正直素直に共感できる人はひとりもいないと言ってもいいほどだが、「リア王」の悲劇を笑えるコメディーに再構築できているのはそれゆえかもしれない。
 高間響の面白さは事象に対する優れた分析力だ。この物語でも高間はハラスメントを起こす人を二種類に分類して見せる。ひとつがある一定の意図を持ってそれを行う人。監督を務めた星野仙一の鉄拳指導や蜷川幸雄の演出など過去の事例を取り上げながら、こうした人たちの暴力行為は今の基準からすれば許されることではなくても、特定の記事に特定の目的で行ったものでその証拠にこうした行為に世間の目が厳しくなって以降はそういう行為はしていないと指摘する。
 ところがもうひとつの事例はその人物が生まれながらにしてそういう行為をしないと生きられないようなタイプの人である場合。こういう人の場合、往々にして自分がしてはいけないことをしているという認識がないから、そのことで責められると自分が被害者であると認識を持ったりする。
 今回の作品に登場する演出家、千葉ジョーは後者のタイプだ。いわば意識することもなく、呼吸をするようにハラスメント行為を繰り返すわけだが、高間が指摘するのはこういうタイプの指導者が存在する集団によく起きる現象として、指導者と集団の構成員の共依存の関係を描き出していく。つまり、集団構成員は指導者が倫理的に許されない行為を犯した時にもそれをとがめることなくスルーする能力を獲得することになり、指導者の行為を問題視するような構成員は集団から追放あるいは抹殺されるから、結果的には互いに共依存関係にある少数の人物だけが残り、結束を固めることになるというのが高間の分析なのだ。
shirasu.io

 作・演出 高間響
千葉 ジョー(大物演出家 劇団ポイント代表)・・・・・・・・萬谷真之
利根 瑠璃(劇団すっとこランド所属女優)・・・・・・・・・・山岡美穂
井川 蘭(演劇集団ゴルロイス所属女優)・・・・・・・・・・熊谷みずほ
小出 莉奈(フリー)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・斉藤ひかり
白田 賢人 (劇団ポ イント 俳優兼制 作)・ ・・・・ ・・・・・・杉田一起
道家 弘恵 (劇団ポ イント 古参団員 )・・ ・・・・・・・・・飯坂美鶴妃
近江谷 幸次(劇団すっとこランド主宰)・・・・・・・・・・・白石幸雄
小津 晴子(劇 団すっと こラン ド所属女 優)・ ・・・ 野口萌花(学園座)
近藤 透(演劇集団ゴルロイス主宰)・中路輝(ゲキゲキ/劇団「劇団」)
古本 杏里(フリーライター)・・・・・・・・・・三鬼春奈(gallop)
黒須 孝泰(鰤天市文化政策局長兼イルミネーションシアター館長)松田裕一郎
江戸川 勤(イルミネーションシアター正規職員)・・・・・・・由良真介
瀬戸 主水(イルミネーションシアター 非正規職員)・・・・・・髭だるマン

 舞台監督:玉井秀和(劇団F A X) 
音響:島﨑健史(ドキドキぼーいず) 
照明:真田貴吉  
映像撮影・配信:竹崎博人(FlatBox)
衣裳:鈴木貴子 
フライヤーデザイン・写真:脇田友(スピカ)
演出助手:清水風花
制作:秋津ねを(ねをぱぁく) 
 
 出演者
飯坂美鶴妃、熊谷みずほ、斉藤ひかり、白石幸雄、杉田一起、中路輝(ゲキゲキ/劇団「劇団」)、野口萌花(学園座)、萬谷真之、三鬼春奈(gallop)、山岡美穂、髭だるマン(笑の内閣)、由良真介(笑の内閣)

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7月22−26日に上演した、マクラDEリア王のアフタートーク、全8ステージのゲストを8人分、全員一挙放送します。


22日19時 知乃氏(演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会 代表)
23日13時 山内良氏(Rプランニング代表・プロレス格闘技イベント企画者)
23日19時 東友美氏(町田市議会議員)
24日13時 小早川明子氏(NPO法人ヒューマニティ 理事長)
24日19時 福谷圭祐氏(匿名劇壇 主宰)
25日11時 松岡和子氏 (翻訳家・演劇評論家
25日16時 加賀賢三氏(映画監督)
26日13時 亀石倫子氏(弁護士)