下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ダンスと語り 二人一役演出でゲーテ「ファウスト」劇化 ダンスカンパニーデペイズマンファウスト2作 国際共同制作公演 「#FAFAFA - ファウスト」@こまばアゴラ劇場

ダンスカンパニーデペイズマンファウスト2作 国際共同制作公演「#FAFAFA - ファウスト」@こまばアゴラ劇場


木皮成が率いるダンスカンパニーデペイズマンゲーテの「ファウスト」を原案に舞台作品化したのが「#FAFAFA - ファウストだ。全体として二部作構成となっているが、そのうち第一部を原作としたのがこの日上演された「#FAFAFA - ファウスト」であり、第二部を原作とした一人芝居「Like Dream and Dreams (ゆめみたい)」と対となる構成となっている。
ダンスシアターとしてはメフィストフェレスファウストマルガリータ(グレートヒェン)の三役がいずれも台詞を朗々と発話するパフォーマーと動きを担当するダンサーの二人一役になっていて、音楽と言葉で作品の筋立てを構築していくDJ役の丹野武蔵がリアルタイムで絡んでいく三重の構造となっている。これは明らかに宮城聰(SPAC)がク・ナウカ時代に編み出した演出手法を踏襲したものと思われるが、この両者には言葉は発しないがマイム的な演劇表現を行いスピーカーと対峙する宮城作品のムーバーに対して、音楽や発話とシンクロしながら踊るダンサーがそこに置かれることで、音楽、発話、ダンスのそれぞれの時間軸での関係がより密接かつタイトなものとなっているように見えた。
 この作品は元来は第一部は木皮成が作品化、国際共同制作として第二部は海外の演出家が制作することを構想したものであったため、ワークイン・レジスタンスを行った和歌山県で行った試演会的な性格の初演では、映像を見る限りはよりノンバーバルな表現を重視したものとなっていたが、今回のこまばアゴラ劇場での上演を前に大幅に改作。より、演劇的な要素が色濃い作品に仕上がった。
 老ファウストならびにファウストの声を担当した萩原亮介[文学座]をはじめスピーカーにはベテランで語りの技術がある俳優を起用した手堅い配役ではあったが、パフォーマーでは動きを担当したダンサー三人がよかった。
 ダンスにおけるムーブメントは木皮がもともと得意とするストリートダンス系の動き、モダンバレエの動き、コンテンポラリーダンス的な動きを取り混ぜたものとなっている。
 特にヒロインのグレーテヒェンを演じた渡邉未有がバレエの技法に加え、天井から垂らされた赤い布を活用してのアクロバティックな振り付けなども取り入れ、可憐なヒロインを印象的に演じた。一方、若きファウスト役を女性ダンサーの高下七海が演じたキャスティングも魅力的であった。

原作:ゲーテ
「#FAFAFA - ファウスト」構成・演出・振付・映像:木皮成  音楽:丹野武蔵
「Like Dream and Dreams (ゆめみたい)」構成・演出・振付・映像:木皮成 ドラマトゥルグ:キム・ヒジン

ダンスカンパニーデペイズマン、「ファウスト」をモチーフに国際共同制作。

世界は大きな転換期で、社会の問題をあげればキリがありません。
でも私たちは孤独に生きていくことはできません。
世界との繋がりを閉ざすことはできないのだと思います。

ゲーテ著の「ファウスト」は、人間とは何かを描いている物語です。

国外のアーティストと「人間」についてひたすら話し合って創作した本作は、
1作は舞踊劇、もう1作はSF作品となりました。

この2つの作品は混ざり合い、こまばアゴラ劇場が世界の分岐点となるのです。

ダンスカンパニーデペイズマン
2016年、東南アジアを拠点に活動していた木皮成により設立。
名の由来は、シュールレアリスムの表現方法 Dépaysement (異郷の地へ送る)から。
形而超学、空想科学(パタフィジカル)を劇場構造に昇華する独自のダンス作品(パタフィジカル)を発表している。
また、世界のアーティストと積極的なコラボレーションを行っている。
22年より、和歌山県と東京の2拠点での創作活動を開始。


5カ国共同制作公演 「MOON CHILD」撮影:Bozzo /2020年

出演
「#FAFAFA - ファウスト
萩原亮介[文学座]、高下七海、大間知 賢哉、岡本陽介[FUKAIPRODUCE羽衣]、永山香月、渡邉未有[CAT-A-TAC]、田中真之

「Like Dream and Dreams (ゆめみたい)」
長谷川優貴[エンニュイ/クレオパトラ]

スタッフ
演出助手 根本和歌菜
舞台監督 石橋侑紀(シラカン)
衣装 土田寛也
照明 松本永(eimatsumoto Co.Ltd.)
制作 大間知賢哉
制作協力 黒澤たける
記録撮影 金子愛帆
記録映像 中居崇
フライヤーデザイン 木皮成