下北沢通信

中西理の下北沢通信

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スタイリッシュな演出魅力的だが、今回は筋立てにやや疑問も 幻灯劇場「盲年」@こまばアゴラ劇場

幻灯劇場「盲年」@こまばアゴラ劇場

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幻灯劇場は以前から気にはなっていたが、観劇したのは初めてである。初観劇の印象はこういう感じなのかであった。映像の使い方やダンスの入れ方、空間づかいなどはスタイリッシュで面白いのだが、「盲年」という作品は物語の筋立てがどうも不自然。「なぜこんな風なのか」と不思議に思い、思案してしまったが、俊徳丸を下敷きにしているということのようだ。符には落ちたが、なぜ俊徳丸なのかがどうもピンとはこない。三島由紀夫の「近代能楽集」なのか、あるいは蜷川幸雄演出の「俊徳丸」なのか。どうも分からないが、その辺りがこの古典に挑戦したきっかけなのかもしれない。 
 他にも女刑事と容疑者のやりとりがいかにもつかこうへいの「熱海殺人事件」を連想させたり、この劇作家・演出家は演劇が好きなんだなと思わせるところがあり、彼と同世代の東京の若手作家に既存の演劇に懐疑的な作風の作家が多いのと比較すると明らかに違いがあるのが興味深い。
 ただ、今回見た作品「盲年」は古典の下敷きがあるということを差し引いても正直言って現代劇としてはリアリティーに欠いた筋立てだったということは否定できない。妻の不倫に対する代償だとしても自分の息子の眼を抉って盲目にしてしまうという筋立ては歌舞伎やギリシア悲劇ならともかく、実際にあった出来事とは思いにくいし、観客としても実感を持ってのリアルな受容は困難なのではないかとどうしても思ってしまう。ミステリのトリックとしてならともかく震災のどさくさに紛れて人を殺したと言い張る殺人容疑者というのも現代劇としては違和感を感じるし、こうした「普通」を超えた悲劇的な出来事を力技で観客に納得させるためにはギリシア悲劇シェイクスピア劇のような強固な様式性が必要なのではないか。
 ダンスや映像の使い方など個別演出的要素には斬新さがあると思うので、それが表現される演劇の内容と嚙み合った時には相当以上の傑作が生まれるかもしれないという可能性は十分に感じるため別の作品も見てみたいと感じた。

作・演出:藤井颯太郎 振付:本城祐哉・村上亮太朗

【あらすじ】
地下鉄のホームで電車を待っていた裁判官・徳丸透(トクマル トオル)は、15年前に捨てた息子・春(シュン)が向かいのホームに立っているのをみつける。春の眼が見えないことに気が付いた透は、赤の他人を装い近づき、「一緒に住まないか」と誘う。一度破綻した親子の、二人暮らしが再びはじまる――。


【作家のコメント】
この物語を書いているとき、少し自分が怖くなった。紛れもなく自分から出てきたはずの登場人物や言葉が、自分の中の倫理観を力強く壊していくのを感じた。それでも、この物語に登場する全員が、いとおしく、身近に感じられたので、怖がりながら最後まで書き続けた。ホラーではありません。あなたの身近な人のお話です。
藤井颯太郎

幻灯劇場
映像作家や俳優、ダンサー、写真家などジャンルを超えた作家が集まり、「祈り」と「遊び」をテーマに創作をする演劇集団。2017年文化庁文化交流事業として大韓民国演劇祭へ招致され『56db』を製作、上演。韓国紙にて「息が止まる、沈黙のサーカス」と評され高い評価を得るなど、国内外で挑戦的な作品を発表し続けている。
日本の演劇シーンで活躍する人材を育てることを目的に京都に新設された『U30支援プログラム』に採択され、2018年ー2022年まで京都府立文化芸術会館などと協働しながら作品を発表していく。




出演
村上亮太朗、橘カレン、松本真依、鳩川七海、本城祐哉、谷風作、藤井颯太郎

スタッフ
衣裳 杉山沙織
音響 三橋琢
映像 月原康智(ジョッガ)
美術 野村善文
照明 渡辺佳奈
舞台監督 浜村修司
宣伝美術 三牧広宜・橘カレン
宣材撮影 松本真依
制作統括 谷風作
制作協力 黒澤たける・谷口祐
機材協力 Kyoto.lighting
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:黒澤多生(アゴラ企画)
制作協力:蜂巣もも(アゴラ企画)