下北沢通信

中西理の下北沢通信

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芸劇eyes番外編 vol.3『もしもし、こちら弱いい派 ─かそけき声を聴くために─』弱さを肯定する社会へ、演劇からの応答(2回目)@東京芸術劇場

芸劇eyes番外編 vol.3『もしもし、こちら弱いい派 ─かそけき声を聴くために─』弱さを肯定する社会へ、演劇からの応答(2回目)@東京芸術劇場

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「弱いい派」についてもう少し考えてみるためにまずはたたき台として、小劇場応援サイト『演劇最強論-ing』に執筆された徳永京子氏の文章の抜粋を引用する。 

不寛容さに抵抗する「弱いい派」
(略)
 この不寛容さ、身勝手な上から目線に対して、拳を振り上げて反対意見を唱えるのでなく、自らの弱さを肯定した上でそこにある価値をしなやかに示す作品を目にするようになってきたのが、この1、2年のことだ。具体的に名前を挙げると、贅沢貧乏、ゆうめい、範宙遊泳、コトリ会議、伊藤企画(現・やしゃご)などだが、昨年はそこにウンゲツィーファ、いいへんじが加わった。彼らの作品に私はことごとく揺さぶられ、そこに共通するのは何かと考えた結果、「弱くていいよね」「ささやかですが、何か?」と作品全体が問いかける作風だと、「弱いい派」と名付けた。弱者に寄り添う演劇はこれまでも、今も、あふれるほどあるが、寄り添う人たちが“当事者性”によって作品を成立させるとしたら、「弱いい派」は当事者の言葉と論理があり、それゆえの切実さと呑気さが流れている(1番大変な人がそれをわかっていないことは往々にしてある)。『現代演劇のダイナミズム展』の論考集に書いたことを、ここに少し引用する。
 「弱いい派」は糾弾や復讐、戦いではなく、毅然と、あるいは柔らかく、「弱いですけど、それが何か?」と問いかけて相手との関係をフラットにし、見下そう、切り捨てようとする先方を脱臼させる。立場は弱いと思われるのに、泣きも吠えもしない不戦勝の態度が「なぜそうしていられるんだろう?」と疑問を呼び、それが今の社会からすっかり失われてしまった想像力を押し広げるきっかけになればいい。“(震災)直後”よりも続く“その後”を生きていかなければならない私たちが、本当に戦わなければならないのはその時間であり、想像力はその長旅に耐える必須アイテムだからだ。
  大声で言ったもの勝ちの厚顔無恥が実例としてますます増えている今、「弱いい派」を観て命を永らえたい。
(徳永京子の2018年プレイバック)
www.engekisaikyoron.net

上記の文章の中で徳永は「弱いい派」について「具体的に名前を挙げると、贅沢貧乏、ゆうめい、範宙遊泳、コトリ会議、伊藤企画(現・やしゃご)などだが、昨年はそこにウンゲツィーファ、いいへんじが加わった」としており、今回の企画もそれに沿った内容なのであろう。 
徳永の文章を見る限りでは「弱いい派」というのは演劇のスタイルについての呼称ではないように思う。 「糾弾や復讐、戦いではなく、毅然と、あるいは柔らかく、『弱いですけど、それが何か?』と問いかけて相手との関係をフラットにし、見下そう、切り捨てようとする先方を脱臼させる」とあるが、これは一部の演劇表現にみられる傾向を超えて、ある種の人々の社会に対する姿勢そのものであって、そこで出てくる演劇にそういう傾向があるのは単にそれが社会への姿勢を反映しているからだけのような気がする。
 最初の観劇の感想でいいへんじ『薬をもらいにいく薬(序章)』については内容的にそういう定義が当てはまりそうだった。こうした主題を取り扱う演劇は伊藤毅のやしゃごをはじめ青年団周辺にいくつか現れている。
 一方でコトリ会議は直接社会にコミットすることなく、非日常的な世界を展開していくが、これも五反田団、うさぎストライプ、サンプル、ムニ(宮崎企画)など日常と非日常のあわいを描き出す演劇との関連をむしろ強く感じ、これらも現代口語演劇周辺で生まれてきている新たな動きには違いないとは思うが、これを「弱いい派」と切り取ることにはかなりの違和感を感じざるえないのだ。

参加団体・上演作品
いいへんじ
『薬をもらいにいく薬(序章)』
作・演出:中島梓

出演:飯尾朋花、小澤南穂子(以上、いいへんじ)、
遠藤雄斗、小見朋生(譜面絵画)、タナカエミ

声の出演:松浦みる(いいへんじ)、野木青依

音楽:野木青依、Vegetable Record


ウンゲツィーファ
Uber Boyz』

作・演出・出演:池田亮(ゆうめい)、金内健樹(盛夏火)、
金子鈴幸(コンプソンズ)、
黒澤多生(青年団)、中澤陽、
橋龍(ウンゲツィーファ)

音楽:額田大志(ヌトミック/東京塩麹


コトリ会議
『おみかんの明かり』
作・演出:山本正典

出演:牛嶋千佳、三ヶ日晩、原竹志、
まえかつと(以上、コトリ会議)

音源制作:佐藤武

協力:兵庫県立ピッコロ劇団


※五十音順

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