下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ガマの中の6人で描いた沖縄戦の縮図 劇団チョコレートケーキ「ガマ(新作)」@東京芸術劇場

劇団チョコレートケーキ「ガマ(新作)」@東京芸術劇場


「ガマ」劇団チョコレートケーキの戦争劇6作品連続上演の最後を飾る作品で唯一の新作である。ほかの作品が対米参戦、南京事件朝鮮半島の支配など世界史上の大きな節目ともいえそうな歴史的な事件をダイナミックかつ俯瞰的に描いていたのに対して、この作品は多くの死者が出た悲惨極まりない沖縄戦がモチーフとはいえ、あるガマ(沖縄県沖縄本島南部に多く見られる自然洞窟)の中で起こったかもしれない出来事を一場劇として描いた群像会話劇となっている。
 「ガマ」にいるのは米軍の攻撃から逃れてここに偶然集まり、居合わせることになった人々だ。ひめゆり学徒の女学生である安里(清水緑)、鉄血勤皇隊に動員された県立一中を引率していた教員の山城(西尾友樹)、防衛隊の知念(大和田獏)、戦闘で足に重傷を負った日本軍将校・東(岡本篤)、どうやら特殊任務を担っているらしい二人の兵士(浅井伸治、青木柳葉魚)の6人が、このガマに逃げ込み、身を寄せている。
 米軍に包囲されつつあるこの場所において、彼らにはどのような選択肢が可能なのか。それぞれの本音はすぐにはあからさまにされることはない。皆米軍と対峙する運命共同体とはいえその意図はばらばらであり、それぞれ違う腹を持ちながらここに一緒にいるのだ。
 そして、この作品が興味深いのはこの6人の登場人物がある意味、地元沖縄の民間人と日本軍がそれぞれこの戦争について異なる説明をされており、それを利用して軍が沖縄の人の玉砕を前提に本土での戦闘を出来る限り遅らせようと考えている。いわば沖縄は日本にとっての捨て石に過ぎないのに皇民教育の徹底により、この物語に登場する女学生のように自分たちは天皇陛下の臣民の先兵だと考えているところ。このことは将校である東にとっては自明の前提であり、この物語の後半で名誉の自決を計ろうという女学生に対し、言い聞かせるように話し続けるが、この戦闘で亡くなった友の死を意味のない死としないためにそうした説明は断じて認めることはできないと涙ながらにそれを否定する。
 一方で沖縄戦で教え子を失った教員の山城は生徒らを戦地に行かせ守れなかったことの自責の念を感じ、そこで安里と出会うことで自分自身はどうなったとしても彼女だけは死なせてはならないと決意する。
 この種の物語の中で一番稀な人物が将校の東。こちらも部下を失い、自らが率いた部隊を全滅させたことを苦に一度は自決を計ろうとしたが、最後は軍人でありながら沖縄の人たちに寄り添う立場に立ち、現地の人から多数の犠牲者がでることが必至の地元民を指導しゲリラ戦を行おうとしていた兵士らの作戦行動を妨害するという手段にまでうってでる。
 実際にこういう人物がいた可能性があるのかについては当時の平均的な軍人像から大きく逸脱しているため、疑問が残るところではあるが、こういう人物をあえて登場させたのは沖縄を捨て石にするという発想がこの沖縄戦から何十年も経った現代の沖縄の米軍基地を巡る政府の態度などを見てもなにも変わらないのではないかという思いが作者の古川健にはあるからではないかと感じたのである。

太平洋戦争最大にして最悪の地上戦「沖縄戦
激戦地首里から数キロ北にそのガマはあった。

【出演】
浅井伸治、岡本 篤、西尾友樹(以上、劇団チョコレートケーキ)
青木柳葉魚(タテヨコ企画)/清水 緑/大和田獏