下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

革命アイドル暴走ちゃん

 革命アイドル暴走ちゃんアジアツアー2015「Rebirth オーストラリア凱旋ver.」(構成・音楽・演出 二階堂瞳子)と題する公演が2015年10月28日〜11月1日の豊島区・東池袋の公立劇場「あうるすぽっと」で行われ、その初日(28日)を観劇した。
 隊列を組んで舞い踊る総勢40人超のパフォーマーの歌とダンスによる喧騒。映像と照明効果による光のシャワー、舞台のあちらこちらから飛んでくる水やワカメの濁流。全身がずぶぬれになるなかで思わず興奮しその自由奔放さを大いに楽しんだ。ただこの公演がいつもの暴走ちゃんの公演と少し違ったのはそうした内容ではないのにもかかわらず舞台の最後の方では心ならずも熱いものが込みあげてきた。
 これは舞台芸術鑑賞の姿勢としては正しくないかもしれない。しかしこの舞台が始まる前に主宰の二階堂瞳子が何度も何度も繰り返すように「私たちは一度地獄に落ちたが、ついに池袋の公立劇場に帰ってきた」と連呼していたこと。さらに作品後半にアマンダ・ワデルが英語の歌を絶唱する背後に「二階堂瞳子 大逆襲」の文字プラカードが踊っていたこと。ここにぶつけた二階堂の気持ちの並々ならぬ思いに共感して「革命アイドル」と名乗る集団を応援する存在となり思わず込みあげてくるものがあって眼鏡をはずして目頭をぬぐわずにはいられなかったのだ。
 公式サイトでは革命アイドル暴走ちゃんを「2013 年 4 月、主宰の二階堂瞳子が旗揚げ。同年 8 月にはスイス・チューリッヒ、オランダ・グローニンゲン、ドイツ・ハンブルクから の招へいを受け、欧州3 カ国ツアーにて活動をスタート。日本独自に生まれたヲタク文化をアートに転化した作品を創作する。(中略)基本的には終始、日本のサブカルチャーやアニメソング、アイドルソングが轟音鳴り響く中、踊り続ける事で統制されたカオス空間を作り出す事にある」と書いている。
 しかし、この紹介には実は意図的な脱落がある。暴走ちゃんにはバナナ学園純情乙女組という前身となる集団があり、これはおそらくファンなら誰もが知っていることだが、公演中に引き起こされた事件をきっかけに解散を決めたこともあり、過去のこの事件のことは革命アイドル暴走ちゃん最大のタブーとしてホームページでも触れられることはない。しかも事件は東京都が主催するフェスティバル/トーキョー12(F/T12)の「公募プログラム」枠への参加が決まった直後に起き、「参加取消し」が、F/Tのホームページ上で発表された後バナナ学園は解散を決めた。
 実はその半年前の2011年の年間回顧で私は次のように書いた。ポストゼロ年代の新たな世代では京都で初めてそのライブを目の当たりにしたバナナ学園純情乙女組「バナ学バトル★★熱血スポ根秋の大運動会!!!!」も同時多発的でカオス的に展開されていくオタ芸風パフォーマンスは「いま・ここで」ならではの魅力を感じさせ、マームとジプシーとは対極的ながらも決して引けをとらない衝撃力があった。身体表現と映像を駆使して「オタク的」なイメージが奔流のように飛び込んでくるスタイルのインパクトは大きく、近い将来クールジャパンのキラーコンテンツとして海外を含めブレークするだろうとの確信を抱いた。これを1位に置いても構わないのだけれど、「果たして演劇として評価すべきものなのか」、むしろジャンルで言ったらももいろクローバーZとかのが近いんじゃないかという若干の躊躇とそれでもはずすのにしのびないとのジレンマから苦渋の選択でとりあえずこの順位に置いた。逆に言えば演劇ベストアクトとかではなく、現代アートとしての可能性ならこれがダントツ上位かもしれない。
 バナナ学園の作風は「モーニング娘。PerfumeAKB48ももいろクローバーZ、でんぱ組inc.などに代表されるようなアイドルソング、そこから発生したオタ芸的なもの、アニメやボカロ(初音ミク)のコスプレなどさまざまな要素をごった煮的に盛り込んで、ジャンルボーダレスなカオスとして展開する。演劇の要素はかなり強くはあり、パフォーマンスないしは舞台芸術に分類されることも多いが演劇だという風に簡単にいいきるにははばかられるようなところがあり、私自身は村上隆から最近ではカオスラウンジに代表されるように日本カルチャーのオタク的要素をアート的に展開していくというものだが、この作風は革命アイドル暴走ちゃんとなった後もほぼ引き継がれている。
 私はアイドル全般にはそんなに精通しているわけではないがここ数年演劇批評活動のほかにももいろクローバーZのファン(モノノフと呼ばれる)としての活動も続けており、それを通じてアイドルにはどのアイドルにもそのアイドルだけの物語があるというのを知った。ももクロの場合であれば早見あかりの脱退、ももいろクローバーZへの名称変更などが、それにあたるが、アイドルとして暴走ちゃんはその前身であるバナナ学園のことやそれが解散せざるをえなかった経緯などをファンと一緒に共有しており、ももクロにメンバーと早見が交わした紅白歌合戦での再会の約束があるように、暴走ちゃんはこの池袋の公共劇場にどうしても帰ってこなければならない理由があった。そして、私はこの日その瞬間を目撃したわけだが公演名とした「Rebirth」つまり「再び生まれる」という言葉のように「これからがスタートだ」と宣言した二階堂の言葉通り、ここからどんな快進撃が再び始まるかの目撃者となっていたいと思い、それこそが「アイドルファン」としてのあるべき姿だと考えたのだ。 




 。