下北沢通信

中西理の下北沢通信

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文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

「犯人当て」的なミステリの論理を数学と対比させる構造を持つ連作短編集である。読後すぐに法月綸太郎麻耶雄嵩綾辻行人ら京大ミステリ研出身の作家たちの強い影響を受けていることが分かる。
各作品は「連続体仮説」「フェルマー最後の事件」など数学史上の有名な数学概念が表題になっているが、もちろん難解な数学の理論がそのまま作品の内容と関係するわけではなくて、数学概念はいわば比喩的に作品内容と関係するにすぎない。そういう意味ではこれはロジックというよりはガジェットあるいはレトリカルなものともいえるのだが、そもそもミステリにおいてのロジック(論理)とはそういう類のものであり、ミス研後輩でもある法月綸太郎氏が言い出したことで知られる「後期クイーンにおけるゲーデル問題」などというものもそういう類の比喩にすぎないわけだ。
 ただ、私にとって「文学少女対数学少女」が面白かったのはこの作品集が小説内「犯人当て」といういわば入れ子的なメタ構造を持ち込んでいること、そして、その「犯人当て」の内外で駆使されるさまざまなロジックやレトリックが何十年も以前の学生時代に毎日考えていたことを思い起こさせることになったからだ。
(続く)

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

陸/秋槎
1988年北京生まれ。復旦大学古籍研究所古典文学専攻修士課程修了。在学中は復旦大学推理協会に所属。2014年、雑誌『歳月・推理』の主催する第二回華文推理大奨賽(華文ミステリ大賞)で短篇「前奏曲」が最優秀新人賞を受賞。2018年に“読者への挑戦”が二度挟まれた本格ミステリ『元年春之祭』が小社より邦訳刊行され、“本屋大賞”翻訳小説部門第2位、“本格ミステリ・ベスト10”第3位、“このミステリーがすごい!”第4位ほか年末ベストテン企画上位を席捲し、高い評価を得る

稲村/文吾
早稲田大学政治経済学部卒、中国語文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。

内容(「BOOK」データベースより)

高校2年生の“文学少女”陸秋槎は自作の推理小説をきっかけに、孤高の天才“数学少女”韓采蘆と出逢う。彼女は作者の陸さえ予想だにしない真相を導き出して…“犯人当て”をめぐる論理の探求「連続体仮説」、数学史上最大の難問を小説化してしまう「フェルマー最後の事件」のほか、ふたりが出逢う様々な謎とともに新たな作中作が提示されていく全4篇の連作集。華文青春本格ミステリの新たなる傑作! --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています<<。